イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘開始から4月7日で半年となる。いまだ終結の見通しは見えず、ガザ地区の死者は3万人を超えた。物価は10倍になり、空爆での負傷者は絶えず、ガザ地区内の現状は悪化の一途をたどっている。

ガザ地区の病院などで国境なき医師団の看護師として支援活動を行った倉之段千恵さんに、現地の現状について聞いた。

空爆「日夜問わずずっと…がれきがそこら中に」

ガザ地区での1カ月間の支援活動を終えた倉之段さんは、3月27日、エジプトの首都カイロでリモートでの取材に応じてくれた。

「ガザ地区から離れて、たった1日しか経ってないんですけれど、本当に現実だったのかなって思えるくらい落差が激しく、でもその現実を毎日のように過ごしている人々がいるんだっていうことを伝えたい」。倉之段さんは力強く語った。

エジプト・カイロでリモートでの取材に応じてくれた倉之段千恵さん
エジプト・カイロでリモートでの取材に応じてくれた倉之段千恵さん
この記事の画像(7枚)

倉之段さんは、ガザ地区中部デイルアルバラにあるアクサ病院などで2月27日から3月26日まで国境なき医師団の看護師として支援活動を行った。

イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘は北部や南部だけでなく、倉之段さんがいた中部周辺でも続いていたという。

ガザ地区中部デイルアルバラにあるアクサ病院などで国境なき医師団の看護師として支援活動を行った
ガザ地区中部デイルアルバラにあるアクサ病院などで国境なき医師団の看護師として支援活動を行った

「もうほとんどフロントライン(戦闘の最前線)、もう間近のところなので騒がしい場所でした。24時間ずっとドローンは上で旋回してますし、戦車からの砲弾の音もよく聞こえていました。空爆も日夜問わずにずっとありましたし、今まであった建物が一瞬にして崩壊し、がれきがそこら中にある感じです」

怪我は尋常じゃないくらい酷く、病院はパンク状態

まさに戦闘が行われている中での支援活動で、倉之段さんは病院で手術室のサポートや包帯交換、傷の消毒、また栄養失調の患者のケアなどを行っていた。しかし、命の危険にさらされている感覚がなかったという。

「一緒に働いている現地のスタッフの人たちが、どんなにうるさい音が鳴ってても、空爆がすごい近くで落ちても動じずに普通に仕事をしている姿を見たりとか、北部から避難してきた人の過酷な経験をした話を聞くと、空爆が聞こえててもうろうろしたりとか恐怖を感じたりという感情が私の中で隠れてしまっていました」

かつてほど医療物資が不足していることはなかったというが、ひっきりなしの空爆により病院は患者で溢れかえっていたという。さらに毎日60~70人の負傷した市民が運び込まれるなどしていた。

ガザ地区中部・アクサ病院
ガザ地区中部・アクサ病院

「アクサ病院はもともと200床の病院なんですけれども私が働いている時は600人以上の患者さんがいて、パンク状態でした。さらに毎日のように空爆とかで患者さんが何十人も運ばれてきていましたが、怪我が尋常じゃないくらいひどくて、とても回りきらない状態だった」

「病院の中でもちょっとした隙間に北部から避難してきた人たちの簡易テントはできていたりして、隙間さえあれば避難者を受け入れていていました。病院の中は患者さんでいっぱいでベッドはもちろんないので、床にそのまま寝ています」

支援物資を積んだトラックには銃を持った警備員

ガザ地区への支援物資の量は足りておらず、食糧不足はかなり深刻だという。市場にある食料は高くて買えず、唯一市民が手を出せるパンに殺到していて、違った意味での戦争状態だったと倉之段さんは話す。

ガザ地区中部デイルアルバラ
ガザ地区中部デイルアルバラ

「栄養不足はかなり深刻になってきていて、マーケットに食料は並んでいるんですけれど、価格が以前の十倍になっていて、とても手が出せないような値段になっています」

「パンは結構、リーズナブルの値段なので買えるんですけれど、皆さん押しつぶされそうなぐらい並んでいます。パン屋さんの前は違った意味での戦争状態です」

ガザ地区内で支援物資を積んだトラックが戦闘地域を通ることが許されないこともあるため、最近は各国による支援物資の空中投下も始まった。しかし、その物資が必要されている市民に行き渡っていないのが現実だ。

ガザ地区中部・アクサ病院
ガザ地区中部・アクサ病院

「段々と日が経つと支援物資が空から投下されることが結構多くなりましたけれども、数が限られています。また支援物資は大体、海に落とすんですけれど、海側で配布が終わっちゃうので、内陸部の方にはなかなか流れてこない」

「一方、トラックで支援物資を運んでも、そのトラックが狙い撃ちにされるとか、そういう違う感じのいさかいとかも起こり始めているようでした」

ガザ地区南部ラファで撮影された支援物資を積んだトラック。荷台には銃を持った“警備員”が確認できる。
ガザ地区南部ラファで撮影された支援物資を積んだトラック。荷台には銃を持った“警備員”が確認できる。

そのため、ガザ地区内の映像では、支援物資を積んだトラックに銃を持った“警備員”が立つ様子が確認できるなど、支援する側も警戒しなければいけない状況だ。

市民は終わらない戦闘が終わることを願っている

まもなく戦闘開始から6カ月が経とうとしている今も、戦闘休止に向けた交渉は合意する目処は立っていない。

「現地の人たちがまだ受け止めきれていないような大きさの戦争で、市民はこの終わりの見えない攻撃されている状態が終わるのを切実に願っていました」

イスラエルとハマスの戦闘により、罪のないガサ地区の市民も巻き込まれ、市民が支援物資を奪い合い、罪のない子供たちが栄養失調に陥いる、この負の連鎖は今も続いている。
(FNNイスタンブール支局長 加藤崇)

加藤崇
加藤崇