景気は「山」と「谷」を繰り返す

景気は、2018年秋に後退局面に入っていたのか。

内閣府は、判定を行う専門家の研究会を近く開く方向だ。今回の景気拡大は2012年12月から始まる。これがいつまでなのか、「戦後最長」を更新したのかが注目点だった。

景気は、良くなったり悪くなったりを波のように繰り返す。景気が底を打つ時点を「景気の谷」、好景気のピークを「景気の山」といい、谷から山、山から谷への局面が交互にやって来る。景気循環と呼ばれるもので、景気が「谷」から「山」に向かう期間が「景気拡大」期、「山」から「谷」へと道筋をたどる期間が「景気後退」期にあたる。

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判定には時間がかかる

「山」や「谷」がどの時点だったのかは、内閣府が、経済学者など専門家で構成する「景気動向指数研究会」を開いて、認定する。研究会では、生産・販売や雇用など9つの指標の動きをみるなどするが、長期的な傾向をとらえるため、判断するまでには、時間がかかる。

「景気後退」とみなすには、経済活動の収縮の波及度合いなどを確認する必要がある。

前回、この研究会が開かれたのは、2018年12月で、1年余り前の2017年9月までは、景気拡大が続いていたことを確認した。その結果、2012年12月からの少なくとも4年10か月間は、景気拡大が継続し、高度成長期の「いざなぎ景気」の4年9か月を抜いて、「戦後2番目」の長さになったことが認定された。

「戦後最長」の景気拡大は幻か

その後、焦点は「戦後最長」を達成するかに移った。これまで、戦後最長だった景気拡大は、2002年2月からリーマンショック前の2008年2月までの6年1か月だ。だから、今回の景気拡大が2019年1月まで続けば、2012年12月からの期間は6年2か月となり、「戦後最長」が更新されることになる。

政府は、2019年1月の月例経済報告で、個人消費の持ち直しや設備投資の増加が続いているとして、「景気は緩やかに回復している」というそれまでの判断を維持した。

そして、当時の茂木経済再生相は、景気拡大がこの月まで6年2か月間続いた可能性があるとして、「戦後最長になったとみられる」との認識を示していた。

一方で、このときの報告は、米中貿易摩擦が激しくなるなか、輸出について、アジア向けが鈍化したことを受け、「このところ弱含んでいる」と3か月ぶりに表現を下方修正するなど、頼りの世界経済に陰りがみられるとする内容だった。

景気の「山」は2018年10月だった?

専門家の間では、輸出や生産の停滞感が強まっていた2018年10月に、景気は「山」を迎えていたとの観測が強まっている。2019年10月の消費増税を経たあと、新型コロナウイルスの影響が後退局面に追い打ちをかけたーそうした見方が広がる。

日本経済研究センターが7月9日に発表した民間エコノミストの予測の集計では、景気の転換点について回答した34人全員が「すでに景気の山は過ぎた」、つまり、「景気後退に入っている」と答え、うち21人が「景気の山」は「2018年10月」だったとしている。

この月に景気は「山」を迎えていたと内閣府の研究会が認定すれば、拡大期間は5年11か月となり、戦後最長の6年1か月には届かないことになる。

「実感なき拡大」のあとの景気底入れは

「戦後2番目」の長さにとどまる可能性が高まっている今回の景気拡大は、成長率が「戦後最長」期を下回ると試算されている。実質賃金の伸びもマイナスで、「実感なき景気拡大」だったと言えそうだ。感染拡大が止まらないなか、国内景気はさらなる打撃を受け続けている。収束が見えない状況で、景気の底入れをどう実現していくのか、予断を許さない局面が続く。

【執筆:フジテレビ解説委員・サーティファイド ファイナンシャル プランナー(CFP)智田裕一】
【表紙デザイン+図解イラスト:さいとうひさし】

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員