「虹の松原」で松の木が折れ、幼い子が乗る車に落下

バースデーケーキを前に愛くるしい表情を見せる男の子…

仲村健太郎記者:
明るい性格だったという男の子をしのんで、現場にはヒマワリの風車が手向けられています

幼い男の子の命を奪ったのは、全国でも有数の景勝地で倒れた1本の松だった。

事故から1年。
遺族が取材に応じた。

長男を亡くした遺族:
松の木に自分の子どもを殺されたようなものだから…。もうちょっと重く受け止めてはほしいですね

傷が癒えぬまま募るのは、もどかしい思い。
なぜなら…。

唐津市の担当者:
200本以上の、まだまだ危険な松が残っている

佐賀・唐津市にある「虹の松原」。
約100万本の松が群生し、国の「特別名勝」に指定されているこの景勝地で1年前、痛ましい事故が起きた。

長男を亡くした川崎明日香さん:
もういきなりド~ンみたいな感じで、上から衝撃みたいな。隣を見たら、子どものところも木が乗ってて、声かけたりとかず~っと呼びよったけど返事せんし…

唐津市の川崎明日香さん。
2019年7月の夜、松原を貫く県道を走行中、道路側にせり出した松の木が折れ車に落ちてきたという。

長男を亡くした川崎明日香さん:
車を見てもわかるように、バンパーも全然崩れてないし、エアバッグも出てないし、(上から突き刺さってきたという)本当、そんな感じですね

助手席には、長男の辿皇くんが乗っていた。
救助にあたった医師から告げられたのは…。

長男を亡くした川崎明日香さん:
「治療目的の搬送はないと思っとってください」みたいな感じで言われて、元々、介護してたんで言葉の意味とかもわかるけんが、あ~ダメやったとね、みたいな感じで

樹木医が松を診断 200本以上に倒木の危険性が

今も変わらずたくさんの車が行き交う。
変化といえば、倒木に注意を呼び掛ける看板が多少増えただろうか。

現場の道路を管理する県の担当者は。

佐賀県唐津土木事務所・田中繁之副所長:
これが伐採した松のうちの1本

県は事故直後、危険度が高いと判断した道路沿いの松29本を緊急に伐採していた。
そして、安全対策をさらに進めるため、2020年3月にも道路沿いの松を切り落としたという。

佐賀県唐津土木事務所・田中繁之副所長:
県で樹木医に松の評価をしてもらった。5段階評価の中でA~Eまで。Eの方は、倒木の危険性が高いという評価となっている

ーーそれがどのぐらいあった?

佐賀県唐津土木事務所・田中繁之副所長:
226本がE評価という診断でした

道路沿いの松を診断したところ、倒木の危険性が非常に高い松が、実に226本にのぼった。

だが、そのうち3月に伐採されたのはわずか13本。
つまり、213本がそれ以降、危険な状態のまま残されてきたのだ。

ーー今後は、213本は伐採しない?

佐賀県唐津土木事務所・田中繁之副所長:
あとは市の許可を出す側が、どういう判断なさるかということですので

県道の安全を確保するため伐採を進めたい県だったが、松を切り落とすには文化財保護法上唐津市の許可が必要だった。
市の担当者は…

ーー13本にしたのは?

唐津市経済観光部・畔田浩貴部長:
E評価の中でも、とりわけ伐採をしないと解決できないとか、事故を起こした松と酷似している状態をやろうと選りすぐられたのが13本でした

松の保全と安全対策で揺れる唐津の"宝" 議論は停滞

その時、集まった市民の中には伐採に難色を示す人もいたという。

唐津市経済観光部・畔田浩貴部長:
文化財でありながらも、虹の松原の松は、市民の思いと期待がものすごく深いので、(市民との)会議では13本についても、やはりもう一度調査をして本当に13本でいいのか、切らなくても1本でも松があったら、それはいかんのではないかと慎重論が出たのも確か

虹の松原は、富士山や兼六園などと同じ、国の特別名勝で唐津の「宝」。
その歴史や景観に誇りを持つ市民も少なくない。
この日も、松原の一角では保全活動が行われていた。

市民:
これはもう後世までずっと残さないかん。こんだけの松原は、まず日本中を探しても、ないから

市民:
ひとつのシンボルですね。日常に溶け込んでる、あって当たり前。それをちょっと変わるのがイヤとか少しぐらい変わっていいと言う人がいるのは当然

唐津の宝をできるだけそのまま残したいという声もあり、残る危険な松に関する議論は停滞。
コロナの影響もあり、3月以降、住民との会合は開かれていない。

唐津市経済観光部・畔田浩貴部長:
安全と被害に遭った方のことも思うと、早く道筋を付けなければならない

現状、213本の松については目視点検の強化といった対応に留まっているという。

長男を亡くした川崎明日香さん:
少しでも減ってるのはいいとは思うが、できれば危ないといわれてる木は全部切ってもらいたいし、13本切られる時も8カ月かかって、やっと13本だったし…。歴史とか景観とか言われるけど、残りの200何十本切ったところで、ほんと全体のごく一部。自分の身内とかで同じことがあっても切らないで、とか言えるとかなと思って

自由に散策もできる虹の松原。
危険な松は、道路沿いの213本だけではなかった。

地元住民:
きのうの昼ぐらいに、その辺でバキバキ~と聞こえた。

ーーこんな下から折れるんですね。風が強かった?

地元住民:
いや、きのうは風吹いてないですよ。ここが腐ってるんですよね。重みに耐えれんで倒れた

松原の「保全」と「安全」の両立という難題は、その全体に重くのしかかかっている。

(テレビ西日本)