福岡市の中心部に位置する旧家庭裁判所には、「『お宝』が眠っている」という噂がある。今回、特別な許可を得て、建物、及び敷地内に入った取材班。眠っている「お宝」とは何なのだろうか?
6年ぶりに旧家庭裁判所の中へ
取材班に同行するのは、“家裁に眠る「お宝」”に強い思い入れがあるという弁護士の知名健太郎定信さん。知名さんは非行少年の更生などに力を入れている。
この記事の画像(18枚)家庭裁判所が福岡市中央区の六本松に移転して以来、6年ぶりに中へ入るという。
知名弁護士「久々に入ります。昔はここで少年事件をやっていた。すごいな。まさか今入れるとは」
記者「そのまま残ってるんですね」
知名弁護士「思ったより全然きれい。がらんとは、してますけど」
旧家庭裁判所は、高級ホテル「インターコンチネンタルホテル&リゾーツ」を核とした、23階建ての複合施設に生まれ変わる予定になっている。
法廷の面影が残る部屋もある中、知名さんが真っ先に足を運んだのが、少年審判廷だ。
少年審判廷には、段差がなく、正面に座った裁判官と少年が同じ目線の高さになる。威圧感がないということが大事なのだという。弁護士として関わってきた少年たちとの記憶を呼び起こす、ある意味、特別な場所だった。
知名健太郎定信・弁護士:
その中で、いろいろ涙があったり、親に対して普段言えないことを言葉にして伝えたり、いろいろなドラマがあった場所なんで、懐かしいですね
「お宝」は人気漫画に関係?
知名弁護士によると、“家裁に眠るお宝”は、建物の中ではなく、外にあるという。
「これが気になっていたんです」とマンホールを指差す知名弁護士。“家裁の「お宝」”はまさか、マンホールなのか?
知名弁護士「この文字がすごく意味があるんです。何て書いてあります?」
記者「『家裁』ですよね」
知名弁護士「これ、実は漢字が違うんですよ。家裁の【裁】は、裁判の【裁】なんですけど、違いますよね?」
記者「あっ、下の部分が【衣】じゃなくて【木】になってる!」
知名弁護士「それが重要なんですよ」
この「家栽」といえば、家庭裁判所の裁判官が主人公の漫画「家栽の人」。テレビドラマ化もされた人気シリーズだが、知名弁護士は、この漫画の大ファンで「家栽の人」がきっかけで弁護士を志したという。
知名健太郎定信・弁護士:
あえて、栽培の【栽】をタイトルに使ってて、植物に例えて人間の成長を見守るヒューマンストーリー。「家栽の人」世代と言っていい人間なんで、僕らにとっては、この文字が本物の裁判所に使われていることにすごく意味があるんですよ
「家栽マンホール」はなぜ作られた?
なぜ「家栽」マンホールが作られたのか?製造を手がけた福岡・新宮町の「瀬戸製作所」に経緯を聞いた。
「瀬戸製作所」瀬戸浩嗣・社長:
経緯と言われると困るんですけど…、単なる間違いです
間違い…!?
「家栽マンホール」が作られたのは、漫画の連載よりもさらに古い50年ほど前。当時はまだ手作業で鋳型の文字盤を作っていたという。「その時に字が違っていたんだろう」と瀬戸社長は話す。
手違いで生まれたマンホールが、名作漫画の存在で「お宝」に変わったのだ。けれど知名弁護士は「家庭裁判所のあるべき姿は、栽培の【栽】」だと改めて話す。
知名健太郎定信・弁護士:
ただ裁くだけじゃなくて、育てることが大事という意味では偶然の一致としても面白い
どうにかこのマンホールを保存したい
マンホールは、建物が取り壊される時に破棄されてしまう可能性がある。何とかして保存できないか考えている知名弁護士に、千載一遇のチャンスが訪れた。
旧家裁跡地は国有地だったが、再開発の公売で野村不動産などの企業グループが落札。マンホールの所有権も国から民間に移ったのだ。そこで知名弁護士は担当者に直接、思いを伝えるべくこの場所を訪れていたという。
知名健太郎定信・弁護士:
このマンホールが前から気になってたんですよ。たまたま福岡の家裁のマンホールだけがこの漢字になってたってのがすごい偶然で面白い。できれば何とかこれを保存していきたいと思っています
子供のころ、漫画「家栽の人」を読んでいたという野村不動産の柳沢良太さん。知名弁護士の思いに「あくまで本地とか福岡市にふさわしい開発をしていく中で、これから検討して参りたい」と返答した。
複合ビルの建設工事が始まるのは6年後の2030年の予定。知名弁護士の思いは届くのか?知名弁護士は交渉を続けたいと話していた。
(テレビ西日本)