体育祭の競技に新たに加わった「雑巾がけリレー」の「コツ」を教えてほしいと、鹿児島市の市立鹿児島女子高校の生徒が大隅半島・肝付町の全寮制男子校を訪れ、そこに伝わる極意を学んだ。女子生徒は体育祭で、教わった「コツ」を惜しみなく披露。会場は、初めて目にする珍しいリレー競技で大いに盛り上がった。
体育祭の新競技に「雑巾がけリレー」
四つんばいになって、両手で雑巾がけしながら廊下をひた走る。次の走者の後ろから勢いよく足元にすべり込み、バトンならぬ雑巾をつなぎ、チームで速さを競う「雑巾がけリレー」。
7月初旬、この「雑巾がけリレー」のコツを教えてほしいと、鹿児島市の鹿児島女子高校の生徒が、肝付町にある楠隼(なんしゅん)中高一貫教育校を訪れた。

日頃から掃除の時間を大切していているという鹿児島女子高校。実は2025年から暑さ対策のため、体育祭の会場が屋内に変更され「雑巾がけリレー競技」が行われることになった。
全寮制男子校伝統の「雑巾がけリレー」
そんな鹿児島女子高校の生徒たちが、なぜわざわざフェリーで錦江湾を渡ってまで、肝付町にやって来たのだろうか?
楠隼中高一貫教育高は2015年4月に公立としては全国初の全寮制中高一貫男子校として開校した。校舎に隣接する形で寮が建っていて、そこには長さ約130mの長~い廊下がある。毎年12月、生徒4人でチームを組み、この廊下で行われる「雑巾がけリレー」が、学校の伝統行事となっているのだ。


頭と体を使って研究 伝承の戦法も存在
楠隼の生徒は、中学校入学時から、雑巾がけリレーについて頭と体を使って研究していて、3期生が編み出し、大会記録を更新した独特な戦法が、代々受け継がれているという。
楠隼の生徒が究めた雑巾がけリレーについて、鹿児島女子高校の先生が知るところとなり、「教えてもらわない?」と提案したことから、今回の訪問が実現したというわけだ。
全寮制男子校に女子高校生来校で緊張
ホワイトボードの前に両校の生徒が集まり、「ちょうど8人ずついるので、男女8人でペアになってもらって」と、楠隼高校の生徒がルールを説明。そして、「寂しい思いをする人が出ないように、みんなで仲良くやってもらえたら」と続けると、鹿児島女子高の生徒からは笑みがこぼれ、周囲は和やかな雰囲気に包まれた。
女子高校生の来校に、楠隼の生徒は「楽しいです。普段は男の子しかいないので」と、胸を躍らせた。女子生徒に「寮に女の子が入ったの初めてですか?」と聞かれると、「そうですね。だからみんな、けっこう緊張しています」と、はにかんだ様子を見せた。

実は、奥が深い「雑巾がけリレー」
楠隼高校の生徒いわく、「雑巾がけリレー」では「絞り具合がとても重要」なのだという。「水が多すぎると滑りやすくなるし、少なすぎると滑らなくなる」のだそうだ。
さらに、鹿児島女子高の生徒の「雑巾は厚いほうがいい?薄いほうがいい?」との質問に、「薄いほうがいい」と回答。「雑巾がけリレー」は、奥が深いのだ。
独特な雑巾パス「びっくりした」
そのあと、楠隼の生徒が試しに走ってみせた。廊下には、第2走者以降の選手がそれぞれのレーンにスタンバイ済みだ。
走者は、両手両足を床についてお尻を高く上げ、重心はやや前。両足で力強く蹴りだし拭き掃除をしながら「ダダダダッ」と全力で走る。両肘はまっすぐに伸び、視線も前。先に、次の走者が前かがみの状態で両足の間から逆さに後ろを見る「股のぞき」の格好で構えているので、その股下に両手を前に伸ばして滑り込み、雑巾をパスする。そして、次の走者が雑巾を受け取って、また一目散に走る。

この豪快で独特、そして、とてもユーモラスな雑巾パスこそ、開校3年目の先輩たちが編み出し代々受け継がれているという戦法だ。
鹿児島女子高の生徒は「初めて見て、びっくりした」と、迫力満点の走りに目を丸くしていた。
対戦!楠隼高校vs鹿児島女子高校
さあ、驚いてばかりはいられない。楠隼高校と鹿児島女子高校の対戦だ。
鹿児島女子高の生徒たちは円陣を組んで「男子校に負けないぞー!!」「おーーー!」と気合十分。対する楠隼の生徒たちも「絶対に勝つぞー!」「おーーー!」と、闘志を燃やした。
両者、バケツにためた水で雑巾をしぼって、位置につく。
「よーいドン!」
楠隼が序盤から一気に突き進む。一方の鹿児島女子高の生徒たちも、しっかり四つんばいの体勢を保ちながら軽快な走りを見せるが、差を縮めることができない。結果、ダイナミックな走りと卓越した雑巾パスが光り、1回戦は圧倒的な差で楠隼に軍配が上がった。

続く2回戦。楠隼の生徒に、腕立て伏せをしてからスタートするハンディを付けたが、こちらも、楠隼が力強く走り抜き、勝利した。
「盛り上がりの助けになればうれしい」
鹿児島女子高の生徒は「同じ団の後輩たちとか同じチームの人たちに、コツを共有したいと思います」と、感謝の気持ちを伝えた。
楠隼の生徒は「盛り上がりの助けになればうれしいかなと思います。またホームページなどで、結果がどうなっていたか見ようかな」と、自分たちが伝授した「雑巾パス」の反響を楽しみにしている様子だった。
鹿女子らしさを盛り込んで雑巾を手作り
その数日後。鹿児島市の西原商会アリーナに全校生徒約700人が集結、鹿児島女子高校の体育祭が開かれた。緑、青、赤、白の4つのチームに分かれて、クラス対抗リレーや綱取り合戦などが行われ、勝ったチームは抱き合って喜びを分かち合うなど、会場は盛り上がりを見せていた。
そして、初の屋内開催となった体育祭の最後を飾るのが、楠隼高校から極意を学んだ「雑巾がけリレー」。約35mの直線コースを駆け抜ける競技に96人が参加、メンバーは雑巾を手作りして臨んだ。女の子を描いたアップリケや華やかなレースの縁取りなどが、もはや雑巾とは思えないほど、かわいらしい。「鹿女子ということで、学校のモチーフの白梅を入れました。周りの文字や言葉はクラスメイトが書いてくれた言葉で、思い入れが入った雑巾です」と、得意満面。


そして、この思いのこもった雑巾を手に、「雑巾がけリレー」が一斉にスタート。
走者は、時折、ふらついたり、つまずいたりしながらも、足を広げて待っている次の走者の股下にスライディング。プロスポーツの試合からアーティストのライブまで、様々なイベントが開かれてきたこのアリーナで、これほど大がかりな「雑巾がけ」が行われたことがかつてあっただろうか? 大興奮の中繰り広げられる独特な「雑巾パス」は、応援していた人たちの笑いを誘い、会場が沸いた。



各チームがゴールして行われたのはなんとビデオチェック!順位の判断に正確を期するためだ。その結果みごと1位に輝いたのは「緑チーム」、2位は「青チーム」だった。
「最高の思い出ができました」
「雑巾がけリレー」に参加した生徒は、「最初の頃はうまくいかなかったんですけど、最後の競技で、本番でうまくできて良かったです」と、やりきった表情を見せた。
別な生徒は、「初めてアリーナでの開催だったけど、最高の思い出ができました」と、まぶしい笑顔で語ってくれた。
生徒たちにとって、思い出深い一日になったようだ。
楠隼の男子生徒から手ほどきを受けた「雑巾がけリレー」、今後も鹿児島女子高らしさを加えながら受け継がれ、体育祭を盛大に盛り上げてくれることだろう。
(鹿児島テレビ)