ハイチで政情不安が続く中、首相が11日に辞任を表明。3月には武装ギャングによる刑務所襲撃で約4000人が脱獄する事件が発生した。ギャング団のリーダーらによる権力闘争と更なる暴力の加速が懸念されている。
首都を中心にまるで戦場に
ギャングによる刑務所襲撃で数千人が脱獄するなど、治安が悪化しているカリブ海の島国ハイチの首相が辞任を表明した。
ハイチでは3月、武装したギャングが刑務所を襲撃し、約4000人が脱獄するなど政情不安が続いている。
外遊から帰国できない状態が続いていたアンリ首相は11日夜、SNSに動画を投稿し「ハイチには平和と安定が必要だ」などとして、事態収束のため辞任する意向を表明した。
今後、首相に代わる大統領評議会が設置され次第、直ちに辞任するとしている。11日には周辺諸国が対応を協議するため緊急会合を開いていた。
カリブ海に浮かぶハイチの暴動、辞任を求められていた首相が辞任したわけだが、全く混乱は収まっていないようだ。
今後はギャング団のリーダーら3人による権力闘争、そして更なる暴力の加速が懸念されている。
ハイチでは2月から首相に退陣を求めるギャング団による政府機関などへの襲撃が激化し、首都ポルトープランスを中心に、まるで戦場のようになっていた。
退陣を求められていたアンリ首相は、ケニアに出国後、ハイチには戻らずプエルトリコにいることが確認されていたが12日、SNSでビデオを公開し首相を辞任すると発表した。
アンリ首相は「ハイチに神のご加護を！メルシー！（ありがとう）」と伝えた。
アンリ首相は事実上の国外逃亡という印象も受ける。
首相候補に3人の名前が浮上
首相が辞任した後に、誰が国を引っ張るのか。有力ギャング団のリーダーら3人の名前が浮上している。
まず、一人目が、ジミー・シェリジィエ氏（46）。元警察官だが400件以上の放火を繰り返し「バーベキュー」の別名で知られている。
このシェリジィエ氏は11日に首都ポルトープランスで大勢の記者を集めて会見を行い「ハイチの人々は苦しんでいる。我々はこの国のリーダーを自分たちで選択することを求めます」と話している。
まともな発言のように聞こえるが、放火を繰り返したり、国連からは複数の虐殺に関与したとされている男だ。記者会見に集まっている人数の多さからもかなり力を持っている人物という印象を受ける。
メディア好きで頻繁に記者会見を開くなど、政治指導者のようにふるまっていて、今回の騒乱では一番注目されている男だ。
2人目は、ジョンソン・アンドレ氏、別名イゾーと呼ばれる26歳の男だ。
少年のころからギャングとして活動、国連はレイプや麻薬、武器の密売に関わっていると指摘している。
このアンドレ氏はシェリジィエ氏とは違い、記者会見などは開かないのだが、ラッパーとして活動しておりミュージックビデオを通じて自分の主義主張を伝えている。
BBCなどによると登録者数が10万人を超え、YouTubeから表彰されたこともあるほど、話題にはなっている男だ。
アンドレ氏のYouTubeで映像と共に流れるラップ「今日は暴露する。現政府を解体しなければならない。今日は村を攻撃。こいつらは中身が空っぽであふれる憎しみ」という歌詞の曲もあった。
ラップはミッションインポッシブルならぬ「ミッション失敗」というタイトルで、取り締まりにきた警察をアンドレ氏率いるチームが殲滅（せんめつ）するというものだ。
映像を見ているとラップのミュージシャンという感じもするが、ハイチに入る国連の人道支援物資を奪っていると指摘されており、相当に問題がある人物だ。
もう一人は、ギー・フィリップ氏（56）という人物で上院議員の経歴もあり、これまでの二人とは少し違うように感じるかもしれないが、かつてクーデターをおこし、麻薬密輸でアメリカでの逮捕歴がある。
先週ロイター通信による単独インタビューに応じ、現在の政治家の腐敗を指摘、国民の支持があれば自らが首相になると宣言した。
マネーロンダリングにも関与して逮捕収監されたことがあるのだが、それをロイター通信の記者に問われたフィリップ氏は「ノーベル平和賞のマンデラ元大統領も収監歴がある」と反論している。
共通の敵だったアンリ首相が辞任した今、この3者の権力闘争が激しくなることが懸念され、さらに治安は悪化する見通し。女性や子供など一般の市民が大きな犠牲を受けて苦しむことになるのが懸念される。
ハイチは統治機構が機能していない。富裕層は混乱した母国を見捨てて海外へ逃避して一般市民だけが取り残されている。
暴力の真空地帯が生まれることによって武器・違法薬物の温床となることが世界への脅威となることもありそうだ。
混沌とした状況だが、何とかまともな選挙が行われる事を祈りたい。
（「イット！」 3月13日放送より）
