レズビアンをカミングアウトした大学生。「自分から言った方が真実が広まる」と考えるようになった背景には、嫌がらせを受けた過去も…。差別や偏見に立ち向かい、パートナーとの結婚に憧れる一人の女性に注目した。

性的少数者が本音で話せる場所

「つらいよね。誰にも相談できないし」
「誰も助けてくれないっていう気持ちになる」

2月17日に広島市中区で開かれたイベント。性的少数者をはじめ、生きづらさを感じている人たちが安心して集まれる場所をつくろうと、広島県セクシュアルマイノリティ協会が開催した。

広島県セクシュアルマイノリティ協会が開催したイベント
広島県セクシュアルマイノリティ協会が開催したイベント
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性的マイノリティーとは、女性同性愛者のレズビアン、男性同性愛者のゲイ、両性愛者のバイセクシュアル、割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダーなどのこと。それぞれの頭文字をとって「LGBT」と呼ばれている。このイベントでは、性的マイノリティーの当事者や理解し支援する人たちが胸の内を語り合った。

性的マイノリティーの当事者や理解者が本音をぶつける
性的マイノリティーの当事者や理解者が本音をぶつける

参加者の1人、乃野子さん(仮名)は広島市に住む大学生3年生。女性同性愛者つまりレズビアンだと自分のことを認識している。

乃野子さん:
大学でいやなことを言われることはなくて、みんな「ふーん」くらい。いい意味で無関心。私が通う大学はそういうのに力を入れているというのもあると思うんですけど

大学入学後にレズビアンを公言

乃野子さんは広島市中区にある叡啓大学に通っている。

明るく、授業でも積極的に発言する乃野子さんのまわりには自然と人が集まる。乃野子さんを指導する瀬古素子准教授は男女格差などジェンダーを研究し、学生に多様性の尊重を呼び掛けている。

叡啓大学・瀬古素子 准教授:
性的マイノリティーであることに気が付いたばかりの1年生が意外と来るんですね。他の人には話せないとか、大人から拒絶された経験があるとか。そういった学生たちが、誰かに助けてほしい、自分の経験を話してみたいと思ったときに部屋をノックするという印象です

そんなとき、乃野子さんの存在が学生の支えになっているという。

叡啓大学・瀬古素子 准教授:
私たちは話を聞くことはできるけど、当事者としての痛みは絶対に共有できない。一番近い立場で痛みを理解をして安心感を与えられる存在として、乃野子さんに「紹介していい?」ってときどき聞きます

乃野子さんは、大学入学直後、同級生に自分がレズビアンだとカミングアウトした。

友人:
自分はこれまで性的マイノリティーの人と会う機会も話す機会もなくて、いまいちどういう人なのかわからなかった。でも、英語のクラスなどで実際に話してみると、本当に何も変わらない普通のいいやつ

小学5年生で同性に告白されて…

乃野子さんには今、同性の交際相手、侑さん(仮名)がいる。社会人の侑さんとはレズビアンを自認する人たちが参加した市内のイベントで知り合った。

乃野子さん(左)と交際相手の侑さん(右)

川沿いの道を寄り添って歩く、乃野子さんと侑さん。自然に手をつなぐ二人の間には穏やかな時間が流れている。

侑さん:
ペットを飼うならこういう道が近くにないとさ。あまりに街中だとワンちゃんのお散歩が難しいよね

乃野子さんにとって、侑さんはどんな人なのだろう。

乃野子さん:
すごく頼りがいがあって世話焼きというか、気がまわる人なので、なんでもやってくれちゃうところが素敵だなと思っています

乃野子さんが初めて同性に恋心を抱いたのは小学5年生のとき。友人だと思っていた女の子に告白され、交際が始まった。しかし、中学生のころには望まない形で周囲にレズビアンだと広まっていた。

乃野子さん:
まわりの特に女の子たちから「え、なんか気持ち悪い」とか、目が合ったときに「目が合っちゃった」みたいな。いじめとまではいかないんですけど、嫌がらせを受けたことがありました

周囲の目を気にして一度は男性と交際したが、違和感を覚え、高校生になるとまた他の女性と交際。

乃野子さん:
嫌な言われ方をするぐらいだったら、最初に自分から言った方が真実が広まる。生理的にセクシュアルマイノリティーがダメな人ってやっぱりいると思うんですよ。最初に言っておけば、そういう人が自然と離れてくれるというか

出会ったバーがデートの定番スポット

この日、乃野子さんと侑さんはデートの定番スポットである広島市内のバーを訪れた。ここが、二人が初めて出会ったイベントの会場だった。店主・愛さんは両性愛者のバイセクシュアル、スタッフの百薫さんはレズビアンを自認している。

スタッフ・百薫さん:
タイプばっちりだったもんね。タイプに全部当てはまる人はめったにいないよ。だから「ぐいぐい行って」って言ってた

乃野子さん:
背中を押してもらえて助かりました

店主・愛さん:
いいなあ

スタッフ・百薫さん(右)
スタッフ・百薫さん(右)

愛さんと百薫さんは幼なじみ。大人になってから互いの性的指向をカミングアウトした。性的マイノリティーが集まる県外のイベントに参加するうちに、悩みを抱える当事者が集まることができる居場所が広島にも必要だと考えるようになったという。

店主・愛さん:
全然、変じゃないんだよ。いわゆる普通なんだよっていうのを感じてほしかった

乃野子さんと侑さんにとって、このバーは安心して集える大切な場所。薬指に光るおそろいの指輪は支え合って過ごしてきた証だ。

二人おそろいの指輪
二人おそろいの指輪

パートナー制度は“結婚未満”

二人は、性的マイノリティーのカップルをパートナーとして認める広島市の「パートナーシップ宣誓制度」をいずれ利用するつもりでいる。

乃野子さん:
私は昔から、結婚というか、一生過ごすパートナーを見つけてその人と家族になるのがすごく夢でした。その夢を早めに叶えたいという思いと、やっぱり一緒に住むとなるとパートナーシップ宣誓制度を利用した方が有利になってくるので

パートナーシップを宣誓すると、病院によっては手術の際に家族として同意できるなどのメリットがある。一方で、この制度を利用しても相手の財産を相続することや相手の子どもの親権者となることはできない。

心の中では、結婚制度への憧れを持ち続けている乃野子さん。

乃野子さん:
パートナーシップ宣誓制度はどうしても“結婚未満”のところがあると思うので、いろいろな制度が認められている結婚の方が魅力的だなと感じています。ウエディングドレスを着てみんなに祝福される結婚式にすごく憧れているので、少なくとも私はやりたいなと思っています

侑さんの気持ちは?

侑さん:
私も彼女からずっと言われているので、夢を叶えたいなとは思っています

「好きな人と一緒に暮らしたいだけ」

二人が望むのは好きな人と一緒に過ごすささやかな幸せ。そして、それを受け入れてくれる寛容な社会なのかもしれない。

侑さん:
自分たちの場合は特別扱いしてほしいわけじゃなくて、他の皆さんと同じように好きな人と一緒に一生暮らしていけたらそれでいいなと思っています。それが認められたら一番うれしい

乃野子さん:
理解できないものはできないので、性的マイノリティーが生理的に苦手だという人に理解を押し付けるのはちょっと違うと思っています。当事者への啓発活動というよりは、当事者間で楽しく過ごせる方法があるといいなって。当事者と話す機会があっても気を使わなくていいし、フランクで大丈夫だよっていうことを一番伝えたいですね

二人が求めているものはささやかな“普通の幸せ”。性的マイノリティーが生きやすい社会、差別されない社会は、みんなが生きやすい社会でもある。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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