2011年3月11日の東日本大震災は午後2時46分、2024年元日の能登半島地震は午後4時10分と、日中に発生した。一方、2016年4月の熊本地震で2回観測された震度7の揺れは、いずれも夜間だった。夜間の災害に対し、私たちはどんな“心構え”をすればよいのだろうか。

“防災県”が広める「夜の避難訓練」

鹿児島テレビが、県内43市町村に夜間の災害を想定した避難訓練の実施について聞いたところ「ある」と回答したのは鹿児島市、東串良町、種子島・西之表市の3自治体だった。

こうした中、福島県の新聞社・福島民報社は、夜間の防災訓練を広めるために、「夜の避難訓練」という動画を公式YouTubeチャンネルで公開。「さあ、非常用持ち出し袋の保管場所は覚えていますか?」「暗闇は大変危険です。しっかりと懐中電灯などで足元を照らしましょう」といったアナウンスが収録されている。

福島民報社がYouTubeで公開している「夜の避難訓練」
福島民報社がYouTubeで公開している「夜の避難訓練」
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制作した福島民報社の沢井正樹さんは当時、営業担当として東京支社に勤務していた。赤坂で外回りをしている時に東日本大震災が発生し、東京にいても身の危険を感じたという。

沢井さんは、震災発生から数日後、東京からの支援物資を届けるため、避難所となっていた福島市・あづま総合体育館を訪れた。

普段はバレーボールなどが行われるフロア全面に、敷居もなく、あるものを敷いて寝るような生活を、最大2,500人が送っていた。避難所でも地震のアラートが鳴り、泣き出した子どもを「大丈夫だよ」と慰める母親や、不安がる高齢者の姿を目にしたという。

その後、福島の本社に異動した沢井さんは地元のラジオ局に働きかけ、震災発生から8年後の2019年3月11日、ラジオを使った“夜の避難訓練”を実施した。

「布団から手の届く場所に懐中電灯はありますでしょうか?ない場合は一時的に携帯電話のライト機能を使ってください」といった聞き取りやすいトーンのアナウンスが呼びかける。

“夜の避難訓練”を実施・沢井正樹さん:
地震発生が夜中の2時46分だったらどうだったんだろうと。暗闇では心理的に落ち着いて行動できなくなるのは、自分も(当時の余震で)経験していた。一度(夜の避難訓練を)自分で経験している人がいれば、夜に災害があったときでも対応できるし、人の命が救えるのではないか

沢井さんは、「福島は被災県だが、先頭に立って防災を発信し続ける『防災県』でなければいけない」とも話していた。

暗闇では懐中電灯だけが頼り

今回、鹿児島テレビでは、福島民報社が制作した「夜の避難訓練」のラジオに従って、南九州市知覧町に住む峰元麻美子さんと次女・愛奈さんに夜の避難訓練を体験してもらった。

今回訓練を体験した峰元麻美子さんと愛奈さん親子
今回訓練を体験した峰元麻美子さんと愛奈さん親子

母・麻美子さんに普段の備えについて聞いたところ、「恥ずかしながら頭の片隅には『しないといけないな』とか、『こういうことだったらできるかな』とか考えるが、なかなか実践に移せていない」という。

このラジオを聞くのは初めてという2人には「夜の避難訓練をする」とだけ伝え、今回は寝室で寝ている時に地震が起きて停電になった中、避難するという想定で実施した。

電気が消え、真っ暗な寝室に「地震が発生しました。これは訓練です。布団から手の届く範囲に懐中電灯はありますでしょうか?」という音声が流れる。

暗闇の中、まずは懐中電灯を探す
暗闇の中、まずは懐中電灯を探す

母・麻美子さん:
懐中電灯どこだろ?

娘・愛奈さん:
ある!これこれこれ!

母・麻美子さん:
待って、めがね。お母さんのめがね!

懐中電灯の明かりがともったら、お互いにけががないかを確認し、布団から出て周囲の安全をチェックしたら、上着などを身につけて玄関まで避難する。ここで、ラジオから「非常用持ち出し袋の保管場所は覚えていますか?」というアナウンスが流れる。

2人が非常用持ち出し袋を持っていないと慌てている中、「防寒着を着て玄関先へ移動してください」とアナウンスが流れ、急いで玄関に向かう。

ガラス片に見立てたクッションを踏まないように進む
ガラス片に見立てたクッションを踏まないように進む

今回、寝室の出口にはガラス片などが散らばっていたという想定で、ガラス片に見たてたクッション材を置いていた。「暗闇は大変危険です。しっかりと懐中電灯などで足元を照らしましょう」とラジオの音声は的確に注意点を伝えた。

2人はガラス片に見立てたクッション材を「破片かもしれないから踏まないように行きましょう」と踏むことなく、懐中電灯の明かりだけを頼りに玄関へと進んだ。

靴を履いて、玄関の外に出たら訓練は終了だ。

「夜の避難訓練」で見えてくる課題

初めての夜の避難訓練で、無事に避難できた2人に感想を聞いた。

母・麻美子さん:
懐中電灯の先しか見えないし足元に何か落ちているのもよく見えなかった

娘・愛奈さん:
本当(の地震)だったらどうなのかなと考えて、やっぱり備えって大事だなと思った

麻美子さんは今回の訓練で、キッチンとリビングの境目にある、四角い木製のカウンターが気になったという。

母・麻美子さん:
(暗闇の中)手探りで歩いていたが、慌てていると、もっと勢いがあって(カウンターに)ぶつかったりするのかなと。私は(部屋を)飾るのが好きなので、いろいろな雑貨など置いているが、割れたりする可能性もあると思った。日頃から自分たちが通るところはスムーズに通れるように、物を置かないようにするとか、心配りがあるといいのかなと思いました

“夜の自然災害”は日中とは違う動きをしなければいけない。訓練を経験していると、初動も変わってくる。時間を選ばず突然やってくる災害に備えて、一度家族で実践するのも良いのではないか。

(鹿児島テレビ)

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