日本全国で被害が拡大しているトコジラミ。
今、市販の殺虫剤では効果がない、殺虫剤に耐性を持つ「スーパートコジラミ」へ進化をしているといいます。

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スーパートコジラミが増加した理由として、国立環境研究所の五箇公一室長は、インバウンドが回復したことで、海外からの持ち込まれる機会が増えた可能性があると指摘。

特に東京や大阪など都市部の宿泊施設からの相談件数が増えており、どの程度拡大しているか把握するのが難しい状況にあるといいます。

都市部に持ち込まれたトコジラミは、人や荷物を介して地方レベルまで出入りしているため、日本全国どこで発生してもおかしくありません。被害が表面化する頃には手遅れになっている可能性も…。

国立環境研究所 五箇公一室長(右)
国立環境研究所 五箇公一室長(右)

――インバウンドを推奨する国や自治体が駆除に乗り出すことはできないのでしょうか?
国立環境研究所 五箇公一室長:

トコジラミという昆虫自体が、実は厚生労働省や農水省、環境省といった関連する行政の法律の規制対象種になっていないのです。なので、国や自治体といった部分が主体となって防除を行うというのは非常にやりにくくて、つまり予算確保自体が難しいという状況なんです。
一方、被害がひどい自治体に関しては、相談窓口とか駆除にかかる補助金を準備しているところもあるにはあるんですが、基本的には防除や駆除は発生した建物の所有者が行わなくてはならないということになっています。

――駆除にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?
国立環境研究所 五箇公一室長:

大体、一部屋で、高ければ10万~20万くらいかかってしまいます。

驚異的な“進化” 今後さらなる突然変異の可能性も

なぜスーパートコジラミは市販の殺虫剤が効かないのか?それは、従来に比べ「皮膚が厚く」進化しているからだといいます。

皮膚が厚くなり、いわゆる角質部分が増えたことで、体内に浸透する殺虫剤の成分量が減少してしまい、トコジラミの死亡率が低下したのです。

進化しているのは「皮膚」だけではありません。
「生き物」は元々体内に入ってきた殺虫剤や異物を解毒したり、無効化する酵素を持っていますが、スーパートコジラミはこの酵素を生み出すDNAが少しずつ変異を繰り返して、より解毒能力が強い酵素を作り出せるようになり、「殺虫剤に強い耐性」を持ってしまったといわれています。

さらに、一般的に使われる殺虫剤は、昆虫の神経細胞に作用して麻痺を引き起こしますが、この神経細胞に「遺伝的変異」が生じて薬剤が作用しなくなり、抵抗性が発現しているそうです。

国立環境研究所 五箇公一室長:
抵抗性という進化は、このトコジラミ集団のサイズと遺伝子の多様性によって変わってくるんですね。つまり遺伝的な変異がたくさんあって、大きな集団であればあるほど抵抗性が進化しやすいということになります。なので、新しい薬ができても同じ薬を使い続ければ、早くてわずか数年でも進化すると考えられます。
今後、世界的にトコジラミが拡大しているというこの状況が続けば、トコジラミの集団サイズが巨大化してしまうということで、突然変異が起こりやすくなってしまうと。そういった中では抵抗性への進化が一層早くなってしまうリスクがあると予測されます。

「スーパートコジラミ」の対策は?

トコジラミの「安全宣言」をしているホテルは、どのような対策を行っているのでしょうか。

「アンダーレイルウェイホテル秋葉原」は、利用客の約70%が海外からの客のため、持ち込まれることを警戒し、3カ月に1回専門の業者に依頼して薬剤を散布しています。
29室ある客室と、従業員が使用するバックヤードにも散布し、費用は1回18万円。年間4回行っているため総額70万円以上かかるといいます。

1度発生させてしまうと、気づかない内にどんどん増えて、他の部屋にも広がってしまい、営業停止せざるを得ない可能性もあるため、万が一を防ぐために予防を徹底しています。

日本からトコジラミを根絶するには、地域ぐるみで一斉に駆除する必要があり、自治体、事業者、一般市民が情報と意識を共有して、広域レベルでの防除体制を整える必要があります。
五箇室長によると、現在、自治体と国が情報を集約して官民一体として、的確な薬剤防除、駆除をしていかないといけないレベルに達しているといいます。

国立環境研究所 五箇公一室長:
いわゆる外来種対策や、あるいは衛生害虫対策として国自体が法的に規制できるようにすることが一番いいのですが、いかんせん「血を吸う」という被害以外に、感染症を媒体するなどの具体的なリスクがまだないものですから、正直なところどこの省庁も優先事項が他にもたくさんある中では後手に回ってしまっているということになりますので、今できることとしては、個人レベルや自治体レベルで害虫の存在をよく知って、できるだけ早く発見して早く防除するというそういったシステムを整えておくのが大事かなと思います。
(「めざまし8」3月11日放送)