森友・加計・日報問題の「3点セット」で安倍一強が揺らぐ中、注目されているのが、秋の自民党・総裁選挙だ。安倍首相は3選を果たすことができるのか。

『岸破聖太郎』とも言われる、ポスト安倍の候補者、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長、野田聖子総務相、河野太郎外相の動向にもがぜん注目が集まっている。

しかし、知られているようで、実は知られていないのが、自民党総裁選の意外なる仕組みだ。
 

2012年総裁選から6年
2012年総裁選から6年
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立候補には国会議員20人の推薦が必要!

まず、総裁選に立候補したい!と思ってもいくつかの規定がある。
①立候補できるのは自民党所属の国会議員
党に所属する国会議員20人の推薦が必要。

この2つは必須で、応援してくれる仲間、しかも隠れてではなくて、堂々と名前を出して応援してくれる仲間が必要だ。
小泉純一郎元首相も「郵政民営化!」と訴えていたことで党内から反発を受けて、推薦人集めに苦労したことがあった。
19人まで集まったものの「あと1人が足りない」と泣いた人もいた。
派閥の意向などに反して、別の候補者の推薦人に口説かれている、という噂が流れ、強烈な締め付けを食らった議員もいた。
記憶に新しいところでは、2015年の総裁選は野田総務相が出馬を目指していたが、推薦人になってくれる議員が集まらず断念、無投票で安倍首相の総裁再選が決まった。
一方で、私たち記者が推薦人名簿を見た時に「この人が推薦人に!!!」と驚くような展開もある。総裁選に向けたまさに最初のハードルで、ドラマチックな展開がある。
 

投票できるのは国会議員と党員!

次に総裁選に投票できる人は?
①自民党所属の国会議員405人。1人1の投票権(※3月現在)
②自民党の党員票405(これがいわゆる『地方票』

地方票は「所属国会議員の数と同じ」と規定されているため、405人の国会議員と同じ数の405分が割りあてられる。
この405票を、全国の党員が投票した票の、得票割合に応じ、ドント方式で、各候補者に振り分ける。そして各候補者の議員票と党員票を集計したものが、最終的な得票数となる。
 

1か月前に選挙管理員会を設置!

総裁選は、自民党本部の選挙管理委員会が管理する。総裁任期の1か月前には、選挙管理委員会が立ち上がり、投票日や告示日が決定される。

なお、総裁選の投票日は、総裁の任期満了日前の10日以内と規定されている。
今年の総裁選に当てはめると9月20日~29日となる。
 

 
 

投票できる党員にも条件が!

投票できる党員は「日本国籍を有する20歳以上の者」という規定のほか、自民党に党費を2年間にわたって納める必要がある。
なお党費は、一般党員が年額4,000円。家族党員は年額2,000円。
総裁選に投票したい!のならば、前々から党員になり、党費を納めておく必要がある。
 

党員の投票方法は郵送か直接投票!

国会議員の投票は決められた投票日の決められた時間に、自民党本部に設けられた投票所で投票をしなければならない。

一方、全国の党員は、都道府県ごとに・・・
① 郵便投票
② 投票所での投票
 ①と②の併用

を決めることができる。
自民党本部の1階には東京都連の事務局があるため、2012年の総裁選では、大量のハガキがここに郵送された。
2012年の総裁選では、全国の党員による投票総数は実に49万票以上で、投票率は62・51%というから驚きだ。ここ6回の国政選挙の投票率を上回っている。

なお、今回の総裁選について「地方票が重要だ!」という指摘が多い。
これまでは党員票は300票と規定され、党員数などに応じて都道府県に配分されていたが、今回、「国会議員と同数」と規定が見直されたことで、地方票の割合が大きくなり、その重要度が上がったことにある。
 

 
 

決選投票となった場合は・・・

総裁選は1回目の投票で、投票総数の過半数の票を得た候補者がいれば、新たな自民党総裁に選出される。
過半数を得た候補者がいなかった場合は、上位2人の候補者による決選投票になる。

この決選投票ではどんな形で行われるのか。
1回目に投票した)自民党国会議員に1人1
 各党道府県に1票(計47票)
と規定されている。

47票の都道府県票は、その都道府県での地方票が多かった候補に1票が入る形だ。
この決選投票で票数が多かった人が新総裁に選出される。
この決選投票でも、これまでは党員票は反映されず議員票のみだったが、今回からは地方票も加わる形に変更され、ここでも地方票の重要度は上がることになった。
なお、国会議員の投票は無記名で良いので、1回目の投票を見て、2回目の投票先を変える人もいるかもしれない。
 

世論調査の秘密

FNNの最新の世論調査(2018年3月)では、次の総理に相応しい人物は、安倍晋三氏30.0%、石破茂氏28.6%、岸田文雄氏9.7と続いた。しかし総裁選で投票できるのは、これまでも触れてきた様に自民党の国会議員と党員に限られ、世論調査の回答者の多くは、投票権を持っていない。

ここに興味深いデータがある。
同じ世論調査で「支持する政党」として「自民党」を挙げた人に限定して、次の総理に相応しい人物に誰を挙げたかを見てみると、安倍晋三氏56.2%、石破茂氏18.9%、岸田文雄氏8.5と世論全体とは違う結果となった。

「自民党支持層」と「自民党員」の意見が必ずしも同じではないことは踏まえる必要があるが、他の政党の支持者や無党派層ではなく、自民党員に受け入れられるにはどういった政策をアピールすれば良いのかという点も総裁候補には必要な視点になる。
 

 
 

地方票の獲得に躍起!

また、自民党には、支援する多くの組織・団体もあり、ここに所属する党員が沢山いるため、組織票固めも、地方票を増やすには重要になる。
ただし、ある重鎮議員は「組織票で固められるところは2、3割くらい。残りはもう無党派みたいなもんだから、昔と違って風が吹けばどうなるか全くわからないよね」とも話していた。

特にベテラン議員と違って、若手議員にとって地元の党員票をとりまとめるのは至難の業だとされる。
安倍首相の出身派閥の細田派は3月から4月にかけて、派閥幹部が所属国会議員を当選回数別に分けて10回も会合行っているが、これは公務で忙しい安倍総理が全国をまわれない分、総裁選の「地方票」を固めるため、派閥の幹部が所属議員に活を入れて、党員票を固めるように指示する目的で開催されている。

出馬が噂される他の候補者も、2月に石破元幹事長が率いる石破派が大阪で1000人規模の大規模なセミナーを開催したり、3月には岸田政調会長も山梨県から地方行脚をスタートさせたりもした。

4月1日には、野田総務相が地元で女性政治塾を立ち上げるなど、これから地方票の獲得に向けた動きがさらに活発化しそうだ。

「表選対」と「裏選対」

2012年の総裁選挙では5人の候補者が立候補し、大いに盛り上がった。

各議員が地元選挙区などで党員に向けての働きかけを行う一方で、永田町用語で「表選対(おもてせんたい)」と呼ばれる、各候補の選対事務所が自民党本部に設置され、国会議員や秘書たちが毎日訪れて、朝から晩まで電話作戦をしたり、今後の方針について話し合っている姿もあった。

一方で、「裏選対(うらせんたい)」と呼ばれる、秘密の選挙対策本部も近隣のホテルなどに続々設置され、担当記者がホテルの入り口に張り付く光景も連日連夜みられた。 

今後、自民党総裁選をめぐるキーマンの動きをシリーズでお伝えする。

(政治部・自民党担当キャップ 中西孝介)
 

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。