かつて畜産業が盛んだった福島県葛尾村。両親が営む牧場に就農した娘…復興に向けて挑戦を続ける父親…親子が描く村の未来とは。
ウシは生きがい
吉田愛梨朱さんは、2022年から両親が営む福島県葛尾村の牧場で、畜産農家の一歩を踏み出した。約360頭のウシがいる牧場で、主に子牛の育成を担当している。

「生きがいですね。ウシがいなかったら生きていけないくらいに」
小学生の時から牧場で手伝いをしていた愛梨朱さん。葛尾村で両親と働くことに迷いはなかった。

愛梨朱さんの父・健さんは「子どもであっても、日々成長しているなって。成長を感じることができます」と、日々ひたむきに牛と向き合う娘に頼もしさを感じている。

原発事故 牧場は休業
地元で畜産業に関われる喜びを感じている2人。しかし、そこには険しい道のりがあった。原発事故後、全村に避難勧告が出た葛尾村。吉田さん親子の牧場も休業を余儀なくされた。健さんは「空になった牛舎を振り返って見た時の、何かこう…やりきれない思いというのが…」と話す。

隣の市で畜産を続ける
愛梨朱さんは、当時小学1年生。「不安とか怖いという思いはずっとあった」と話す。その後は、福島県田村市で畜産を続けて来たが、葛尾村への思いは変わらなかった。健さんは「葛尾村に必ず戻って、自分の力で再開・再生させるんだっていう思い」と語る。

帰村…新たな取り組み
念願が叶ったのは震災から5年後の2016年。一部避難指示が解除され、吉田さん親子は村に戻ることを決断。

そして、2018年からは、新たに羊の肥育を始めた。健さんは「自分で食べておいしいと気付いていたので、新たな葛尾村の特産品になるんではないだろうかと思いました」と話す。

新たな活気 特産品と若者
これまで培った牛の肥育技術を応用し、手がけたヒツジの肉は甘みと旨味が強く「ふるさと納税」の返礼品となり村の特産品に。

健さんは「震災直後はみんな大変だったと思う。だけど、それをバネに必ず這い上がるんだぞという気持ちがあったからこそ、今があるんじゃないかと思います」と話した。

村に戻り7年、大きな変化があった。健さんの経営する牧場に、20代の若手社員4人が入社。新たな活気が生まれている。

基幹産業の復興は道半ば
復興に向けて一歩一歩進んでいる葛尾村。2016年と2022年に避難指示の解除があり、帰還困難区域は全体の18%。村の居住者は、震災前の1567人に対し463人。村の畜産農家は、震災前の113軒に比べ現在は27軒と、かつての基幹産業は復興道半ばとも言える。

畜産を志す若者が集まる地に
しかし、健さんたちは挑戦を続け、基幹産業の復活を目指している。
娘・愛梨朱さんは「人もウシも、誰もいなくなった村が今こうやって新しい牛舎が出来て、ウシがこんなにいて。小さい村だけど、こんな頑張っているよっていう風に思ってもらえたらいい」と話す。

父・健さんは「畜産を志す若者がどんどん葛尾村に集まって、明るく希望ある葛尾村に発展していけば良いな」と話した。

葛尾村では、畜産の再開をサポートする事業を行っている。国の補助金を活用し、約15億円かけてウシの繁殖から育成まで一貫して行える施設を3つ整備。利用を希望する農家に無償で貸し出していて、村は今後も支援を続けるとしている。
(福島テレビ)