「被害者のための安楽死」だという被告の主張は通らなかった。

【動画】「ALS患者のつらい気持ちも分かる、でも生きてほしい」と被害者の担当ヘルパー

全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病「ALS」の患者を、本人の依頼で殺害した罪などに問われている医師の男に、懲役18年の判決が言い渡された。

5日、午後3時半すぎ、紺色のスーツに白いマスクをして法廷に現れた医師の大久保愉一被告(45)。 ずっと正面を見ながら判決を聞いていた大久保被告は、言い渡しのあと、裁判長に一礼をして法廷を後にした。

大久保愉一被告
大久保愉一被告
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この裁判で大久保被告が問われた罪は3つ。

1つ目は、2019年に元医師の山本直樹被告(46)と共謀し、難病ALS患者の林優里さん(当時51)の依頼を受け、薬物を投与して殺害した「嘱託殺人」の罪。

2つ目は、精神疾患を患っていた山本被告の父親を何らかの方法で殺害した罪。

3つ目は、別の難病患者の診断書を偽造した罪。

大久保被告は初公判で「林さんの願いを叶えるため」と供述
大久保被告は初公判で「林さんの願いを叶えるため」と供述

大久保被告は初公判で「林さんの願いを叶えるために行ったことです」と供述した。全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病「ALS=筋萎縮性側索硬化症」を患っていた林さんは、SNSに安楽死を望む文面を投稿していて、大久保被告が反応する形で事件に発展。

大久保被告は殺害の事実自体は認めたものの、弁護人は「嘱託殺人罪の適用は、林さんに『望まない生』を強いることになり憲法に反する」などとして、無罪を主張している。

大久保被告は犯行の動機について、「苦しみから解放されたいと願うなら、かなえてあげられたら本人のためだと思います」と言い、殺害当時の状況については「(林さんが)文字盤を使って『死なせて』と。(Q.どんな様子でしたか?)目に涙を浮かべて、うれしそうに…。自分がやるべきことは、やったのかなと思いました」と話した。

■検察は「『死にたいと願う難病患者は殺害する対象』という思想の実践」と指摘

山本直樹被告
山本直樹被告

法廷で時折、涙を浮かべながら林さんへの思いを語った大久保被告。しかし、証人として出廷した共犯の山本被告は、大久保被告の“過激な思想”について、「『高齢者が早く死ねばいい』としばしば口にしていました。殺人のノウハウを蓄積し、そのノウハウを金にして、自分の理想とする世の中が実現すればいいと考えていた人です」と話し、大久保被告が“殺人マニュアル”を作成していたとも証言した。

検察側は「『死にたいと願う難病患者は殺害する対象』という思想の実践で、真摯な『安楽死』を実践するものとは程遠い詭弁(きべん)」と指摘し、他の2つの罪も含め、大久保被告に懲役23年を求刑し、裁判は結審した。

■裁判を見守った林さんの担当ヘルパー

林さんの担当ヘルパー
林さんの担当ヘルパー

林さんを担当していたヘルパーは、この裁判を傍聴し続けてきた。

林さんの担当ヘルパー:幸せの過程にいたはずなのに…。友達いっぱいいて、うらやましかった。誕生日ならお花いっぱいきたり、友達来たこともあったり、お見舞いにもきた。

林さんは開発が進む治療薬に希望を持ち続けていたということだ。

林さんの担当ヘルパー:先生(医師)が『死んでいいよ』って、やったことが許せない。これをきっかけに、安楽死という言葉を覚えてほしくない。どれだけつらくても、支える方がいっぱいいたら、乗り越えていける思うので、簡単に死ぬことを考えてほしくない。

■「被告人の生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」

京都地裁 3月5日
京都地裁 3月5日

そして迎えた5日の判決。京都地方裁判所の川上宏裁判長は、理由の宣告が長くなるとして、主文の言い渡しを後回しにした。

京都地裁は、大久保被告が否認していた、山本被告の父親に対する殺人罪を認定し、「計画性が高く、医師としての知識がないと思いつかない犯行で、くむべき事情はない」などと非難。

また、林さんを殺害した嘱託殺人の罪についても、「主治医でもなくALSの専門医でもなく、SNSでのやり取りがあったにすぎず、初めて会った林さんの十分な意思確認ができたとは思えない」と指摘。「わずか15分程度の面会で軽々しく殺害していて、被告人の生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」として懲役18年を言い渡した。

■「ALS患者のつらい気持ちも分かる、でも生きてほしい」

林さんの担当ヘルパー
林さんの担当ヘルパー

判決を傍聴した林さんの担当ヘルパーは、「誰もが病気になって、突然、次の日から体が動かなくなったらしんどいし、知らない人にいっぱい介護されて、つらい気持ちもよく分かるし、でも、死んだら終わってしまう。自分の人生が。もしかしたら一生懸命生きてて、何か変わることって、あると思うので、頑張ってみんなで生きてほしいって、そう望みました」と話した。

(関西テレビ「newsランナー」2024年3月5日放送)

関西テレビ
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