リニア中央新幹線・静岡工区をめぐるボーリング調査に関して、大井川流域10市町の首長が速やかな実施を求める一方、静岡県の川勝平太 知事はあくまでも慎重姿勢を崩さず、考えの違いが鮮明になっている。
高速長尺先進ボーリングめぐる現状は?
いわゆる“高速長尺先進ボーリング”とは、リニア中央新幹線のトンネル工事にあたり、南アルプス付近の地質や地下水の状況について把握するため、JR東海が2023年2月から山梨県内で行っている調査だ。
現在は機材のメンテナンスのため休工となっているが、山梨と静岡の県境まで459メートルまで掘り進められていて、今後は静岡県側へと削孔を進めていく計画となっている。
この記事の画像(8枚)この調査をめぐっては、大井川流域市町の首長たちが「調査をすれば、どのくらい水が出るのか、どのくらいの圧力で水が噴き出すのかなど具体的な数値がデータでわかる」と、実施に肯定的な姿勢を見せているほか、県の地質構造・水資源部会専門部会の委員も「大量湧水に至ることはなくコントロールできる」「静岡県も含めてサンプルを採って分析するのが科学的」などと述べている。
さらに、国の有識者会議も「トンネル掘削に伴う環境への影響を最小化するためには、高速長尺先進ボーリング等で断層の位置や地質、湧水量を把握し、その科学的データに基づき、断層とトンネルが交差する箇所及びその周辺地山に対して事前に薬液注入を行うことで、トンネル湧水量を低減することが重要である」と提言。
ところが、静岡県は「実質的な水抜きである」との主張を展開し、県境付近ならびに県内での調査に反発していて、川勝知事も2023年11月の定例記者会見で「高速長尺先進ボーリングによって大井川の中下流域の水資源への影響だけでなく、上流域への生態系への影響も懸念される。県境を越えた静岡県内の高速長尺先進ボーリングの実施は、それらへの影響を回避・低減するための具体的な保全措置が示された後でなければ認められない」と強調している。
ボーリング実施を求める流域…背景は?
こうした中、2024年2月25日に開かれたJR東海と大井川流域10市町の首長との意見交換会で、流域と県との考えの違いが改めて浮き彫りになった。
会議は冒頭の挨拶以外は非公開で行われたものの、JR東海の丹羽俊介 社長によれば、首長側からは工事前・工事中・工事後に行う水量や水質等のモニタリングについて、「どのような場所で、どれくらいの頻度でやっていくのかは地域の実情を踏まえて実施してほしい」という要望が寄せられたほか、高速長尺先進ボーリングに関しても「地下水の実態を把握するため早く着実に実施して、その結果を知らせてほしい」という意見があがったという。
一方、島田市の染谷絹代 市長も「互いの理解を深める意見交換会だった」と所感を口にし、「モニタリングや高速長尺先進ボーリングについて、流域はどちらも早く着実に進めてもらいたい。そのことによって市民・県民の不安が少しでも払拭されるようにデータをしっかり公開してほしい」と話している。
そして、この考えは自らの私見として表明したのではなく、「流域の総意」としてJR東海に伝えたことを明らかにし、会見に同席していたほかの首長が異論を挟むこともなかった。
なぜ、大井川流域の首長たちがこのような意見を出したのか?それにはわけがある。
高速長尺先進ボーリングやトンネル工事にともない山梨県側に流出した湧水については、大井川上流から山梨県内にある発電施設に向け水を送っている田代ダムの取水を抑え、流出量と相殺することになっているが、この発電施設の工事によって2024年2月から2025年11月にかけて田代ダムでは取水を停止するという。
このため、染谷市長は「2025年11月までの間はまったく水を取水しないので、その間に高速長尺先進ボーリングをして流れてしまう水があったとしても、それ以上の水が大井川に戻っているのであれば後で返す必要がないのではないか」との見解を示した。
“流域の総意”を疑う川勝知事
これに対し、川勝知事は2月26日の定例会見で「10市町の総意と言われているが、1つ1つ確かめる必要がある。不分明なところがあるので、首長ほか関係者に聞いている」と疑問を呈し、「慎重にならなければならないし、おそらく慎重になっている人もいるに違いない」と言い切った。
加えて、高速長尺先進ボーリングによって山梨県側に流出する湧水量について、「予測値はあるが実測値はない。どれくらい出るかわからないので、監視体制が明確にならないといけない」との私見を披露。
その上で、国の有識者会議の報告を踏まえた対策をJR東海が着実に実行しているか確認・監視するために国土交通省が設置する予定の第三者委員会の話題を持ち出し、「モニタリング委員会(第三者委員会)の重要な仕事になる。JR東海が実際に(流出量を)測り、それを客観的に正しいかどうか観察するのがモニタリング委員会」との独自の解釈まで飛び出した。
本来、“調査”とは様々な影響が出ないよう、もしくは影響が出る場合でも最小限に抑えられるよう現況を把握するために行われるものであるはずだが、静岡工区においては準備工事や本体工事はおろか、調査すらも実施の目途が立っていない。
(テレビ静岡)