2019年7月18日、京都アニメーション第1スタジオに当時41歳の男が侵入し、ガソリンで放火した事件では、社員36人が死亡するなど、国内では過去に例を見ない大惨事となりました。

この事件を巡っては、実名報道の是非が各方面で議論されました。また、最近では、行政機関も、個人情報への行き過ぎた配慮から、実名で発表しないという問題も起きています。

なぜ実名報道は批判されるのか、それでも実名報道が大切だと言うのならば、それはなぜなのか。このことを考えるため、FNNプライムオンラインでは、これまで(1)実名報道の問題を指摘する「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」の事務局長、髙橋正人弁護士、(2)実名報道で結果的にメディアスクラムの被害を受けた桶川ストーカー事件の被害者遺族・猪野憲一さん、京子さんに話を聞いてきました。

(第一回「被害者が泣く民主主義なら、そんな民主主義はいらないと遺族は思っている」
(第二回「家を出ようとすると記者に取り囲まれる」桶川ストーカー事件の被害者遺族に聞く
それでも実名報道が大切な理由 桶川ストーカー事件の被害者遺族に聞く(2)

第3回は、名古屋市西区主婦殺人事件の被害者遺族・高羽悟さんです。事件は、桶川ストーカー事件の翌月に発生しましたが、この事件の犯人は今も捕まっていません。高羽さんは、猪野さんとは別の視点から実名報道が大切さを訴えられました。ご意見は2回に分けて掲載します。

「時間がたつと必ず伝えたくなる」名古屋市西区主婦殺害事件の被害者遺族(1)

1999年11月13日、高羽奈美子さん(当時32)は自宅で殺害される。部屋には2歳の息子もいたが無事だった
高羽悟さん

被害者にしか言えないことを言う使命

高羽悟さん:
私もメディアにとりあげてもらって、いろんなことを考えられました。元気でやれたのはメディアのおかげだと思っています。事件発生から20年、メディアの人と話す機会がなくて20年たった今と、ちゃんと取り組みを取材してくれて時効の撤廃までできた今を考えると、全然違うと思うんですよ。達成感がありますし。

時効撤廃を訴えていたころ、宙の会(注:殺人事件被害者遺族の会)では街頭で署名集めはしなかったんです。それぞれ会員が個人で署名を集めて4万くらいになりました。1カ月もかかっていないです。私も2000くらい集めて、宙の会の事務局へ送りました。

当時、私自身、NHKだとかいっぱい出させてもらって少しは貢献できたのかなという思いはありますね。会社で、会ったこともない女性社員が一生懸命、友達から友達の友達にまで声をかけて1人で何百も署名を集めてくれて、すごく感動しましたし。やっぱり被害者遺族が顔を出して実名で報道されることによって、時効撤廃の問題に関心持ってもらえたと思うんです。まず実名報道がないと何も起こらないような気がしますね。

2009年5月、時効撤廃を訴える宙の会。1年後、強盗殺人罪や殺人罪など死刑が適用される可能性のある罪の時効は廃止される

私たちにも使命があるじゃないですか。被害者にしか言えないことを言っていかないと被害者に対する支援だとか法律も変わっていかないので。
被害者支援をしている弁護士が、匿名をアドバイスしている話がありましたけど、言語道断で、それはあなたが言うことじゃなくて、被害者が判断することです。なんで実名報道のほうがいいよってアドバイスできないんですかって言いたいぐらいです。

ーー犯罪被害者を支援されている弁護士さんから聞きました。その弁護士さんは、実名報道の問題点を指摘しつつも、適切な時期に、遺族が話すことの大切さも理解されています。しかし、一部の極端な弁護士さんは取材を受けることに消極的だそうです。

それがおかしいと思いますよ。そんなの被害者支援ぶっているだけのことで、本当に自分の言っていることが被害者支援になっているかどうか…違うと思いますね。

問題があるとすれば、実名が発表されたあとですよね。それをメディアがどう扱うかですよね。ネット上の迷惑な人は、SNSにわけのわからない書き込みをするでしょうけど、普通のメディアがちゃんとプライバシーを尊重して報道すれば、実名報道のほうがいいと思いますよね。

記事になることで生きた証を残せる

羽悟さん:
匿名だとその人の生きた証がないじゃないですか。京アニの被害者も一人一人がこういう人生を送って、こういう夢を持って京アニに就職して、こんな作品とこんな作品でエンドロールに名前が載った人ですよって記事になれば、遺族は「新聞が書いてくれたよ」って仏壇にお供えできるじゃないですか。

そういうこと、私はすごく大事なような気がします。だって亡くなった人をわざわざ悪く報道するメディアなんかないですから。

奈美子のことを別にヘンに報道されたこともないし、奈美子の残した日記だとか、いろんな写真だとか見せながら、料理好きで本当に子供の育児を楽しんでいて、成長を本当に楽しみにしていた主婦ですという報道をしてもらったんで、それは奈美子としてはうれしかったというか、よかったと思いますね。

京都アニメーションのそばに設けられた献花台。国内だけでなく海外からもファンが訪れ犠牲者を悼んだ

ーー報道されてよかったというのは、なかなか当事者でないと言えません

宙の会の小林会長の娘さんも、上智大生殺害事件の被害者ですが、世田谷一家殺害事件の被害者にしても、みんなちゃんと生きていたと毎年、報道されるわけです。そういう意味では、遺族としてはありがたいですね。生きた証が残りますから。
例えば、子供の写真が出るとか、子供が部活をこういうふうにがんばっていたということが記事になれば、記事の部分を切り取って、仏壇に供えて線香をあげたくなると思いますよ。それがメディアの力だと思います。 

メディアも遺族にメディアスクラムだととらえられるのはすごく損だと思います。だからメディア同士で話し合って、事件直後の大変なときだけど、なんとかコメントをもらえるようにうまく備えれば、そのほうがメディアにもいいと思うんですよね。

その後、遺族といい付き合いもできるでしょうし。それを他の社より早くコメントをもらおうとするからいろいろ問題になるんです。警察は実名を発表して、メディアが責任をもって、被害者や遺族を傷つけないように報道するというルールが守られれば、ちゅうちょ無く実名報道でいいと思います。

(執筆:フジテレビ報道局 吉澤健一)