津久井やまゆり園で追悼式 

7月20日、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で追悼式が行われ、慰霊碑(「鎮魂のモニュメント」)に犠牲者7人の名前が刻まれました。追悼式で新たに着任した園長は「あの日19名の命が突然奪われ、皆が深く傷つき涙しました。そのときの涙は5年経った今でも枯れることなく、人々の心の中で流れ続けています」と追悼の辞を述べました。

7月20日 津久井やまゆり園で行われた追悼式
7月20日 津久井やまゆり園で行われた追悼式
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被害者は匿名発表も…初公判前に名前を公表した母親の思い

2016年7月26日、相模原市の津久井やまゆり園に元職員の植松聖死刑囚が侵入し、持っていた刃物で入所者19人を殺害し、入所者と職員26人に重軽傷を負わせました。植松死刑囚は取り調べや法廷で身勝手な発言を繰り返し、2020年3月、横浜地裁で死刑判決が言い渡され、自ら控訴を取り下げて死刑が確定しました。

2016年7月26日 津久井やまゆり園45人殺傷事件
2016年7月26日 津久井やまゆり園45人殺傷事件

警察や検察は発生当初から障害者施設の事件であることや遺族の要望などを理由に被害者の名前を公表しませんでした。事件後、重傷を負った入所者1人と家族だけが実名での取材に応じてくれました。

裁判も匿名で行われることになりましたが、2020年1月、初公判を前に犠牲者の19歳の女性「美帆さん」の母親が名前と写真を公表しました。

「会いたくて会いたくて仕方ありません」 母親が寄せた手記には美帆さんとの思い出と公表した理由が綴られていました。

「裁判で甲さん、乙さんと呼ばれることには納得いきません。どこにだしても恥ずかしくない自慢の娘でした。娘は甲でも乙でもなく美帆です」 「社会全体でもこのような悲しい事件が2度とおこらない世の中にするにはどうしたらいいか議論して考えて頂きたいと思います」

「事件を後世に伝える」

神奈川県によると今年8月から同じ場所でのやまゆり園の運営が始まるのにあたり、遺族の一部から「慰霊碑に名前を刻んでほしい」という声が上がり、犠牲者7人の名前が刻まれました。

犠牲者7人の名前が刻まれた慰霊碑
犠牲者7人の名前が刻まれた慰霊碑

追悼式のあとの記者会見で家族会の代表は「名前をだすことで生きた証というのを残そうと思われたのだと思う。複雑な思いを乗り越えながら名前を出したと思うので配慮をお願いしたい」と述べました。7人のうち報道が許可されたのは美帆さんら2人でした。

慰霊碑はヤマユリの花があしらわれ、19人の名前が刻めるようになっている
慰霊碑はヤマユリの花があしらわれ、19人の名前が刻めるようになっている

献花に来た元職員の男性は「19人の新しい居場所ができたと実感した。慰霊碑はこの事件を忘れずに、後世に伝えるためにあると思う。遺族の了解があれば19人の名前を刻んでほしい」と話しました。慰霊碑はヤマユリの花があしらわれ、19人の名前が刻めるようになっています。
 

熱海市土石流災害 県と市が不明64人の氏名公表

7月3日、静岡県熱海市でおきた土石流災害では7月22日現在、19人が死亡し、8人が行方不明となっています。行方不明者の捜索活動は二次災害のおそれや1メートルを超える泥土のために難航しました。当初は自治体などの聞き取りでおよそ20人が行方不明という情報がありましたが、災害に巻き込まれたのか連絡が取れないだけなのかが分からず、確定はできませんでした。

7月3日 熱海市でおきた土石流災害
7月3日 熱海市でおきた土石流災害

そうした中、発生から3日目の夜に静岡県と熱海市は連絡がとれない64人の氏名を公表して、テレビなどメディアが報じたことで災害対策本部に本人や関係者から連絡が入り、翌日朝には不明者は24人と分かり、捜索や確認作業が進みました。

命を救うために

災害が発生したときの死者・行方不明者の迅速な氏名公表は、誰が無事で誰が行方不明になっているかの安否確認が進み、円滑な救出活動と命を救うことにつながりますが、家族の承諾がないことなどを理由に公表しない自治体も数多くあります。

日本新聞協会は2020年3月、国と全国の知事に災害時の死者・行方不明者の氏名公表を求める要望書を提出し、神奈川県は災害時の氏名公表をすることになりました。

全国知事会の危機管理・防災特別委員長も務める神奈川県の黒岩知事は取材に対し、「私自身、国民の知る権利にこたえるために氏名公表すべきだと考えていました。自治体が家族の承諾を得てから出すというのは大変なことです。災害がおきれば公表するというルールを決めて、自治体は災害がおきたときに住民の命を守るために全力を尽くす。公表された氏名を報道するかどうかはメディアの責任です」と話しています。

神奈川県 黒岩祐治知事
神奈川県 黒岩祐治知事

全国知事会は今年6月、災害時の死者・行方不明者の氏名公表のガイドラインをまとめ、救出・救助活動の効率化・円滑化や知る権利に応える公益性をあげる一方で、個人情報保護や家族らへの配慮が必要だとして、統一基準ではなく各知事が判断する方向で議論が進んでいます。

熱海土石流災害 7月22日現在、8人が行方不明
熱海土石流災害 7月22日現在、8人が行方不明

13都県で死者がでて全国各地で被害があった2019年10月の台風19号、2018年7月の西日本豪雨などでは都道府県や各自治体、警察によって氏名公表の判断が分かれました。住む場所によって被災者や住民にもたらされる情報に格差があるのです。

今後、想定される南海トラフ地震や台風、豪雨災害など被害が広域に渡り、全国や県をまたぐ救出・救助活動が必要となる災害を考えれば、命を救うための迅速な氏名公表がどこで災害がおきても行われることが求められます。

問われる“実名”の在り方

事実を掘り下げて正確に伝え、判断材料として社会が共有し、人々の暮らしや安全に役立てるために実名報道は必要だと考えています。

やまゆり園で事件が発生したとき、メディアはこうした理由から実名公表を捜査当局に求めました。また2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件でも、被害者全員の名前が警察から発表されたのは事件発生から40日後で、事件の重大性・公益性から迅速な公表を要請しました。

 
 

一方で、被害者や家族、関係者の心情に配慮した報道は必要不可欠で、やまゆり園の追悼式では了承を得られた被害者について報道し、京都アニメーションの事件でもその後の被害者取材は同様の対応をしています。メディアスクラムへの対応や記者教育など報道への理解を得るための取り組みを続けているところですが、実名で報じる判断とその責任をこれからも果たしていきたいと考えています。

(執筆:フジテレビ報道局解説委員室室長 青木良樹)