2020年、県立高校に勤めていた30代の女性教師が、同僚の59歳の男性教師からパワハラを受けた後、自殺した問題で、宮城県の村井嘉浩知事は、2月6日の定例会見で、「自分の娘が被害者と考えると本当に許せない」と怒りをあらわにした。また、男性教師に対する停職3カ月という処分の妥当性については、「県教育委員会で基準の改訂などをよく検討してほしい」と苦言を呈した。
校長の指示を無視 執拗に追い詰める
2020年6月、宮城県の県北にある県立高校に勤めていた59歳の男性教師は、学校内の会議で30代の女性教師に対し、業務の進捗状況を執拗に問い詰めた。
女性教師から相談を受けた学校は、2人の業務上の伝達を「メモ紙」で行うことを決めたが、翌月の7月、男性教師は「自分を避けるような態度」への不満をぶつける手紙を、女性教師の机の上に置いたという。
この記事の画像(5枚)その後も男性教師は、校長からメモ紙や手紙を出すことをやめるように指示されたものの継続。10月には「仕事は一切お願いしません」などと書いた手紙を女性教師の机に置いた。
その翌日、女性教師は学校に姿を見せず、この日に自殺したとみられている。
村井知事「自分の娘が被害者と考えると本当に許せない」
この“パワハラ”による30代の女性教師の自殺について、村井知事は、2月6日の定例会見で、「若い職員を追い詰めてしまう。そして、大切な命を失うような事象につながったということは、本当にいたたまれない気持ちで、(男性教師に)強い憤りを感じる。自分の娘が被害者と考えると本当に許せない」と怒りをあらわにした。
一方、男性教師に対する処分について、県教委が懲戒処分の基準なども鑑み、「停職3カ月」としたことについては、「人を裁くということは、客観的な基準というものが必要であり、感情だけで処分することも簡単にはできない」と一定の理解を示した。
その上で、「これは教育委員会の問題で、私の方で『良い』『悪い』を申し上げるべきではないが、教育委員会は今後、同じような事象が起こった時に、どうすればいいのかというのはよく考えていただきたい」と、部局を超えて、県教育委員会に異例の苦言を呈した。
宮城県庁「部下が上司を評価」
一方、知事が直接統括する知事部局では、過去、パワハラを原因とした懲戒処分は1件もない。しかし、その状況も影響してか、知事部局にはハラスメントに対する懲戒処分の基準は定められていないという。
この状況について、村井知事は「“ハラスメント”と言っても、いろいろなハラスメントがあるので簡単には言えないが、(懲戒処分の基準)はつくらないとダメですよね。よく検討します」と述べた。
実は、宮城県の知事部局には独自の評価制度があり、ハラスメント防止に大きな成果をあげているとみられる。知事部局では、「部下」が「上司」を評価するシステムがあり、その評価内容を上司は一切見ることができず、直接人事課に届く。そのため、“問題のある”上司を、人事課が把握でき、何か問題が起きる前に、指導や部署異動などの対応を講じることができるというのだ。
村井知事はこのシステムについて、「今のやり方で全てうまくいっているわけでは決してないが、このシステムにより風通しは良い」と語った。
女性教師自殺後も…教壇に立ち続けた男性教師
女性教師が自殺した後も、教壇に立ち続けていたという男性教師。懲戒処分が下された2月2日の前日まで、学校で通常通りの勤務を行っていたという。
6日の定例会見で村井知事は、出席した記者から「民間企業では問題がある社員は、一度(現場から)外して調査をするような対応をとると思うが?」と問われたのに対し、「別のところで様子を見るといった形というのも大切なことかもしれない。知事部局で起きれば厳しく対応する」と述べるにとどめた。
2日の事案の公表以降、県教委には、電話やメールなどで懲戒処分の内容に関する意見が多く寄せられているという。それらの多くは、「停職3カ月」という懲戒処分への批判的な意見だ。
未来ある30代の教師が自ら命を絶った。何かを変える本気度が問われている。
(仙台放送)