36人が死亡し、平成以降最も多くの犠牲者を出した「京都アニメーション放火殺人事件」。25日に行われた裁判員裁判で、京都地方裁判所は青葉被告に「死刑」を言い渡した。

雪が降る中、23席の傍聴席を求め、409人が列を作った。

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傍聴希望者:真実も知りたいし、前から傍聴来させてもらってたんです。人のせいにしたり、被害妄想したり、それを聞かされたらすごい許せない気持ち。
傍聴希望者:貴重な人材の方々が失われたのが非常に残念だし、しっかりと裁判には、賢明な判決を期待したいなと。

■「主文、被告人を死刑に処する」

 午前10時半開廷。
裁判長:主文、被告人を死刑に処する。

判決を聞いた瞬間、青葉被告は微動だにせず、じっと下を見つめていた。

■2019年京都アニメーション第1スタジオが放火され36人が死亡する事件が発生

2019年7月、京都アニメーションの第1スタジオが放火され、36人が死亡、32人が重軽傷を負った。 事件直後に取り押さえられた青葉真司被告(45)。自身も瀕死の重傷を負いったが、医師らの懸命な治療により回復し、事件から4年あまりたった去年9月に裁判が始まった。

裁判で、唯一かつ最大の争点となったのは、青葉被告の「責任能力」。青葉被告は犯行動機について京アニの小説コンクールに落選し、「アイデアを盗まれたから」と起訴内容を認める一方、理解しがたい考えを法廷で語った。

弁護人:誰が小説を落選させたと思いますか?
青葉被告:ナンバー2です。
弁護人:どうしてナンバー2は落選させたと思いますか?
青葉被告:自分に発言力を持たせたくなかったのでは

検察側は「盗まれたと一方的に思い込み人のせいにしやすいなどのパーソナリティーが表れた犯行」と指摘し、「責任能力」はあったと主張。

一方、弁護側は青葉被告が重度の妄想性障害だったとして、「責任能力はなかった」と主張している。

■2023年9月から始まった裁判には遺族も参加

裁判には、遺族も参加した。

寺脇(池田)晶子さんの夫:息子は寂しさに耐え、文句も言わず、我慢して前向きに進んでいます。それを見ていると親としては本当につらいです。青葉さん、私たちがあなたを許すことができると、あなたは思いますか?

事件で犠牲となった寺脇(池田)晶子さん(当時44歳)。残された家族は、晶子さんを失ってから、懸命に生きてきた。

寺脇(池田)晶子さんの夫:あなたがやったことっていうのは、数十人を殺しただけじゃなく、その周りの人に対しても、殺してはいないけど、それに近い状態まで影響を与えているんだよ。それを何らかの手段をもって、青葉さんに伝えたい。

寺脇さんは、息子のためにも、裁判を通して青葉被告と直接向き合うことを決めた。

一方で判決を見届けられなかった遺族もいる。石田奈央美さん(当時49歳)は、27年間、京都アニメーションで作品づくりに携わってきた。

石田奈央美さんの母:まさかこんな形で終わると思わなかった。まだ死んだみたいに思わない。ときどき帰ってくるかなと錯覚起こすときもある。
石田奈央美さんの父:(奈央美さんの)位牌の前に立つと、どうしても『うぉー』ってなってくるんですよ。さっきまでそこで一緒にしゃべってたのに、それがパッとおらんなってしまった。

2人はなぜ娘が事件に巻き込まれたのか知りたいと、一日も早く裁判が開かれることを願っていたが、奈央美さんの父は、初公判の1カ月前に亡くなった。

石田奈央美さんの母:お父さんが生きてる時に(裁判に)行こなって言ってたけど、そりゃあもう行けんようになってしまったから、どうしようもない。私は苦しんで苦しんで死んでほしいって思ってる。ようけ人殺しといてな。なんで自分だけが生き延びなあかんの?おかしいやん。

遺族の意見陳述では、死刑を求める声が多く出る中、青葉被告は12月の被告人質問で遺族に対し、初めて謝罪の言葉を口にした。

検察:(法廷で)声を振り絞った方たちに思うことはありますか?
青葉被告:申し訳ございませんでしたという言葉しか出てきません。
検察:遺族の極刑をのぞむ言葉は覚えていますか?
青葉被告:はい。
検察:それについてどう思いますか?
青葉被告:やはりそれで償うべきだと思います。

最終論告で、検察側は「日本の刑事裁判史上、突出して多い被害者の数で、動機は理不尽かつ身勝手極まりない」と指摘し、青葉被告には改めて完全責任能力があったとして死刑を求刑。

一方、弁護側は「心神喪失によって無罪、もしくは心神耗弱によって減軽されるべき」と主張するとともに、「死刑が選択されるべきではない」と述べた。

■青葉被告に「死刑」判決 責任能力を認める

そして25日、判決の言い渡しを前に、京都地裁の増田啓祐裁判長から、「最後に言っておきたことはありますか」と問われ、青葉被告は少し考えたあと、ひと言答えた。

青葉被告:ありません。

裁判長は判決の結論にあたる主文の言い渡しを後回しにし、判決理由を先に述べた。最大の争点である刑事責任能力について、青葉被告が当時、妄想性障害だったことを認める一方で、裁判長「妄想が犯行に影響した程度は大きくなく、心神喪失でも心神耗弱でもどちらの状態にもなかった」と責任能力を認めた。

その上で「被害者らや京アニに一切の落ち度がないことは明白である」「人命の尊さを省みず、36人の尊い生命を奪った罪の責任は重い。死刑を回避する事情はない」として、青葉被告に死刑を言い渡した。

記者リポート:午後1時42分、京都地方裁判所は青葉被告に死刑を宣告しました。青葉被告は下をじっと見つめ微動だにすることなく聞いていました。

死刑が言い渡されたとき、法廷では涙を流す遺族の姿も見られた。

■判決を聞いた遺族は…

寺脇(池田)晶子さんの夫は、裁判に参加できたことについて検察などに感謝の気持ちを話した上で、判決への受け止めを語った。
寺脇(池田)晶子さんの夫:そのまま晶子にも子供にも伝えることができるかなという内容であったと思います。もっともっとアニメ描きたかっただろうし、子供の成長を横で見たかったんやろうなって、本当に無念だろうな。青葉さんの判決だけでは、まだまだ晶子の無念は晴れないだろうな。

自宅で判決を聞いた石田奈央美さんの母は…
石田奈央美さんの母:ちょっとくらい楽になりましたわ。心のね。(遺骨を)お墓に納めるということをなかなかできなかったんです、私。お父さんの1周忌にもなるし、気候のいいときに納めようと思っています。

青葉被告の治療にあたった医師の上田敬博さんは、治療中、何度も「罪と向き合い、償うべきだ」と伝えていた。
鳥取大学医学部附属病院 上田敬博教授:救命して裁判の場に立たせるというところまで来れたことについて、意味があったというか。申し訳ないんですけど、全く同情するつもりはないし、犯してしまった罪の重さを思い知ってほしいなと思います。

143日間と異例の長期間に渡った裁判。それぞれの思いを胸に、ひとつの区切りを迎えた。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月25日放送)

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