「兜は俺の方が先」　“先人がいて今がある”MLBの開拓者・村上雅則氏の知られざるもう1つの勲章

大谷翔平は、MLB最高年俸選手として2024年のシーズンを迎える。

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はるか60年前の1964年9月1日。
ニューヨークの夕陽を背に日本初のメジャーリーガー・村上雅則はマウンドへ登った。

南海に入ったらアメリカに行かせてやる

1961年、法政二高野球部は甲子園夏春連覇を達成した。エースは柴田勲、村上雅則はリリーフとして甲子園の土を踏んだ。
1年先輩の柴田は巨人に入団した。村上は大学に進学する予定だった。

その気持ちを変えたのは3年の秋、山梨・大月市の自宅までスカウトのために訪れた南海ホークス・鶴岡一人監督の一言だった。

「南海に入ったらアメリカに行かせてやるぞ」

1ドル=360円の時代。村上にとって、アメリカとは地球の裏側の夢の国。
頭に浮かぶ風景は大好きだったアメリカのテレビドラマ「ローハイド」の世界だった。

プロ入り2年目の春、サンフランシスコ・ジャイアンツに野球留学を果たす。
言葉もできないまま、好奇心をチカラに身長181cmの偉丈夫はアメリカ生活に順応していった。

1Aからスタートし、8月30日にメジャー昇格を告げられる。
選手登録枠が25人から40人となる9月1日。
村上は試合開始15分前にスタジアムで契約を交わしてすぐにベンチ入り。

ニューヨーク・メッツの本拠地シェイ・スタジアムでの1戦が日本選手初のメジャーリーガー誕生の舞台となった。
4対1とメッツリードで迎えた8回裏。その瞬間は訪れた。

村上雅則氏:
レフトの奥のブルペンから出て行ったんですけど、ちょっとスタンドを見たら緊張しそうでね。で、実際にグランドに入ったら、ものすごい観客の数で。4万人ぐらい入っていたと思います。指笛を鳴らしたり、とにかくすごかった。緊張しないようにね、ゆっくりと歩いていったんですよ　マウンドまでね。とにかく落ち着こうと思って、歌を口ずさんだんです。“スキヤキソング“、(坂本)九ちゃんの。

日本選手初、20歳のメジャーリーガーは、“上を向いて歩こう”をハミングしながら登板。
背番号10番は、1イニングを無失点に抑えた。

西海岸の名門、サンフランシスコ・ジャイアンツ。

中でもスーパースターは、1961年に首位打者を獲得したロベルト・クレメンテ外野手。プエルトリコ出身で村上の10歳年上だった。

村上はクレメンテから、こんな言葉をかけられたという。

「お前がいずれ大きく(BIG)になったら、社会貢献をしなければいけないぞ」

プエルトリコ出身のクレメンテは、シーズンオフにラテンアメリカの国々への野球道具はもちろん、食料などを送るチャリティー活動を積極的に行っていた。
村上はクレメンテから、メジャーリーガーの矜持(きょうじ)として、社会貢献はごく当然の行為であることを説かれた。

大地震が発生したニカラグアに向かったクレメンテは...

1972年12月29日、ニカラグアで大地震が発生。 3000本安打達成パーティー直後だったクレメンテは急きょ、飛行機をチャーターし救援物資を積んで、被災地ニカラグアを目指した。
しかし12月31日、その飛行機はクレメンテを乗せたままカリブ海に墜落。クレメンテは海に消えた。

“お前もいずれ大きくなったら── ”
クレメンテの言葉に応えるように、村上は、難民救済、知的障害のある人たちの五輪スペシャルオリンピックス、そして国内の震災等に向けた社会貢献活動を四半世紀にわたり続けている。

その活動を認められ、2023年10月には日米協会からマーシャル・グリーン賞が贈られた。スポーツ界から初めての受賞だった。

2024年1月22日には、第14回日本スポーツ学会大賞を受賞し、記念講演を行った。
25年もの間、社会貢献活動を続けたことは、国内であまり知られていない。

村上雅則氏:
ことし、元日に地震がありました。ダルビッシュがすぐに義援金をした。大谷だって、日本中の小学校にグローブを贈ったり。このあとも何かできることを考えているでしょう。東日本大震災の時、一番最初に被災地へ義援金を贈ったプロ野球選手は誰か、ご存知ですか? 当時オリックスの選手ですよ。朴賛浩(パク・チャンホ)です。そのあとに、皆続いたんですよ。

朴賛浩は、ドジャースを皮切りにメジャーリーグ7球団で活躍し、当時オリックスに在籍した韓国初のメジャーリーガーだ。
“メジャーリーガーのあるべき姿“は、メジャーリーガーを通じて脈々と受け継がれている。