2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪の新種目スキーモ(SKIMO)は、スキー競技にあらず山岳競技なり。日本の母体はJMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)。日本のNF(国内競技連盟)史上初の夏・冬五輪の両方をつかさどる競技団体となった。

信濃路の桜がようやく満開を迎えた4月20日。本州屈指のスキーエリア志賀高原では、第18回スキーモ日本選手権・男女スプリント決勝を迎えていた。
レースは高低差、約70メートル、長さ約550メートルのコースを登って下るワンウェイ。
見守るのはスキーモを知るコアな観客と、関西をはじめ本州各地から雪を求めて集まったスノーボーダーたちだった。
街では桜が咲き、ゲレンデでは雪がぬかるむ季節。ウィンタースポーツとしてはかなり春に食い込んだ日本一決定戦となった。
新しい競技は未知のときめきに満ちている
2021年、東京五輪で初めて実施されたクライミング競技。
この時は、スピード・ボルダリング・リードの3種目の複合で争われた。
色鮮やかな壁面を舞台にするクライミングは、“山岳”という重厚な印象を軽やかなスポーツへと変換した。
この時、東京で開かれたIOC(国際五輪委員会)総会で、2026年冬季五輪のスキーモ競技の実施が承認された。
競技名の「スキーモ(SKIMO)」とは、山岳スキー(Ski Mountaineering)の略語で、アルプス国境警備隊の訓練が競技の原点といわれる。2026年ミラノ・コルティナ冬季五輪で実施される種目は、男女スプリント、混合スプリントの3種目。男女18人ずつ合計36人の出場が予定されている。
山岳とスキーのハイブリッドスポーツ
4月20日、志賀高原で行われた第18回日本選手権。
レースは雪の急斜面を昇降するアルプス国境警備隊に倣ったコース設定。

スキー板を履いてスタートする前半にはトランジットが3カ所あり、スキー板を着脱して登攀(とうはん)を繰り返す。第1トランジットでは板を外し、背中に担いで登る。第2トランジットは再びスキー板を装着して登る。

コース最高点となる第3トランジットでは、スキー板滑走面に貼ってあったシールをはがして滑降。このアルペンエリアで旗門を通過して、ゴールまではクロスカントリー。
スキーモは、クロスカントリー、バックカントリー、アルペンといったスキー競技と、板を外してブーツで斜面を登る“ツボ足”という登山の要素を持つハイブリッドなスポーツである。
アルプスが原点のスキーモ。ヨーロッパが圧倒的だが、五輪新競技となり日本のトップ選手の目は世界を見つめている。

男子スプリント4連覇・島 徳太郎(25):
五輪に出場するような人生設計は考えていなかった。趣味で山を走り、山岳ガイドをして、楽しみとしてスキーを始めました。日本での優勝はとてもうれしいことだが、今は世界を目指しているので。クロスカントリー、トランジット、アルペンと練習することがたくさんあるけど、それがスキーモの魅力だと思います。
茨城生まれ・山好きな島は練習環境を求め、長野・木島平村へ移住した。

男子スプリント4連覇・島 徳太郎(25):
スキーだけではなくロードバイク、マウンテンバイクなど良いアクティビティーの中でスキーモの練習もできる。スキー技術向上ができる土地柄と人柄。スキーモはスキー要素の集大成で、約3分間の中にすべてがある。

女子スプリント初優勝・上田絢加(あやか)(32):
今季は半年間、ヨーロッパ遠征をしました。移動日以外は基本的に練習です。五輪枠の獲得は非常に難しいけれど、今季しっかりと戦えました。最後の1戦まで気を抜かずに頑張りたい。この夏にできることをすべてやっていきたいと思っています。
大阪で生まれた上田は、小学生時代にスキーと出会い、現在はスキーモでの五輪出場を目指し群馬県に移住。今回念願の日本一を手にした。
2026年へのチャンスはあと一度
世界選手権、ワールドカップなど上位はヨーロッパ勢が占める。アジア枠争いは中国が抜け出している。今季の戦いを終えた今、来年のミラノ・コルティナ冬季五輪への出場の可能性は、来季12月のワールドカップ初戦となる。
SKIMO JAPAN・松澤幸靖コーチ:
島選手が世界で20番に入れる実力を備えてきた。体力・滑りの技術を鍛えたい。ジュニア選手も確実に増えました。日本が一体となって鍛えられたと思います。
「東洋の黒猫」と呼ばれた男
1956年、イタリア・コルティナダンペッツォ冬季五輪。7回目の冬季大会で世界を驚かせる日本選手が出現した。

小さな体に黒のスキーウェア。俊敏な身のこなしで雪面を滑走する猪谷千春だった(当時24歳、現在93歳)。猪谷は「東洋の黒猫」と呼ばれた。アルペンの3冠王トニー・ザイラーに続く銀メダルを獲得。これが日本冬季五輪史上で初めてのメダルである。コルティナダンペッツォは、日本の冬季五輪史に残るゆかりの地といえる。
JMSCAは日本で唯一の役割
クライミングを、夏季五輪競技、そして人気アーバンスポーツとして定着させたJMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)。

そのノウハウを生かし、冬季五輪で新競技スキーモをいかに発展させるか。クライミングでは競技を支える3本柱=強化・普及・育成で確かな成果を得て、資金・人材も拡充。東京五輪、パリ五輪と連続メダル獲得に成功した。
日本人とスキーモの将来
スキーモ競技、ことにスプリント種目は、約3分の中に複雑なコトが盛りだくさんだ。スキー板、ブーツ、シールなどの用具。スキー板を外す、束ねる、担ぐ、履く、登る、滑る等の動作。こうした複雑なコトを整理→分析→学習→工夫→修得→達成するのは日本人が得意とするところなのでは...と、五輪新競技への期待は膨らむ。