自民党の政治刷新本部が相次いで会合を開いている。「BSフジLIVEプライムニュース」では「プライムニュース版政治刷新会議」と題し、政治とカネをめぐる様々な課題に対して必要な改革について、識者を迎え徹底議論した。

派閥とカネを切り離すには? パーティーには独立した監督者を

新美有加キャスター:
ゲストの皆さんには、事前に5つの政治改革のテーマについて意見を伺った。まず、派閥の存続については全員条件付きの○。

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成田憲彦 元総理秘書官 駿河台大学名誉教授:
自民党の選択なので口出しはしないという意味。なお歴史的には、自民党が野党になると派閥が失われたり機能を失ってきた事実はある。

岩井奉信 日本大学名誉教授:
人間の集団で、リーダーが多数決で決まる上でグループが存在するのは必然。派閥は自民党に不可欠で、なくなることはありえないのだろう。それはご自由にということ。いろんな政策が引っ張り合って落ち着くという意味で、多様なグループがあること自体は悪いことではない。問題は派閥をどうカネと切り離すか。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐 前政治部長:
不透明な金の流れがある現状の派閥はもちろんダメ。ただ、政策集団の機能を持つ派閥はあっていい。個々の議員が有権者の多様なニーズを吸い上げ、多数派を形成して政策決定に反映させるのは与党の機能。加えて政党としての教育機能という意味で、派閥に一定の理解は持っていい。

新美有加キャスター:
派閥の資金集めパーティーの存続について、成田さんと林さんは条件付きの○。一方で岩井さんは×。

岩井奉信 日本大学名誉教授:
ダメと言うわけではない。だが政治とカネの問題が派閥解消論とセットで議論されている今、自民党が改革姿勢を示すならば、矜持として派閥パーティーをやめると言うべき。個人や政党支部などの他のパーティーも当然、より規制を厳しくすることは要るだろう。

成田憲彦 元総理秘書官 駿河台大学名誉教授:
日本の政治資金規制制度の最大の問題は、検察の前に行政の対応がないこと。総務省は政治資金規正法の所管官庁だが監督官庁ではない。調査権や質問権などの権限がない。諸外国には行政対応がある。パーティーの問題について言えば、1年間パーティー禁止の処分が出るとか、政治団体の登録において1年間の資格停止などが必要。監督機関を置くべき。

新美有加キャスター:
アメリカ、イギリス、フランスなどには独立した政治資金監督機関がある。日本は年1回の収支報告書を総務省に提出する義務はあるが、独立した監督機関がない。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐 前政治部長:
私はどちらかというと成田さんの意見に近く、収支の透明化、違反した場合の厳罰化、きちんと取り締まる監督者なしには派閥のパーティーを開いてはいけない。

「政策活動費」の使途報告は不要なのではなく、うやむや状態

新美有加キャスター:
現状、政党などへの企業・団体献金の限度額は、規模に応じて年間750万円から1億円まで制限されている。林さんは×、岩井さんは○、成田さんは条件付きで○。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐 前政治部長:
やや乱暴な議論だと承知した上で、一度やめませんかと。一度は政治家への企業・団体献金をやめるところまで話が進んだが、骨抜きになり政党への献金は残った。

岩井奉信 日本大学名誉教授:
企業も国家を形成する一員であり、政治にアクセスする権利は認めるべき。もう一点、例えば医師会や労働組合の献金は個人献金。つまり業界団体の献金は企業献金を禁止しても止まらない。企業献金は制約をかけた上で残してもいい。ただ政党支部への企業献金は認めるべきではなく、また1億円の上限などについては考える必要があるかもしれない。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐 前政治部長:
「政党交付金をもらっているじゃないか」というのが国民の皆さんの素直な感想だと思う。その原資は税金。税金は企業も納めており、間接的に企業も政治への関与をしていると解釈できるのでは。業界側が献金の内容を集計し公開するなら企業・団体献金を続けてよいのかも。

新美有加キャスター:
政策活動費の是非について。政策活動費とは、政党から党の幹事長など政治家個人に渡される政治資金を指し、党勢拡大や政策立案、調査研究などに使用される資金。幹事長などが受け取ったときに領収書さえ政党に返せばいわゆる「渡切」となり、その後の使途報告の必要はないという実態が問題となっている。成田さんは条件付きで○、岩井さんと林さんはそれぞれ×。

成田憲彦 元総理秘書官 駿河台大学名誉教授:
政策活動費の実態はいわば自民党の役職者の経費で、全部やめるわけにはいかない。また極めて不正確な理解が蔓延しているので正したい。「使途報告必要なし」だと説明されているが、使途を明らかに「しなくてよいお金」ではなく「していないお金」。必要はあるが、うやむやにされている。

反町理キャスター:
なるほど。

成田憲彦 元総理秘書官 駿河台大学名誉教授:
党から幹事長に9億円が渡るとき、寄付なら幹事長個人のお金になり、個人の献金規制があるから配ることに批判が出る。そこで「あれは寄付ではない、渡った後も経費だ」と皆が言い出した。すると渡切の後も、党のお金だから幹事長は自由に配れる。政治資金規制法10条の私の解釈ではここでも明細書を会計責任者に提出しなければダメだが、幹事長が党から金を受け取るときに領収書を書いてしまえば党は収支報告ができてしまい、監査には通ってしまう。改革案としては、渡切の額に上限を設けること。

反町理キャスター:
政策活動費はいいが上限を設けるべきで、明細の報告を求めると。

岩井奉信 日本大学名誉教授:
政治資金規制の大原則は公私の峻別だから、政治家個人でなく団体にお金を出すべきで、そうでなければ渡切の額に限度を設ける。突き詰めれば、地方議員への手当など日本の政治文化を変えなきゃいけない。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐 前政治部長:
非常に闇が深い費目。最終的な使途の検証ができないことが最大の問題。検証できるシステムを作ること。また、どうすれば選挙にお金がかからないようになるかという点も併せて考えていく局面になったと思う。

罰則として“連座制”の強化は効果的 公明党の役割は大きい

新美有加キャスター:
会計責任者が罪に問われた場合、政治家も罪に問われる“連座制”などの罰則の強化について。全員が必要だとの回答だが、今までは緩かったか。

成田憲彦 元総理秘書官 駿河台大学名誉教授:
細川内閣の公職選挙法改正では連座の対象を秘書まで含め、当選無効に加えその選挙区から5年間立候補できないようにした。村山内閣では組織的選挙運動管理者という概念を作り、連座の対象にして劇的に買収が減った。

岩井奉信 日本大学名誉教授:
検察が判例を積み重ね、選挙違反も大幅に減った。連座制は非常に効く。今回の問題でも、会計責任者が罪に問われれば自動的に議員が連座の対象になるなら罰則の強化になる。

反町理キャスター:
公明党の山口代表は、決め手は罰則の強化で連座の強化も一つの手段だと述べた。自民党の森山総務会長も、やむを得ない措置かもしれないと。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐 前政治部長:
悪くない流れ。連座制は今回の一つの着地点としては必須。公明党がどれだけ自民党にきちんと言えるか。国民世論の高まりが非常に大事。

岩井奉信 日本大学名誉教授:
公明党は今回の問題で弱点がない。パーティーをやっておらず政策活動費もない。強く言っているのは非常に良い傾向。

成田憲彦 元総理秘書官 駿河台大学名誉教授:
自民党は、野党と折衝する前に公明党と合意できるか。野党を巻き込んで政治改革協議会を作れるかどうかのキープレイヤーは公明党。

今の政治刷新本部に抜本的な改革はできない 政権交代は起こるのか

新美有加キャスター:
自民党の政治刷新本部の顔ぶれは総勢38名。最高顧問に麻生副総裁と菅前総理、本部長に岸田総理、また各派閥からそれぞれ入っている。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐 前政治部長:
抜本的な改革はできないと思う。本当にやる気があるなら、少人数のしがらみのない若い議員で総裁直属のチームを作り、その野心的な案について総裁自らが役員たちを説得して回ることが必要。だが、物事を進めるならこれ以上ない組織ではある。連座制など、一部前進はあるかも。

岩井奉信 日本大学名誉教授:
これはミニ自民党で、会合を見ても議論になっていない。様子見とガス抜きをしているだけと思える。野党の支持率がまだ低く余裕があるのかもしれないが、世論を甘く見ている感じもある。

成田憲彦 元総理秘書官 駿河台大学名誉教授:
有識者による審議会ができて政府法案が出るか、そうならず与野党協議会から与野党合意案が出るか、または与野党それぞれから法案が出るか。それ以外の第4のルートとして、政権交代と政治改革政権の成立がある。次の解散総選挙でどうなるか。

反町理キャスター:
今の自民党に、政権交代に対する危機感はあるか。

岩井奉信 日本大学名誉教授:
リクルート事件時に比べれば危機感は小さく、足をすくわれる可能性がゼロではない。岸田政権に対する不信感が累積してくれば政権交代があるかもしれない。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐 前政治部長:
期待したいが、現実問題を冷静に考えれば簡単ではない。野党が分裂しており受け皿になっていない。公明党がどう出るか、また自民党から飛び出す人が出るか。細川政権前夜のような空気が醸成されるかは国民にかかっている。
(「BSフジLIVEプライムニュース」1月17日放送)