1月1日に起きた能登半島地震。発生直後に被災地へと向かい、救助活動にあたった大阪市の消防隊員たちがいた。彼らが目の当たりにしたのは、被災地の壮絶な被害の実態だった。

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「しっかり、次担架入れるよ。担架用意して」
「お母さん、よくがんばったね」

発災から72時間後、大阪府の緊急消防援助隊が崩壊した家の下敷きとなった女性の救出に成功した場面だ。その現場にいた、田中真也小隊長と大江健介隊員。2人は海外で大災害が発生したときに派遣される「JDR(国際緊急援助隊)」に選抜されている精鋭隊員で、過酷な訓練を経て、今回の災害救助に臨んでいた。

■大阪府の緊急消防援助隊 道路は寸断・通信が途絶える中、現地へ

大阪市消防局 田中真也消防司令:最初は、災害の大きさがイメージできていませんでした。正直。

救助隊が出発したのは、発災から約4 時間後。被災地に近づくと、だんだんとその過酷な状況が見えてきた。道路が寸断される中、通信が途絶えて状況を十分に把握することができず、輪島市に到着したころには、ほぼ丸1日が経過していた。

大阪市消防局 田中真也消防司令:特殊車両を連れていくので道が限られてきます。 地割れもありますし、道が崩れている。2車線あっても、片側以上に崩れてる道もいっぱいありました。

大阪市消防局 大江健介消防司令補:なんとか早くたどりついて、救助活動にあたりたいという焦りと、なかなかたどりつけない、もどかしさがすごいありました。

1人の命も救えない中、到着した翌日、2人は衝撃的な現場を目にした。倒壊したビルに到着すると、下敷きとなった女性のそばに、助けが来ず、どうすることもできない家族の姿があった。

大阪市消防局 田中真也消防司令:少し興奮気味、当然興奮すると思います。我々が活動止めてしまうと、その方(家族)が中に絶対入っていくような状況でしたので、『我々に任せてください』と。

発災から3日の間で13回もの緊急地震速報があった。何度も揺れが救助隊を襲い、倒壊した建物での救助活動を中断して、退避しなければならない場面が繰り返された。

「出ろ、出ろ」「退避―」

大阪市消防局 大江健介消防司令補:次に大きな地震があれば、自らが命を落としてしまう可能性もあるなと頭に入れて活動していたんですけれど。夫、娘さんの姿を見て、その涙を見て、『絶対に助けに行く』と強く思いました。

1月3日の午後10時すぎ、隊員たちに動きがあった。

記者リポート:いま下敷きとなった女性の体が外に出されたものとみられます。発災からは2日以上経過しています。雨の中、消防による救助活動が続けられていました。

しかし、女性が再び息をすることはなかった。

大阪市消防局 田中真也消防司令:家族の方に亡くなっている状況を、『死亡確定』と伝えるのは大変つらいです。大変心苦しかったですけれど、状況を説明させていただきました。

大阪市消防局 大江健介消防司令補:できるのであれば、もっと早くに到着して、生きた状態で救出してあげたかったという思いです。

■「72時間」迫る中 親子が下敷きになっているとの情報

発災からは50時間が経過。安否不明者の数すら明らかにならない中、「72時間の壁」が迫っていた。

大阪市消防局 田中真也消防司令:(発災から)72時間までだと、“生存救出”の可能性が高い。時間は当然意識しました。だいぶたってるなと。

1つの命も救えぬまま迎えた1月4日。親子が下敷きになっている情報が入り、駆け付けたのが、倒壊した住宅だった。生存が危ぶまれる状況の中、大江隊員に“声”が届いた。

大阪市消防局 大江健介消防司令補:呼びかけをさせてもらったときに、聞こえるか聞こえないかくらいのかすかなうめき声が聞こえまして、どけていくと女性の白髪、頭部が見えまして。

このとき、2つの偶然が重なっていた。一つは、この家に住む80代の女性のそばにあったテーブルの脚が、崩れた屋根に対して支えになっていた。そしてもう一つ、家のはりの下敷きになって死亡した息子が、女性をかばうようにして守る形になっていた。

大阪市消防局 大江健介消防司令補:手を握らせてもらったんですけど、そのときにしっかりと握り返してくれましたので、その瞬間に生きておられると確信に変わりまして、必ず助けると強く思いましたね。

わずか40センチほどのスペースの中で、女性との間にある障害物を撤去していき、発災から72時間後のこと…

消防隊員:もう出ます、もう出ます
大阪市消防局 田中真也消防司令:はいOK。次担架いれるよ、担架用意して。大丈夫、大丈夫。
消防隊員:お母さんよく頑張ったね。
大阪市消防局 田中真也消防司令:頑張ったね、大丈夫やからね。

しかし、約200人からなる大阪府の緊急消防援助隊が6日間で命を救えたのは、この女性を含む2人だった。

大阪市消防局 大江健介消防司令補:亡くなられている方は、たくさんといいますか、複数いるんですけれども、やはり72時間という時間の限界がある中で、生きておられる方を1名でも多く救出できるように、優先順位づけをさせていただいた。

全ての命を救うことは叶わない。被災地の現実と向き合いながらの救助は、今も続いている。

■悪天候やインフラ被害 厳しい状況で救助活動は続けられる

大阪消防の田中さんは、13日に再び石川県に入って救助活動を再開している。そんな田中さんに最新の救助活動の状況について話を聞いた。

‐Q:二度目に入って現場の状況に変化はありますか?
大阪市消防局 田中真也消防司令:今回、派遣されてきたら、天候が変わりまして、大変雪も積もっているので、環境が我々の活動としては大変厳しいものになっています。

‐Q:どういう思いで活動に取り組んでいますか?
大阪市消防局 田中真也消防司令:発災から時間がたちました。ただ、我々としてはいち早く(不明者が)家族の元に引き渡せるような活動を目指したいと思っております。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月15日放送)

関西テレビ
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