最大震度5強を観測した能登半島地震で、富山県各地で240件以上見つかった「ブロック塀の倒壊」。命を奪いかねない危険性がある一方、撤去は所有者の判断に委ねられている。過去の地震では小学生が犠牲に。今一度見直しが求められている。
「作業が追いつかない」
この記事の画像(9枚)高岡市下牧野の住宅。
能登半島地震によって高さ約150センチのブロック塀が14メートルにわたって倒壊し、道路を塞いでいた。
ブロック塀が倒壊した家に住む人は、ブロック塀は建てて50年近く経ち、改修を検討していた矢先の地震だったと話す。
自力で動かすことは難しく、住人は1月6日、高岡市に崩れたブロックの回収作業を依頼し、16日に撤去された。
高岡市環境政策課では、1月5日に、倒壊したブロック塀の回収を市が引き受ける施策を打ち出して以降、市民から700件以上の希望があり、緊急性の高いものから順番に取り組んでいるというが、作業が追いつかない状況だ。
今回の地震でブロック塀の倒壊は富山県内のいたるところで見られ、中には、小学校の通学路でブロック塀が横倒しになっていたところもあり、もし通学時間帯だったらかなり危険だった。
県内のブロック塀の被害は、県が把握しているだけでも244件に上り、実際はさらに多いとみられるが、幸いにもこれまでに人身被害の報告はない。
「危険な塀、実態把握は困難」
2018年、最大震度6弱を観測した大阪北部地震では、小学生が倒れたブロック塀の下敷きとなり亡くなった。
ブロック塀の危険性が全国的な問題となり、県内でも学校などの公共施設では、点検や撤去が進められてきたが、一般住宅では危険な塀がいまだに多くあることが、今回の地震で浮き彫りとなった。
危険な塀の解消に行政も対応を迫られているが、制度上、実態の把握は困難だと言う。
富山県建築住宅課 大村俊一副主幹:
「塀だけを単独で建てた場合、何の届け出も必要でない。もちろん建てて頂く方に申請はいらなくても建築基準法を守らなければいけないということはございますので、自主的な判断をもとに安全なものを作って頂いてるとは思っているんですけど、全貌を把握する機会は正直ない」
建築基準法では、ブロック塀は、高さ2.2メートル以下で、コンクリートの基礎があり、3.4メートル以内の間隔で塀を支える控え壁を設置することが義務付けられている。また、中に鉄筋が入っていない場合は、高さが1.2メートル以下など、さらに制限が厳しくなる。
富山県はこれらの基準を満たしているか確認を促すとともに、不適合のブロック塀の撤去に、2023年度から国、市町村と連携して補助を設け、2023年11月までに46件の申請があった。
倒壊すると通行人の命を奪いかねない危険性がある一方で、撤去するかどうかは、所有者1人1人の意識に頼るしかないのが現実だと言う。
富山県建築住宅課 大村俊一副主幹:
「ブロック塀の所有が個人の所有物になる。なので私どもがこれは危険だと思っても、勝手に撤去することができない。これが1つ大きな問題で、倒れたときに明らかに歩いてる人に被害が及ぶということがございますけれども、倒れてしまわない限りは…倒れてしまえば道路の管理者という権限で色々対応ができると思いますけど、そうでなければ個人の所有物なもので、私共の方で勝手にというわけにはいかないというのが悩ましい」
「制度としてブロック塀までみていこうという姿勢は行政側からは見えにくい」と専門家は指摘する。
「新しい物でも安全でないものが」
地震によるブロック塀の倒壊を長年研究してきた、東北工業大学名誉教授の最知正芳さんは、ブロック塀の実態について、比較的新しいものでも安全でないものが多くみられるとして、警鐘を鳴らしている。
東北工業大学 最知正芳名誉教授:
「(ブロック塀は)鉄筋コンクリート工学の知識などに則って作る必要が本当はあるが、専門でなくても独自にこれでいいだろうと作ってしまうということが繰り返されてきた。存在しているブロック塀の相当数が規定から外れているという事情が見えている」
国が示しているブロック塀点検のチェックポイントでは、塀の高さや厚さ、そして控え壁の設置など、どれか1つでも当てはまれば危険なので早急に改善してほしいとしている。
最知さんによると、塀を全て壊して建て替えるのではなく、上側を軽いアルミ製のフェンスにするなど、比較的費用が安く済む方法もあるという。
一般の人にはその工法が適切か判断するのは難しいことから、安全性のためには、コンクリートの部分の高さを低くする方向で、検討してほしいと話していた。
(富山テレビ放送)