能登半島地震をめぐり、危機対応のあり方が議論となっている。2024年は各国で重要な選挙が行われることの影響も想定される中、日本にはどのような安全保障上の備えが必要なのか。「BSフジLIVEプライムニュース」では小野寺元防衛相と北村前国家安全保障局長を迎え、日本の安全保障の指針について伺った。

能登半島地震への対応、ヘリコプター運用における問題点とは

新美有加キャスター:
能登半島地震への自衛隊の対応について、2016年4月の熊本地震と比較。初動対応部隊の派遣タイミングはほぼ同じだが、県知事による災害派遣要請は熊本で74分後、今回は35分後。派遣された自衛隊の規模は、熊本では発生から9日で約2万5000人。今回は当初1万人体制の部隊を編成したが実際の派遣は約6300人(1月9日時点)。

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小野寺五典 元防衛相:
熊本には自衛隊の主力部隊がおり招集しやすかった。だが今回は愛知県にいる部隊が行くため時間がかかる。また半島部であり道などが狭く、いきなり多数が行くよりヘリコプターによる航空戦力中心の対応となる。だが今回、UH-60Jという災害救援の主力ヘリが、2023年春の事故調査が完了しておらず飛べていない。また大量輸送力があるオスプレイも、米軍による事故以来飛ばしていない。これらが重なり難しさがあったと思う。現場はしっかり頑張ってくださっている。

反町理キャスター:
オスプレイは外的な要因もあるだろうが、UH-60Jが事故から8カ月経っても運用できていないのはどうか。

小野寺五典 元防衛相:
普通は3〜4カ月、延びても半年で事故調査をする。正確な調査は必要だが、早く一定の結論を出して任務につけるようにしておかなければ。

反町理キャスター:
東日本大震災では、発災5日後にアメリカの輸送機が仙台空港に着陸した。いわゆる「トモダチ作戦」。一方で能登空港はまだ動けていない。

小野寺五典 元防衛相:
少なくともあれだけの広さがあればヘリコプターは十分使える。一点、米軍は物資供給時にヘリが上空から落とす。自衛隊は今まで、着陸して安全なところで物資を輸送するという丁寧なやり方だった。ある程度米軍の方法で行うことも含め、教訓に。

新美有加キャスター:
今回の地震で、SNSを中心に偽情報が拡散した。「息子がタンスの下に挟まって動けません」という無関係の人による嘘の救助要請、東日本大震災のものとみられる津波の映像を使用した投稿など。悪質な偽情報ヘの対応は。

北村滋 前国家安全保障局長:
総務省でも検討が始まり、それなりの報告書も出ている。情報が正しいのかというファクトチェックと、社会的な悪影響へのリテラシーが重要。官だけではなく民、マスメディアの役割は大きい。プラットフォーマーである事業者の協力も必要。真偽性に疑いのある情報にシグナルをつける取り組みもすでにある。

「台湾が親中政権に」「アメリカがトランプ政権に」の可能性と影響

新美有加キャスター:
2024年、世界で重要な選挙が多く予定されている。1月13日には台湾総統選、3月にロシア大統領選、4月に韓国の総選挙、11月にはアメリカ大統領選。

北村滋 前国家安全保障局長:
台湾総統選挙は非常に重要。またアメリカ大統領選も、バイデン大統領の再選ならば見通しは比較的明瞭だが、トランプ氏となれば予測不可能性が高まる。

新美有加キャスター:
台湾総統選には3人が立候補。親中度が低い順に、現副総統で与党・民進党党首の頼清徳氏、野党第2党・民衆党党首の柯文哲氏、そして最大野党・国民党の侯友宜氏。

北村滋 前国家安全保障局長:
どの候補が当選しても現状維持の政策は変わらないと思うが、対中強硬派と言われる頼氏が選ばれた場合の中国の反応は注視する必要がある。

反町理キャスター:
日本の防衛を考えたとき、誰が勝つのがいいのか。

小野寺五典 元防衛相:
台湾の国民による民主的なプロセスであり、日本からあの人がいいと言う話ではない。ただ、皆が中国の仲間になれば日本は孤立する。中国のやり方がおかしいと言う人が多ければ仲間は多い。私たちはそういうスタンスで見たほうがいい。

新美有加キャスター:
アメリカ大統領選でトランプ前大統領が返り咲くか。支持率は、他の共和党候補者との比較で62.6%と圧倒的。現職との比較ではトランプ氏の46.1%に対しバイデン大統領は44.9%。

北村滋 前国家安全保障局長:
2016年の初当選時と比べ、トランプ周辺の人脈は把握しやすい。周辺の人の話を聞いたところ、対中政策が大きくぶれることはないと思う。ただ、ウクライナ等については急激な政策変更の可能性もある。またアメリカと欧州との関係が悪化すれば、国際的な枠組みで進める経済安全保障政策などが若干滞ることは視野に入れておく必要がある。

小野寺五典 元防衛相:
トランプさんには「世界平和のために」よりは「この問題があなたの利益に繋がりますよ」をしっかり刷り込んでいくこと。安倍元総理がいない中、もし「トランプ2」となるなら就任前に早くしなければ。

新美有加キャスター:
国内政治は自民党内の混乱で不安定。これによる安全保障リスクは。

北村滋 前国家安全保障局長:
アメリカの方々はかなり心配している。これまで積み上げてきた安全保障機構改革、安全保障政策、安保関連3文書などが確実に実行されていくと伝えるのが非常に重要。政治的な不安定さが抑止力を弱めることがあってはいけない。

小野寺五典 元防衛相:
今の自民党内の雰囲気は、非常に息を潜めて成り行きを見ている状況。早くこの問題を決着させ、再発防止をしながらもう一度しっかりした布陣で安全保障関連を進めたい。

台湾との関係上ウクライナ支援は必須だが、対露関係も安定させたい

新美有加キャスター:
ロシアによるウクライナ侵略、ガザでの紛争は2024年になっても終息の兆しが見えず。

北村滋 前国家安全保障局長:
いずれも時間がかかると見る。アメリカではウクライナ支援が超党派のコンセンサスを得られておらず、一部の見方では欧州でも揺らぎつつある。時の経過が必ずしもウクライナに利するものではない状況。またガザでも地下道における戦いが戦術的に困難。イランと軌を一にするヒズボラなどがアメリカに対し攻撃を始めており、紛争拡大の可能性がある。戦闘で物事が解決する状況ではない。

反町理キャスター:
人道的にロシアの侵略は非難してもし足りない。だがウクライナ支援だけで日本の将来的な国益となるか。とるべき姿勢は。

北村滋 前国家安全保障局長:
我が国がウクライナを強く支援しなければいけない理由に台湾との関係がある。プーチン大統領の力による現状の一方的変更が成功するかどうかは、台湾の再統一における武力行使の可能性について言及を続ける習近平主席にとって非常に重要なポイント。ただ一方で、隣国としてのロシアと安定的な関係を構築することが安全保障に繋がる。

防衛装備の輸出は相手国との関係強化においても重要

新美有加キャスター:
2023年末、防衛装備移転三原則の運用指針が改定された。外国の企業が開発し、許諾を得て日本企業が製造する「ライセンス生産」の武器について、部品だけではなくアメリカを含む全ライセンス元国への完成品、つまり武器の輸出が可能に。日本の同意があれば、ライセンス元国は戦闘中と判断される国を除く第三国への武器提供も可能となった。

小野寺五典 元防衛相:
ウクライナや中東の支援でアメリカ自身の武器庫が空になれば、日本の安全保障に直結するのでアメリカに売るということ。今後の課題として、他国と共同開発で作ったものに関して、殺傷力のある戦闘機であっても第三国に出すことの議論をしている。

反町理キャスター:
現状では第三国への売却ができない。それでは、防衛装備の移転の一つの根幹コンセプトである日本の防衛産業の育成が欠落してしまうと。

小野寺五典 元防衛相:
日本の防衛装備を輸出し使ってもらえば、その国との関係は同盟に近いものになる。日本とイタリアとイギリスの3カ国で次期主力戦闘機を作る計画が進んでいるが、対等な形で共同開発をしていくべき。

北村滋 前国家安全保障局長:
武器輸出三原則は、憲法の要請ではなく「平和主義」から来ている。朝鮮特需では、占領下ではあったが我が国の武器がアメリカに出されて景気が回復した。その後、武器輸出三原則が決まった1967年まで小火器の輸出は続いていた。我が国を取り巻く安全保障環境に応じる形で、防衛装備移転三原則は可変的であるべき。

反町理キャスター:
中国は「国際社会の高い警戒と強烈な憂慮の念を招いている」。ロシアは「日本製ミサイルがウクライナ軍の手に渡れば、ロシアへの敵対行為と見なし日本に深刻な結果をもたらす」と強い反発。ロシアからすれば、日本製のミサイルがアメリカに行き、それ自体ではなくともアメリカのミサイルが玉突き的にウクライナに行くように見えるのでは。

小野寺五典 元防衛相:
さんざん防衛装備を世界中に売っている両国から言われるのはどうなのかと思う。玉突きの意図は全くなく、あくまでアメリカの弾薬庫が空では困るから。聞き流していい話。

反町理キャスター:
最後に一点。視聴者の方から「尖閣周辺では19日連続で中国海警局が航行。日本は中国が設置したブイの撤去ができていない。いつまでこの状況を許すか」。

小野寺五典 元防衛相:
既成事実化させないよう根拠をもって対応すべき。移設して中国側に持っていってあげるということも。

反町理キャスター:
撤去だけが方策じゃないと。

小野寺五典 元防衛相:
「ここにあったら危ないでしょ、あなたの領海内にどうぞ」ということはあり得る。
(「BSフジLIVEプライムニュース」1月10日放送)