長く続いた昭和の時代、人々に夢と感動を与えたプロ野球。そのプロ野球のレジェンド達に徳光和夫さんが切り込むのが「プロ野球レジェン堂」だ。

今回は阪神タイガースのレジェンド・掛布雅之さん。

2023年は侍ジャパンの世界一奪還に沸き、かつて無い野球熱の中、38年ぶりに日本一を果たした阪神。ミスタータイガースが、今年の阪神の“強さ”について明かした。

シーズン前から阪神優勝を予想

話はやはり2023年シーズン、圧倒的な強さを見せ日本一となった、現在の阪神タイガースの話題から始まった。

「岡田(彰布)監督とも、先日対談させてもらったんですけど、まさかこんな独走するとは思ってなかったと。監督が『9月が勝負だ!勝負だ!』と言っていたのは、過去に巨人に13ゲームぐらいひっくり返されたシーズンがありましたよね。それがあるので『勝負は絶対9月なんだ』と、自分で決めていたんですって」(掛布さん)

掛布さんが訪れた春の沖縄キャンプでも、岡田監督はピッチャーに対する絶対的な自信を見せていたという。

「青柳(晃洋)、西勇輝、この辺りローテを守っていたピッチャーに対しては、1年間ローテーションを守ってくれるレベルのピッチングをしてくれればもういいんですと。

あとは若手の西純矢だとか才木(浩人)だとか、この辺りが頭角を現してくれて、その若いピッチャーが貯金をしてくれれば、と言っていたんですが。全く岡田監督から名前が出なかった村上(頌樹)と大竹(耕太郎)が春先に活躍してチームに勢いをつけましたね」

岡田監督の「アレ(A.R.E)」は流行語大賞にも選ばれた
岡田監督の「アレ(A.R.E)」は流行語大賞にも選ばれた
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これを聞いた巨人ファンの徳光さんは「本当に投打が、悔しいけど噛み合いましたね」と本当に悔しそうな表情を見せる。掛布さんによると、この“打”の調子の良さは、シーズン前、岡田監督が球団に対してフォアボールの査定ポイントをあげるように進言したのも一因だという。

「フォアボールってのは、やはりヒットと一緒じゃないですか。だったら何ポイントかフォアボールの査定ポイントを上げてくださいと。それを球団にお願いして、実際に査定ポイント上がったらしいんですよ。

それともう1つ、岡田監督の面白いアプローチは、選手に対して『実家のお父さんとかお母さんが、1球でいなくなったら寂しいだろ、もうちょっとボールをしっかり見ろよ』って言ったらしいです。もっと長くテレビ画面に映ってなさいって」

そんな情報を得ていた掛布さんは、シーズン前から阪神の優勝を予想していた。

厚い層のチームを作り上げた岡田監督

一方で阪神優勝という予想をするタイプのOBではないと評する掛布さん。

「2位ぐらいかなとかいう予想が多いんですけど。今年に関してはやっぱりチームバランス、特にコンバートとかも岡田監督が色々しましたので。それがうまくハマれば、阪神が優勝する確率が今年一番高いんじゃないかと思っていましたね」

そんな中、注目すべきは岡田監督の選手を見る“目”だったという。これには徳光さんも脱帽していた。

今年の阪神はキャッチャーの使い方がうまかった(イメージ)
今年の阪神はキャッチャーの使い方がうまかった(イメージ)

「大体後半になるとキャッチャーが中心になってくるわけでありますけども、梅野(隆太郎)が怪我した後ですね、坂本っていいましたっけ、あんないいキャッチャーびっくりしました」(徳光さん)

「これもね、岡田監督が梅野を中心に今年は守らせると言っていたんですけども、6連戦あれば4対2ぐらいの形で坂本(誠志郎)を使っているんですよね。
坂本のリズムとか気持ちだとかを継続させるために、全部梅野に任せてはいないんです。この辺りのキャッチャーの使い方もすごくうまかったので、梅野が怪我をしても、穴を感じさせませんでしたね」(掛布さん)

誰かが怪我をしても、他の選手がカバーできる体制を作り上げた岡田監督。この勢いはどこまで続くのだろうか。

大山を成長させたビガーマウンテンプロジェクト

「僕が1つ心配だったのは、チームが若いということだったんですね。でもその若いチームでこれだけ勢いをつけて、優勝までゴールテープ切りましたので。これでかなりみんな自信はついたと思いますから、2~3年は阪神の時代が続くんじゃないかなと」(掛布さん)

岡田監督が球界最年長の監督なのに対し、選手たちは12球団唯一の“平成生まれ”集団だ。その中でも掛布さんは、二軍監督時代に入団し、今年4番を担った大山に対しては思い入れがあるという。

今年の大山は4番としての重責を全うした(イメージ)
今年の大山は4番としての重責を全うした(イメージ)

「(当時の)金本(知憲)監督がドラ1で取りましたから。それで金本監督が、大山に対して2カ月で体重5キロ増やしてほしいと。バッティングはしっかり振れるように。とにかく強く振れるようにバッティングは仕上げてもらいたいんですという要請が、ファームに来たんですね。
これ笑い話ですが、ファームのトレーナーがいろいろなメニューを考えて、ビガーマウンテンプロジェクトという、大山ですから(笑)」

この『ビガーマウンテンプロジェクト』は3ヶ月のプログラムとして組まれたが、大山は食事に約1時間半かけてでも食べきるなどの努力を見せ、監督の要望通り2ヶ月で体重5キロ増加をクリアした。“強く”バットを振れるようになった4番は、今年、阪神を優勝させたゲームで大粒の涙をこぼした。

「球場で解説させてもらったんですけど、あの大山の泣き崩れる姿を見た時に、やっぱり4番の十字架は重たかったんだなっていうのを感じましたね」(掛布さん)

大山の姿を見て、もらい泣きをしたという徳光さん。大山は“掛布イズム”を引き継ぐ選手だと考えている。

尼崎の街も優勝で盛り上がった
尼崎の街も優勝で盛り上がった

「大山って選手は、非常に野球に対して真摯に取り組んでるなっていう。これはまさに“掛布イズム”だなというふうにずっと思ってたわけですよ。掛布さんのファンでもありますんで。掛布さんの教え子はここまで来たかっていうね。それはね、つまり師匠としても一番嬉しかったんじゃないですか」(徳光さん)

「めちゃくちゃ嬉しかったです」(掛布さん)

そして掛布さんは大山の四球の多さも、選球眼の良さの証として認めている。

「今年の阪神の象徴っていうのはフォアボールっていうように、大山が99個フォアボールを選んでいるんですけど、やっぱり4番の99個のフォアボールっていうのは大きいんですよ。だから(5番の)佐藤(輝明)の打点が多いんですよね」

成長を見せる佐藤が掛布と似ている点

その佐藤について「掛布さんのように、顔が動かなくなりましたね」と分析する徳光さん。

3年連続で20本塁打を達成したその24歳について、「これ本物だと思います」と掛布さん。

夏前に東京遠征に行った際、佐藤は気分転換で森下翔太のバットを使ったという。自身のバットよりも重量は軽いが、ヘッドに重みを感じるそのバットを使ったところ、バットが振り抜けるようになり、掛布さんから見ても打ち方が変わったそうだ。

「左腕が離れなくなったんですね。押し込むような左腕の使い方を覚えてきて、ボールを左腕で押し込んで、遠くへ飛ばすような左腕を覚えてきましたので、徳光さんが言うように頭が動かないですし、そうなるとボールがよく見えますから」(掛布さん)

「あれは僕は掛布さんが教えたのかなと思って、掛布さんの3年目ぐらいはまさにそうでしたよね」(徳光さん)


不動の4番大山に加え、成長を見せる佐藤、そして噛み合った投打と、“日本一”の経験。2024年の阪神は掛布さんが言う通り、「今後2〜3年は阪神の時代が続く」のだろうか。今年のシーズンを楽しみにしたい。

プロ野球レジェン堂
プロ野球レジェン堂

長く続いた「昭和」の時代、人々に夢と感動を与えたプロ野球。
“レジェンド”である名選手に当時の話を聞きます。