ついにと言うべきか、AIキャスターによるニュースサービスが米国で2024年早々にスタートすることになった。米国ロサンゼルスを拠点とするスタートアップ企業「チャンネル・ワン」は、AIが生成したキャスターやレポーターが仕切る動画ニュースチャンネルを2024年2月にスタートさせると発表したのだ。
AIの“語学力”がもたらす効果も?
その発表も動画で行われた。まず妙齢の女性キャスターが登場して「ハロー、チャンネル・ワンにようこそ。ニュースを取り込んだり、発信したり、考えたりする上でAIを活用して全く新しい道を私たちは開きました」と宣言してデモ・ビデオは始まるが、実はこれもAI生成のキャスターなのだ。
See the highest quality AI footage in the world.
— Channel 1 (@channel1_ai) December 12, 2023
🤯 - Our generated anchors deliver stories that are informative, heartfelt and entertaining.
Watch the showcase episode of our upcoming news network now. pic.twitter.com/61TaG6Kix3
AIで生成されたキャスターやリポーターたちの表情や身振りはいずれも人間味豊かなので、おそらくは生身の人物のデーターをベースにAIで生成されたものと考えられる。デジタル加工された発声も口の動きもごく自然な印象だが、驚かされるのがその語学力だ。
AIリポーターの一人は「私は何語でも話せますよ」と言い、ギリシャ語で喋ったり「もしあなたがマニラでこれを見ているのなら」と言いながらタガログ語で喋ったり「でもまさか私がタミル語を喋るなんて思わなかったでしょう」とインド南部の言葉を操って見せる。
AIが生みの親であれば驚くこともないのだろうが、これがニュースの中でこれまでにない効果を上げることもある。
デモ動画の中には欧州の暴風雨のニュースがあり、フランスの被害者がその猛威を語る場面がある。元はフランスのニュース専門チャンネルの素材で、被害者は当然のことながらフランス語で喋っているのだが、チャンネル・ワンはこの映像をAI加工して被害者に英語でじゃべらせた。
「夜中の2時頃でした。大きな音がして天井が持ち上げられてゆきました。30分後には屋根ごと吹き飛ばされていたんですよ」。被害者は身振り手振りも仏語版と同じに、声の調子も元のままながら流暢な英語で語り、まるで英国人にインタビューをしたような印象を与えた。

チャンネル・ワンではこの技術を番組全体に活用し、視聴者が言語を設定して好きな言葉でニュースを視聴することも計画しているという。
また、AIが視聴経歴を分析して視聴者の好みに合わせたニュースを選んで伝える計画もあるようだが、この他にも関連情報を提供することなどAIを活用してニュースを立体的に伝えることも可能だろう。
“編集には人間が関わり、透明性を担保”
ただ、このデモ・ビデオを見ていて一つ気になったことがあった。
それは、AIキャスターやリポーターの手の形だ。いずれも指が異常に長く、それも片手に指が5本以上あるようにも見える場面があったからだ。
かねて、AIの画像生成ツールは手の表現が「弱点」だとされていた。画像の上で人の手は顔などに比べて小さく、またその動きは非常に複雑なのでAIのデータのセットが少ないからで、画像や映像がフェイクかどうかを確かめるためには「指を見れば良い」とも言われる。
その意味でチャンネル・ワンのキャスターたちがAIで生成されたことが手に現れていたとも言える。
Channel 1 will be global and offers a new way to bring us closer together through a shared perspective. Check out one of our favorite stories in Japanese! 🇯🇵 pic.twitter.com/4i6ifcJ70W
— Channel 1 (@channel1_ai) December 13, 2023
このニュースサービスには、いわゆる「ディープ・フェイク」の技術が使われるわけで、ニュースそのものが「フェイク(偽もの)」にならないか心配だが、チャンネル・ワンの創始者のアダム・モサム氏は英紙「デイリー・メール」にこう語っている。
「扱うのは既存のニュース提供会社の素材とフリーランスの記者が取材したもの、それに世論調査や役所の発表などをAIがニュース化したもので、その編集の過程には生身の人間が介在して 透明性を担保します」
その一方で「デイリー・メール」紙は、現役のジャーナリストで「BCトゥデイ」のアレック・レーゼンビー記者がXへ投稿した次のような反対論も紹介している。
「すべてAIによる放送の開発は驚きを超えて、すでに疲弊しているニュース業界に大きな影響を及ぼし、質の高い記者やキャスターの喪失を加速させる可能性がある」
This is utterly utterly terrifying. While the development of an entirely AI powered broadcast is beyond impressive, it could have huge ramifications for an already depleted news industry and accelerate the loss of high-quality reporters and anchors. https://t.co/mcWcY9DHKO
— Alec Lazenby (@LazenbyAlec) December 13, 2023
AI俳優の使い方をめぐってストライキが長引いたロサンゼルスで、今度はAIのニュースキャスターの是非をめぐる議論が高まりそうだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】