2つの派閥に裏金疑惑で特捜部の強制捜査が入り自民党が窮地に立つ中、34年前にリクルート事件を契機として自民党が党議決定した政治改革大綱が再び脚光を浴びている。「BSフジLIVEプライムニュース」では、当時若手議員として政治改革を訴えた石破茂氏を迎え、当時の問題意識や具体策、そして今の自民党のあるべき方向性まで、識者を交え伺った。

「安倍派の閣僚は全員交代、二階派は続投」の矛盾

新美有加キャスター:
安倍派と二階派に家宅捜索が行われたが、岸田総理は安倍派の全4閣僚を交代させた一方、二階派の2人の閣僚の続投を表明。そして、二階派の小泉法相と自見万博相は派閥を離脱。この線引きについて矛盾はないか。

石破茂 自民党元幹事長:
私は「安倍派だから」と全員交代させるのはどうなのかと言ってきた。理屈を考えていくと、つじつまが合わなくなる点がある。最終的には人事権者である総理の判断であり責任となるが。

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久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
岸田さんも周囲も含め、長期を、全体を見通した戦略がない。構造的な問題。やることなすことが全部後手、裏目に出ている。

山田惠資 時事通信社解説委員:
二階派から反岸田の火の手が上がるとまずいという判断はあると思う。また安倍派は未知数の部分が多いが、岸田さんから見て二階派での問題の広がりはコントロールできるという判断もあったのでは。だが次の国会の火種は大いに残った。もし2派閥以外に広がることがあれば、岸田さんは国会運営で非常に苦しむと思う。

石破茂 自民党元幹事長:
安倍派でも例えば、宮下前農相はじめ副大臣や政務官など、全く今回の問題に関係ない人もいるはず。なぜ辞めさせなければいけなかったのか。一般論として人事の基本は属人主義。その人が一番ふさわしいからポストにつける。外す場合も個々の理由がなければいけない。

1989年の「政治改革大綱」はなぜ活かされてこなかったか

新美有加キャスター:
石破さんが検証すべきだと改めて訴えたのが、自民党の政治改革大綱。自民党の政治家などに未公開株が譲渡されたリクルート事件を受けて1989年に党議決定されたもので、「政治倫理の確立」「政治資金をめぐる新しい秩序」「選挙制度の抜本改革」「国会の活性化」「党改革の断行」という5本柱。

石破茂 自民党元幹事長:
自分の反省も込めて言えば、5本柱のうちの選挙制度改革、つまり小選挙区導入に特化してしまい、政治資金をめぐる新しい秩序、政治倫理の確立、党改革などがきちんと実行されずに来てしまった。残している部分が多い。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
派閥の弊害の除去と解消への決意が必要。おっしゃる通り選挙制度に特化され、選挙制度改革の結果二大政党制にならなかったがゆえに、皮肉なことに派閥が跋扈して今の問題が起きている。これらは深く結びついている。

山田惠資 時事通信社解説委員:
政治資金をめぐる新しい秩序について、どこまでが民主主義のコストでどこからが金権主義かという線引きが重要。政治に資金は必要だが、何が正しい使い方で何が間違っているかを党としてしっかり議論し確認していく必要がある。

新美有加キャスター:
リクルート事件を受けて政治改革大綱を作った当時、自民党の中の空気はどうだったか。

石破茂 自民党元幹事長:
選挙区の鳥取に帰ればめちゃくちゃ批判される。テレビ、新聞でも大批判。自分たちの選挙も次はまずダメ、自民党も潰れるだろうと。消費税導入の時期がかぶっており、その評判も悪い。危機感はマックスだった。

反町理キャスター:
当時は若手議員が立ち上がるなどの動きがあったが、同様に逆風が吹いている今の様子と比べどう見るか。

石破茂 自民党元幹事長:
中選挙区制の当時の方が、同じ自民党のライバル代議士に勝るために、よりきめ細かく地元を回っていた。人々の考えを実感として感じることができた。だが現在の小選挙区制ではライバルが野党。細かく回ることのインセンティブが落ちた気がする。

新美有加キャスター:
政治改革大綱の党議決定を受け、1986年に自民党は伊東正義元官房長官を本部長とする政治改革推進本部を設置し、大綱の実現に向けて動き出す。初会合で伊東氏が述べたのは「リクルート事件の結果が出て終わったわけではない」「政治改革を国民が見ている」「今までになかった政治危機」といった内容。

石破茂 自民党元幹事長:
私はこれを聞いていた。ものすごく響きました。とにかく私利私欲がない、清廉潔白を絵に描いたような方だった。

反町理キャスター:
伊東氏の指摘は全部そのまま今の自民党に当てはまることでは。30年以上経っても自民党は全く成長していないのか。

石破茂 自民党元幹事長:
政治改革大綱を常に思い出さなければいけなかった。もう一つ、下野したときに谷垣禎一総裁のもとでまとめた新しい自民党の綱領も常に思い出さなければいけない。私は幹事長だったときにそれを言わなかった。閣僚になったときにも、政治改革大綱に書いてある通りに派閥を離脱しなかった。自分自身も守っていないことが多い。もう一度思い出そう、という責任が我々にはある。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
自民党が下野した2009〜12年は、この政治改革の理想に近づいた時期だった。無派閥が非常に多くなり派閥の力が弱まっていた。だが自民党が復権して強くなり、野党がバラバラになると、派閥が戻ってきた。

新美有加キャスター:
政治改革大綱で掲げられたのは、閣僚や派閥などによるパーティー開催の自粛の徹底、パーティー収支の明確化など。だが今、再びパーティーが問題となっている。なぜ透明化が達成できないのか。

石破茂 自民党元幹事長:
政治改革大綱はとにかく序文からしてすごい。自民党はものすごい批判にさらされており、国民意識との間にずれが起こっている。我々は出血・犠牲を覚悟のもとに自民党の責任を国民に向けて示すのだという内容。後藤田正晴先生か伊東先生自らお書きになったもの。これだけの危機感ならば守るのは当たり前だという感じだった。逆に言えば、あまりに高潔な精神で書かれたものであるがゆえに伝承されなかった。

反町理キャスター:
そのプロセスを見ていた語り部たるべき石破さんも、言葉の重みや高潔さを感じていたはず。だがあえて嫌なことを申し上げると、石破さんが幹事長のときにも「政策活動費」として党から石破幹事長のもとに十数億円が入っている収支明細書がある。政治改革大綱における透明性の議論と逆行する金が、自民党の歴代幹事長のもとにずっとあった。この現実についてどう感じるか。

石破茂 自民党元幹事長:
自民党の幹事長室にはいろんな方が来る。地方の選挙も含め、選挙は年がら年中行われている。その際に、(法で認められる範囲の)陣中見舞いと称するお金はのべつまくなしに出ていく。自民党が政権奪還して間もない頃で、実際に日々選挙に勝たなければ党勢が確固たるものにならないという思いがあった。政治改革の高邁な理想については、私自身の反省から言えば相当に忘れていたところはある。

派閥そのものを解消すべきか、「派閥の弊害」を解消すべきか

新美有加キャスター:
政治改革大綱には「派閥の解消を決意する」とある。その第一歩として、総裁、副総裁、幹事長、総務会長、政調会長、参院幹事会長、そして閣僚は、在任中は派閥を離脱するとしている。

石破茂 自民党元幹事長:
トップである岸田さんが派閥を離脱した。ならば政治改革大綱に戻るべきという議論はあるだろう。そうではないという議論があってもよい。政治改革大綱の通りに全部やれというのではなく、これを一つの検証材料として、国民に見える形で議論すること。

反町理キャスター:
派閥解消については、石破さんは前回出演時に難しいとおっしゃった。目標としては距離を置くべきものなのか。

石破茂 自民党元幹事長:
派閥が本当の意味での政策集団であるなら、むしろあるべき。だが、お金とポストの配分に特化するのはよくないということ。

山田惠資 時事通信社解説委員:
今回は派閥のシステムが法律を犯すシステムに変わってしまった。今ある派閥はとにかく一旦全部解消すること。そこからスタートする人が公約に掲げて次の総裁選挙に勝てば、衆院選でそれを問うことになる。だが今の派閥は温存しようという人が勝ち、そのまま選挙を迎えてまた次の政権を担うのは、日本の政治として極めて不健全だと思う。

久江雅彦 共同通信社編集委員兼論説委員:
現実はなかなか「派閥は解消すべき」という理想論の通りにはいかない。単純に派閥イコール悪ということではない。自民党はいわゆるイデオロギー政党でも宗教団体をバックにした政党でもなく、様々な人たちが集まってできており、社会の縮図的な側面がある。となると、人が集まってグループができるのは人間社会では当たり前。派閥の解消と言うときに「派閥の弊害をなくす」としないといけない。国会議員が国民ではなく派閥に仕えるようなことがないように。そこさえしっかりしておけば、派閥というものは致し方ない部分があると私は思う。

反町理キャスター:
今の自民党の至上命題は政治改革。岸田総裁からこれに協力してほしいと言われたら、石破さんはどうか。

石破茂 自民党元幹事長:
私は人事について全く言う立場にない。人事と関係なく政治改革に協力せよということ、例えばその自民党総務会、また政治改革の組織ができたときにその場でガンガン発言してくれということなら、それは良いこと。
(「BSフジLIVEプライムニュース」12月20日放送)