近年、大麻所持などで検挙される若者が急増している。

去年、日本大学アメリカンフットボール部員の大麻所持事件や、大麻に似た成分を含むグミ、いわゆる「大麻グミ」で体調不良を訴える人が続出したニュースなどが、世間を騒がせた。

以前から大麻についてはさまざまな主張がなされ、情報が錯綜してきたが、何が本当なのか。

前編では、法科学研究センター所長の雨宮正欣さんと、薬物依存者の支援をする木津川ダルク代表の加藤武士さんが「大麻とは何なのか?若者に広がる理由」を議論。

後編は、大麻が体に及ぼす影響や依存性などについて触れていく。

大麻が体に及ぼす影響とは?

――大麻を吸うと体にどのような影響が出るのでしょうか。

厚生労働省は「インターネット等では『大麻は身体への悪影響がない』『依存性がない』などの間違った情報が氾濫しています。(中略)間違った情報に流されず、正しい知識で判断しましょう」と注意を呼びかけています。

この記事の画像(5枚)

雨宮さん:
もちろん、害が全くないというものではないです。

例えば情緒が不安定になって、気分の浮き沈みが非常に激しくなったり、ひどくなると「大麻精神病」といって、抑うつが起きることも報告されています。

妊婦さんですと、胎児に対する奇形が研究で証明されている。

薬物は全てそうですが、体格・体重などによって効果は反比例します。ですから、体が小さい人ほど同じ量をとったら効果が強くなる、影響も強くなるので、まだ発達途中の若者が薬物を(体内に)入れることに関しては害がないとは言えないと思います。

――加藤さんのいらっしゃるダルクでも、大麻を使った方々の様子は、どのように見ていますか。

加藤さん:

ダルクで大麻のみの依存症で来られるというのは、ほぼないです。アルコールを含めて他の薬物も使っていて、依存症になっている。

大麻に限って言うと、現実感や空想、そういったものが強い感じの方が、大麻の人には多いかなという印象があります。

――「明らかに大麻を使用したな」というのは、見て分かるものなのでしょうか。

加藤さん:

目が真っ赤になっていることや、見た感じで(分かる)症状もありますし、あとは香り。

普通のたばこではない、何とも言えない独特な大麻の香りがあるので、分かります。

大麻の依存性とは?

――雨宮さんに『精神依存性の高いもの』、モルヒネ、覚醒剤、コカイン、大麻、アルコール、ニコチンと並べていただきました。「精神依存性」はどういったことなのでしょうか。

雨宮さん:
「依存」は、実は「精神依存」と「身体依存」という2種類があります。

「精神依存」は、いわゆる『やめられなくなる』という精神的苦痛。

「身体依存」は、いわゆるその薬が切れると手が震えたりとか禁断症状が出る。

表にしたのは、精神依存の方ですが、「大麻」「アルコール」「ニコチン」の3つに関してはそれほど差はないぐらいだとは思います。

――なかなか依存から抜け出せないところを目の当たりにされているかと思います。

加藤さん:

どんな時に使うのかというと「つまらないな、もっと楽しくしたいな、気分が乗らないな」という時に薬物を使う習慣がついていく。

すると、今度は薬物を使おうと考える前に、何かしらつまらないと思うと自動的に、薬物を使いたい気持ちが沸き起こってくる。

例えばみなさんが梅干しを見て唾が出るように、条件反射のように使いたい気持ちが沸き起こるので、薬物を使わずに問題、課題を解決していく力をつけていくのが、なかなか大変で非常に時間がかかる。

周りの人たちの手助けを得ながら、使わない生活を重ねてくということになる。

――「身体依存性」になるとこのランキングは変わるのでしょうか。

雨宮さん:

明らかに変わると思います。

例えば、アルコールは「身体依存」に関しては非常にありますね。

アルコール中毒の方は「震えがとまらない」「妄想を起こす」「幻覚が出る」は有名な話です。

ただ依存性が高いから怖いというのはまた別。薬物のいわゆる作用の強さと依存性は、両方掛け合わせて考えないといけないことだと思います。

――「身体依存性」ではアルコールの方が大麻よりも強いと言われています。さらに「精神依存性」でも、大麻はアルコールやニコチンと比べて際立って高いわけではないが、大麻には別の危険性が存在するという。

加藤さん:

10代の頃にたばこを吸うような子どもたちの中に違法な大麻を吸う人がいて、違法な大麻をするコミュニティーの中にはまた覚醒剤を使っている人がいる。

その先には今だと、例えば特殊詐欺に巻き込まれていく。そういう他の犯罪行為も行うような人たちがその中にいるということなので、単純にその薬物の毒性だけじゃなくて、他の犯罪にも巻き込まれていく、繋がっていくリスクもあると思っています。

――アルコールも依存性があるにもかかわらず合法である、タバコも同様、にもかかわらず、なぜ「大麻」だけ合法ではないんだという論者もいるかと思います。

雨宮さん:

いわゆる大麻が体に良い、悪い、お酒とかニコチンよりも良いとか悪いということを論じることは医学的にもちゃんと検証すべきだと思うし、(その議論は)非常にいいことだと思います。

ただ現状で今、日本の法律で禁止されている。禁止されている状況でやっちゃったらやっぱりダメなんです。

やらないで議論して、その結果として認めるのであれば、いいと思うんです。

ですから一方的に「大麻はいけません」ということではなくて、「本当に役に立つのか?良いところはどこだろう?悪いところはどこだろう?」という検証をちゃんとして、それで認めるなら認めようという議論をしてほしいと思うんです。

加藤さん:
害といっても身体的な害、その人が受ける害もあるし、使うことで周りに与える害もあるし、さまざまな害・問題点があると思います。

それを正確に検証していかないといけない。

例えば、しょうゆも大量に飲めば害がある。全く害のないものってないんです。

だから、それはどの程度なのかということを、いろいろな観点から見て、どのように扱っていくのかを考えていくのがいいと思っています。

「医療使用可」の影響

――2023年12月6日に大麻にまつわる法律が改正されました。

改正前は「栽培、輸出入、所持、譲渡・譲受」が「禁止行為」とされていたが、使用については明記されていなかった。

しかし、今回の法改正で「使用罪」というものを新たに設立。一方で、大麻草を原料にした医薬品の使用は認められています。大

麻でいうと常々論じられてきたのが、「医療」について。これも大きな動きがありましたが、どうご覧になりましたか。

雨宮さん:
「医療用大麻」は世界で研究されていて、実際に例えば、てんかん薬などで有用性が認められていて、使われている国も相当あります。

今回の改正で今までは「大麻草を原料にした医薬品を作ってはいけません」とありましたが、その部分を削除したことに関してはいいことだと思います。

――ただ、心配されるのが医療目的で使えるようになるという中で、それを悪用するような事例も出てくるのではないかという懸念もあると思います。

雨宮さん:

タイは実は2022年、医療用大麻が解禁になっています。

医療用大麻が解禁になっているのに、町中は嗜好(しこう)大麻の店で溢れている。

医療用大麻ということでタガを緩めたはずなのに、いつの間にかなし崩し的に嗜好(しこう)大麻まで町中にあふれる状態で、逆に社会問題になって、大麻(規制)を戻そうかといった動きもあると聞いたことがあります。

そういう点で日本もきちんと区別してやることは重要だと思います。

一回タガを緩めると、なかなか元へ戻すことが難しいので、慎重にやらなきゃいけないと思います。

大麻が若者に広がる中、メディアの役割は?

――メディアとしても役割という意味が増えてくるかと思います。

雨宮さん:

こういった薬物に関して全部だと思いますが、やはり部分的なところの情報だけが流されることがよくある。

例えば「海外では認められていますよ」というところだけで、「海外で認められた結果、こういうような問題点も出てきましたよ」というとこまでなかなか突っ込まないということはよくありますよね。

ですから報道だけを見ていると、海外では完全にどこでもフリーで、誰でもやっているんだよというなイメージを持って、そのまま日本人が考えてやってしまうと、やはり危険だと思います。

加藤さん:
今はネット社会になっているので、一度顔写真や名前が出てしまうと、もう誰も止められない。

もう何十年とそれが残ってしまうような時代になったので、ダルクの人たちでも、部屋を借りようと思うと、いろいろ検索されたり、ダルクに住んでいるとか、ダルクの人と分かると借りられなかったりします。

もう十分に健康状態もよくなり、更生してでも貸してもらえない。

当たり前の社会に戻してあげることができなければ、アンダーグラウンドな世界に戻らざるを得ないので、そういうチャンスを奪ってしまうことのないようにしてもらいたいなと思います。

(「週刊フジテレビ批評」12月16日放送より
聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)