日々、事件や事故を取材している報道記者が警察の機動隊に体験入隊。国体出場経験もある体力自慢の男性記者だが、その自信もつかの間。“汗まみれ”で “弱音”を吐きながらの過酷な体験取材になったのだった。
強じんな肉体と精神を培う
災害・テロ・要人警護など危険を伴う場所に派遣されるため、警察の中でも特に強じんな肉体と精神力が求められる「機動隊」。佐賀県警では約80人の隊員が日々、厳しい訓練を行っている。
2023年7月、唐津市浜玉町で起きた豪雨による大規模な土砂崩れでは、夏の過酷な現場で捜索や被災者の救助活動にあたった。
”体力自慢”の記者が機動隊に挑む
過酷な現場で任務にあたる機動隊はまさに“精強部隊”。その力量はどの程度なのか。実態を取材するためサガテレビの報道記者が機動隊に体験入隊し訓練に挑むことになった。
機動隊の体験入隊に挑んだのは2023年の春にサガテレビに転職してきた堀竜泰記者（30）。体重約100㎏。若手とは言えないが、前の職場の商社で鍛えた精神と肉体で報道の未来を背負う人材として期待されている“体力自慢”の新人だ。
実は堀記者、高校時代にハンドボールで国体に出場経験がある元アスリート。ハンドボールはシュートを打つときの滞空時間の長さから空中の格闘技とも呼ばれ、かつては軽やかに宙を舞いスピード感あふれるプレーを展開するスマートな選手だった。
しかし時の流れには逆らえず30代らしい身体に。
とは言っても、たくましい肉体は健在で、まさに“重戦車”。機動隊の装備を身に着けた堀記者には厳しい訓練を乗り切る自信がみなぎっている。
身に着ける装備には刃物を持った相手から身を守るため鉄板が入っていて重さは7㎏。これに6㎏の盾を加えると計13㎏という重量。かなりの重装備のため、けがをしないよう訓練の前には入念に準備体操をしなければならない。
いよいよ訓練の開始。まずは大きな掛け声で駆け足訓練がスタート。走る距離は1.7㎞。高校時代は1.7㎞なんか“へっちゃら”だったと言う堀記者。最初はなんとか食らいついていくが、重い装備を身に着け走る負担は想像以上。前を走る隊員の背中が見る見るうちに小さくなり半分も走れず“強制終了”となってしまった。
堀竜泰記者：
息が戻らないです。装備が重い。ほんとうに重い。しんどい
当然のことながら堀記者と機動隊員の体力の差は歴然。現役の機動隊員はこの重装備で1日10㎞以上を走るという。
記者の弱音を幹部”一蹴”
堀竜泰記者：
なんでこんなにきつい訓練をしているんですか？
訓練開始早々、堀記者から思わず漏れた弱音は、機動隊の幹部に一蹴されてしまった。
機動隊 徳廣龍児 中隊長：
実際に現場に出動した際に、その現場まで盾を持って走らないといけない。現場に到達してからが仕事なので、これは最低限のこと
訓練でできないことは本番ではできない。その言葉が頭をよぎる中、次に待っていた試練は盾を使った訓練。突撃してくる相手の制止、投石などから身を守る構えなど機動隊の隊員が軽々と盾を使いこなす一方、汗まみれの堀記者からは弱音が混じる言葉が増えていく。
堀竜泰記者：
重いので中々あがらない。体感としては50㎏くらいの重量をベンチプレスでずっとキープするくらい重い
弱音を吐きながらも体力自慢を掲げる堀記者の矜持なのか、それとも報道マンとして確かめられずにはいられなかったのか…。鍛え上げられた隊員が手にする盾の”強さ”を実感するため、約100㎏の堀記者が体当たりを試みたのだ。しかし、盾の壁はびくともせず、あっけなくはね返されてしまう当然といえば当然の結果に。
その後も、暴徒を押し返す事態を想定し盾を持って全力疾走するなど、肉体を追い込む訓練は続く。
過酷な状況想定した災害救助
休む間もなく、汗だくになった装備を脱ぎ、次に身にまとったのは広域緊急救助隊の制服。災害現場で救助活動にあたる際、けがを防ぐためかなり分厚くなっている。
治安維持の警備だけではなく災害救助も機動隊の重要な任務だ。この日は、車の中に取り残された人の救助を想定した訓練が行われた。
災害現場では、チェーンソーを使って障害物を排除して動線を確保。カギのかかった車のドアは油圧式カッターでこじ開け、車内に取り残された人を救助する。
堀記者は、「地上でもこれだけ大変なので、川や池などに落ちた車から救出するのはかなり大変なことだろう」と訓練の実感を語る。
救助した人の搬送で全ての訓練が終了した。
機動隊 本吉正成 副隊長：
どのような現場でも対応できる部隊を作るためにがんばっている
「機動隊には体力、筋力だけではなく、救助する際の技術や様々な知識が必要なことがわかった」と語る堀記者。厳しい訓練の体験は、過酷な取材現場の疑似体験でもある。今後の記者活動に生かせる貴重な経験になったはずだ。
（サガテレビ）
