自転車を電車に持ち込むことができる「サイクルトレイン」の社会実験が静岡県富士市で行われ、通勤や観光に便利と好評だった。富士市では全国屈指の規模の自転車レースなども行われている。富士山の麓の街が“自転車の街”をめざすワケを取材した。

自転車のまま電車に乗れる

ホームで電車を待つ自転車利用者(2023年11月)
ホームで電車を待つ自転車利用者(2023年11月)
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自転車を押しながら電車のホームに入って来る人たち。2023年11月12日、富士市内を走る岳南電車である取り組みが行われた。それは、電車に自転車をそのまま持ち込むことができる「サイクルトレイン」の運行だ。富士市と地元の企業が自然環境への配慮と交通の利便性向上を目指し、社会実験として実施した。

社会実験を担当する富士市交流観光課の石井俊勝主幹は、「自転車はもともと環境負荷が少なく、乗っている人がより健康になれる乗り物で、SDGsという考え方に非常に親和性の高い乗り物だと思う」と、社会実験の目的を話す。

市街地で自転車レース(2022年3月)
市街地で自転車レース(2022年3月)

富士市は「SDGs未来都市」を掲げ、自転車の魅力発信と利用促進に力を入れてきた。これまで自転車の大会を開催したり、レンタサイクルを設置したりした他、市内にはプロのロードレースのチームもある。
特に2022年には市役所前の大通りで中央分離帯の一部を取り除き、国内トップクラスの選手など約200人が参加する全国屈指の規模の自転車レースが行われた。

自転車利用が全国平均の3分の1

富士市は全国的にみて自動車の依存率が非常に高い。富士山に向かって街全体が傾斜していて、移動に自動車が便利だからだろうか。逆に自転車を利用する人が非常に少ない。
静岡県などの調査によると富士市民の交通手段は自動車が72%と最も多く、自転車は5.5%にとどまっている。これは全国平均の3分の1程度で、市は2026年度までに6%にあげることを目標にしている。温室効果ガスを削減させるためだ。それが、自転車の利用促進に力を入れる大きな理由だ。

「観光・通勤に便利 ずっと続けて」

サイクルトレイン(2023年11月)
サイクルトレイン(2023年11月)

社会実験は2両編成のうち1車両を自転車専用とし、11月中旬の3日間 実施された。利用者に聞くと、「自転車を車両に乗せて手軽に移動できて、楽しく簡単に自転車で旅ができる」「通勤で自転車を使うが、電車に乗せられれば自転車ですべて移動できるのが、(社会実験だけではなく)いつもやりたい」と好評だ。

社会実験を担当した石井主幹
社会実験を担当した石井主幹

社会実験を担当した石井さんは、「自転車を電車に乗せられることが広まれば、自転車そして、電車の利用が増える」と考える。

富士市 交流観光課・石井俊勝 主幹:
岳南電車と自転車が連結すれば利便性が非常に高くなる。そうすることで、環境に優しい街や健康に暮らせる街につながっていくと思う

新幹線と在来線で不便な乗り継ぎ

もうひとつ行われた社会実験は、東海道新幹線・新富士駅と東海道本線・富士駅の間を自転車でつなぐ取り組みだ。
2つの駅の距離は約2km。駅をつなぐ交通手段は1時間に1本程度のバス、またはタクシーや徒歩での移動となる。歩くと20~30分かかり、タクシーに乗るのは少しもったいないと感じるような距離で、新幹線と在来線の乗り継ぎに不便を感じている市民や観光客も少なくない。

新富士駅のレンタルサイクル
新富士駅のレンタルサイクル

そこで 新幹線 新富士駅にレンタサイクルを用意して、富士駅まで自転車で移動してもらう社会実験を行った。これまでにも2つの駅をつなぐ移動手段は、線路と道路の両方を走るDMVと呼ばれるバスの検討やワンコインタクシーの試験運行に取り組んできたが、費用などの問題で実現には至っておらず長年の懸案となっていた。

池田孝記者が走行体験
池田孝記者が走行体験

実際に記者が電動自転車で走ってみると、交通量は少なく約9分で富士駅に到着することができた。実験は平日の10日間行われ、駅への移動だけではない利用も含め69人が利用した。利用者は「自転車で移動できるのは小回りも効きくし、すごく助かる」と話していた。

自転車の後ろに富士山が見える
自転車の後ろに富士山が見える

市は、今回の社会実験を今後の施策に活かす考えだ。自転車利用が極端に少ないことを逆手にとって、自転車を中心とした街づくりに取り組む富士市。
CO2削減は行政や企業が模範を示すことも大事だが、もっと大切なのは市民ひとりひとりの心がけかもしれない。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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