国内の動物園や水族館が、繁殖を目指して動物を貸し借りする「ブリーディングローン制度」。この制度で鹿児島市の平川動物公園に2023年10月、ボルネオオランウータンのお嫁さん候補がやってきた。命のリレーの裏側にある動物たちの知られざる姿を追った。

ずっと1頭で過ごしてきた「ポピー」

ボルネオオランウータンの飼育を担当する、平川動物公園の小村圭さん。

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「ずーっと見ていられます」と話すのが、オスのボルネオオランウータン「ポピー」、23歳。2014年3月、東京の多摩動物公園から「ブリーディングローン制度」で借り受けて以来、ポピーは1頭で過ごしてきた。

小村さんは来園当初からポピーに接してきたが、ポピーが繁殖や自分の強さなどをアピールするため「ロングコール」と呼ばれる声を発するようになり「施設の中で繁殖ができるメスがいないというのは、すごくかわいそうな思いをさせたなと感じた」という。

しかし、お嫁さん候補を探すのは簡単ではない。

平川動物公園・小村圭さん:
お嫁さん候補になるオランウータンが国内にまずどれだけいるだろうかというところから始まります。その中で、輸送の問題、相性の問題は正直な話、来てみないとわからない

“動物の貸し借り”のこれまで

平川動物公園のブリーディングローンの歴史は古く、開園30周年の記念誌には「1977年(昭和52年)10月、ソデグロヅル1羽を国際結婚のため、国際ツル財団に送る」とある。7年後の1984年(昭和59年)には繁殖のため貸し出されていたソデグロヅルの2世「ポーヤン」が里帰りした。

その後も、繁殖を見据えた動物の貸し借りが行われ、2023年3月には、オスのホッキョクグマ「ライト」が和歌山・アドベンチャーワールドからやって来た。

ナマケモノのメスの「もみ」は、2023年10月、埼玉・こども動物自然公園から来園し、もともといたオスの「ナマケン」と同居を始めている。

ついにやってきた仲間「ひな」

現在国内にいるボルネオオランウータンは全部で28頭、2013年の33頭から5頭減った。寿命が長いので極端に減ることはないが、守るべき命であることに変わりない。

そんなポピーに2023年10月、仲間がやってきた。東京・多摩動物公園から来た13歳の「ひな」。取材した日は、屋内展示場に慣れる練習をしていた。

小村さんによると、ひなが東京から移動してきた日は輸送箱からすんなり外に出たが、翌朝は全く動かなかったという。来園当初の映像には、慣れない環境でのストレスからか、麻袋をかぶりふさぎ込むひなの姿が記録されていた。

平川動物公園・小村圭さん:
本当にその瞬間は「ドキッと」するような、もしかしたら具合が悪いとか、最悪の事態を考えるような状態に見えた。繊細な子っていうのは聞いていたので、少しずつ少しずつ、自分たちも心を開いてもらい、慣れてもらうっていうのを心がけた

毎日、ひなに話しかけ、心で接してきた小村さん。1週間たつと活発に動くようになり、いたずらもするようになったという。そんなひなの姿に、訪れた親子も「メスが来たのは知らなかったです。目がくりくりしてる」「かわいかった」と温かいまなざしを送っていた。

平川動物公園・福守朗園長は「動物を消費するのではなくて、動物を守り育て、増やしていくのが動物園の役割」と話す。「ほかの動物園、水族館でリアルタイムにどこでどういった動物が何頭いるとか、知ることができるシステムがある。そういったことを活用しながら、取り組みを進めていくことができたら」という。

北海道・釧路で生まれ、人工保育で育ったひな。多摩動物公園では多くの仲間がいる中、オランウータンの暮らしぶりを学んだ。そして鹿児島へ。小村さんは「平川動物公園では、命をつなげてもらわないといけないという繁殖というポジションへとバトンが受け継がれてきた」と話す。

ポピーとひなは今後、屋外での同居に向けたステップを踏んでいく。鹿児島でつなぐ命のリレーを、温かく、優しく見守っていきたい。

(鹿児島テレビ)

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