2023年3月9日、鹿児島市の平川動物公園に「ホッキョクグマ」が運ばれてきた。平川動物公園にホッキョクグマが戻るのは2年半ぶり。背景にあるのは全国で進む“種を守る”取り組み。鹿児島テレビの取材班は和歌山県に飛び、その舞台裏を取材した。

引っ越しを前に別れを惜しむ声

ジャイアントパンダの飼育頭数日本一で知られる和歌山県のアドベンチャーワールドに、取材班が到着した。

首を大きく振って迎えてくれた、ホッキョクグマの「ライト」
首を大きく振って迎えてくれた、ホッキョクグマの「ライト」
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井上彩香アナウンサー:
いました!もうすぐ鹿児島にやってくるホッキョクグマの「ライト」です。首を大きく動かして踊っているように見えます!

訪れた人に愛嬌(あいきょう)を振りまくオスのホッキョクグマ、ライト(9歳)。実はこの時、鹿児島市の平川動物公園への引っ越しを数日後に控えていた。

訪れた人もそのことを知っていて「急いで会いに来ました。寂しいですけど、鹿児島でも楽しく元気に過ごしてほしいです。絶対会いに行こうと思います」「かわいいなー!俺一番これ好きだったのに」など、別れを惜しむ声が多く聞かれた。

アドベンチャーワールドで飼育されているホッキョクグマはライトだけ。30年ぶりにこのパークからホッキョクグマが姿を消すことになる。

“繁殖”見据える平川動物公園

なぜ、鹿児島への引っ越しが行われるのだろうか?

アドベンチャーワールド・今津孝二園長:
ホッキョクグマは全国の動物園で飼育されているのが三十何頭。ライトは9歳のオスということで、繁殖には十分適している。日本全国の動物園で協力して“種の保存”を進めましょうという一環。平川動物公園は将来繁殖を目指していると聞いているので、まずはオスのライトを婿に出そうと

国内のホッキョクグマの飼育頭数は、1995年が最多で67頭だったが徐々に減少し、2023年3月現在では33頭と半減した。

世界的に数が減少し、新たな個体を海外から導入することも難しい今、ホッキョクグマの繁殖を行おうと手を挙げたのが、平川動物公園だった。

まだ幼い時のホッキョクグマ「ライト」
まだ幼い時のホッキョクグマ「ライト」

ライトは2013年にアドベンチャーワールドで生まれたが、母親が育児放棄したため、当時日本でも成功例が数例しかなかった人工保育で育った。

まだ幼い時のホッキョクグマ「ライト」
まだ幼い時のホッキョクグマ「ライト」

そんなライトの成長をずっと近くで見てきた飼育担当の鳥原峰幸さんは「僕、娘がいてるんですけど、娘を送り出すような気持ちはこんなんかな?と。予行練習ができて良かったなと思います」と話した。

「ここでもだいぶファンになってくれた方もいる。ライトはホッキョクグマの中では活発だと思うので、向こうでもかわいらしい姿でみんなに愛されたらいいなと、愛されておいで!」と、あくまで明るく送り出そうとしていた。

お披露目のその日まで…

和歌山でライトがファンと最後の時間を過ごしている間、鹿児島では迎える準備が進んでいた。

平川動物公園では2020年10月13日、メスのカナが老衰で死に、ホッキョクグマがいなくなった。今回、2年半ぶりの受け入れだが、その展示場には変化が。「少しだけ新しくなったところがあります」と話すのは福守朗園長。

以前はなかったロープのようなものが張られている。和歌山では屋内で暮らしていたが、鹿児島では屋外での展示になるため、暑さ対策として日よけのために設置された可動式の屋根を張るためのロープだ。

塗装も施され、ピカピカの展示場となっていた。

飼育を担当する伊藤僚さんは「アドベンチャーワールドでライトにあげていたご飯(のメニュー)は最初は引き継ぐ。どうしても環境は変わってしまうが、変えなくてもいいところ、安心できるようなところはつくってあげたい」と、準備万端でライトの到着を待っていた。

ホッキョクグマの繁殖のための施設が整っていたのも、平川動物公園がライトの引っ越し先に選ばれた理由だ。「産室」と呼ばれる部屋は妊娠した個体が安心して出産できるよう、2011年に作られた。

福守園長は「今、個体の交換などで、新たなペアが誕生していますので、そういった所で新たな命が生まれ、生まれたメスが成長した後『それでは平川へ』という話があればいい」と、将来への展望を語る。

飼育員らに見送られて和歌山を旅立ったライトは3月9日、無事に鹿児島に到着した。一般への展示が始まるのは、新しい環境に慣れてからとなる。

種を守るために…。平川動物公園で始まる園を越えた“繁殖”という取り組み。鹿児島でのお披露目の時、ライトの目にはいったいどんな景色が飛び込んでくるのだろうか。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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