海外でも高級牛肉の代名詞となっている「和牛」。その中、島根・雲南市で育てられた特別な和牛「サステナブル和牛」が注目されている。異色の経歴をもつ畜産農家がブランド化を目指し、飼育に取り組む。

肉汁じゅわっと!特別な和牛ステーキ

島根・松江市に2023年7月にオープンした「肉屋黒川」。京都府に本店を置く「和牛ステーキ重」の専門店だ。

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調理される霜降り肉からは、肉汁があふれ出る。きめの細かい、“サシ”が入っている。

店のおすすめは「極上ステーキ重」。軽く焼き目をつけたら、自家製ソースをかけて食べる。実はこの肉が「サステナブル和牛」なのだ。

 

SDGsの取り組みが進み「サステナブル(持続可能な)」という言葉はよく耳にするようになったが、「和牛」との組み合わせはあまりなじみがない。一体どのような和牛なのか。その「正体」を確かめるため、島根・雲南市にある畜産会社「熟豊ファーム」を訪れた。

元警察官が畜産業界に飛び込んだワケ

この会社は、雲南市の農場で和牛約500頭を飼育、その半数が「サステナブル和牛」だという。

和牛約500頭が飼育される雲南市の農場

農場を運営しているのが、石飛修平さん(34)。7年前に警察官を退職し、畜産の世界に転身した異色の経歴の持ち主だ。「サステナブル和牛」とはどのような和牛なのか。

石飛さんによると、経産牛を再肥育した肉が「サステナブル和牛」だという。「経産牛」は、繁殖のため飼育され、出産を経験したメスの牛。一般に肉が硬いため、食用としては敬遠され、「廃用牛」として廃棄されることが多く、市場に流通することは少ない。

石飛さんは、これを逆手に取って、肉質を良くしたうえで、“テーブルミート”「食卓にのぼる肉」にしようと考えた。

実は、石飛さんの実家は酪農家。牛の飼育になじみがないわけではない。とはいえ、警察官を退職してまで、「経産牛」の肥育という未知の世界に挑んだきっかけは何だったのだろうか。

元警察官で畜産の世界に転身した石飛修平さん
元警察官で畜産の世界に転身した石飛修平さん

熟豊ファーム・石飛修平さん:
「経産牛」を再肥育したお肉を食べる機会があって、それを食べたときにすごくおいしいなと思った。だいたい繁殖農家が傍らで(本業の合間で)肥育するのが「経産牛」だったけれど、専門でやっているところはなかった。専門でやったら、もっとおいしい肉ができるのではないかと思ったのが、始まり。

石飛さんは警察官を辞め、2017年、会社を設立し、「経産牛」の肥育「サステナブル和牛」の生産を始めた。

警察官時代の石飛修平さん
警察官時代の石飛修平さん

一般に、肥育農家が子牛を購入して育てる場合、出荷できるようになるまで約20か月かかるが、その間、収入は全く得られない。しかし、「経産牛」の場合、出荷までの期間は半年から1年ほど。

購入価格も、黒毛和牛の子牛が1頭50万円から60万円ほどなのに対し、その半額程度だといい、新規参入のリスクを抑えることができる。

その後、事業は順調に拡大していたが、これに水を差したのがコロナ禍だった。石飛さんも、「肉の相場自体も下がって、コロナ前の3分の2か、ひどいときは半分くらいの価格になってしまった」と頭を抱えた。

そこで、コロナ禍の2020年、“起死回生”を狙って京都の市場に「サステナブル和牛」5頭を出荷。これが、和牛肉の輸出を手がける京都の卸売会社の目に止まり、石飛さんにとって大きな転機となった。

京都市場への出荷がコロナ打撃回復に

「サステナブル和牛」を“見初めた”卸売会社「銀閣寺大西」の大西英毅常務も、「見た目から全然違うし、肉質も他とは全然違ったので、目に留まるというか、釘付けになるような肉だった」と振り返り、高く評価した。

石飛さんの「サステナブル和牛」は海外のバイヤーの評価も高く、現在、フランス、イギリス、スイスなどヨーロッパを中心に世界16カ国に輸出。

2022年の売上は約10億円、会社設立当初の10倍にまで急成長した。実は、海外バイヤーが注目しているのは、肉質だけではない。

エサにおから配合 飼育スペース拡大も

さらなる評価ポイントが「サステナブル和牛」を育てる農場のSDGsの取り組みだ。

例えば、牛に与えるエサにも工夫がある。豆腐をつくる際、豆乳を絞ったあとに残る「おから」や、醤油やそばなど食品の製造過程で出る残渣(ざんさ)を配合した。

おからなどを配合したエサ
おからなどを配合したエサ

さらに、アマニ油の搾りかすも加えて、牛のゲップに含まれるメタンガスの排出も抑えている。

また、牛舎も飼育スペースを従来の2倍程度に拡大し、牛のストレスを軽減しているほか、寝床のわらにコーヒー豆を混ぜて臭いを消すなど、「アニマルウェルフェア」=動物福祉に配慮した環境づくりに力を入れている。

飼育スペースを従来の2倍程度に拡大
飼育スペースを従来の2倍程度に拡大

こうしたSDGsに配慮した飼育方法も、海外からの評価につながっているようだ。

熟豊ファーム・石飛修平さん:
「サステナブル和牛」は“サシ”が適度で味も濃いですし、価格帯的にもちょうどいい部分があるので、そこから和牛をもっと世界に広めたいなという気持ちはある。

今や世界に知られるようになった「和牛」。国内だけでなく、外国産牛肉との競争が激しくなる中、「サステナブル和牛」は、地域の新しいブランドづくりのひとつの方向性を示していると言えそうだ。

(TSKさんいん中央テレビ)

TSKさんいん中央テレビ
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