宝塚歌劇団の25歳の俳優の女性が2023年9月に急死した問題で、女性の遺族の代理人弁護士が7日夕方東京都内で会見し、歌劇団側に提出した「意見書」の内容を明らかにした。
この問題を巡っては、女性の死は長時間労働と、「嘘つき野郎!」などの暴言やヘアアイロンでやけどさせるなどの上級生のパワハラが原因として、遺族側は宝塚歌劇団や関係者による謝罪と、適切な被害補償を求めている。
この記事の画像(19枚)一方歌劇団側は、「独立した調査チームが調査したが、パワハラやいじめは確認できなかった」としていて、遺族側の見解と食い違っていた。
公開された“やけど写真”
宝塚歌劇団の調査チームよる調査報告書には、看護師による証言として、「当時故人のやけどを見たが、痕には残らない程度のやけどと思われ、ヘアアイロンでやけどをすることは劇団内では日常的」などと記載されていた。
遺族側は、報告書では、ケガの程度が過小評価されていると批判し、反論した。
遺族側の代理人が公開したのは、やけどした女性の額の写真だ。写真を見ると、額の一部が黒ずんで見える。代理人によると、女性がやけどしたのは8月14日で、写真が撮影されたのは9月26日だという。丸で囲まれた部分は確かに黒ずんで見える。
またやけどした当日の女性のSNSのやりとりも公開した。「芝居の通しが痛かった」と、稽古中にやけどの痛みがあったことが記され、「わざとな気がする」「あとならんかな」との文字もあった。
さらに、やけどした8月14日の4日後には、女性は皮膚科の医師に薬の処方を求めたという。そのときの女性と医師とのSNSでのやりとりも公開した。それによると、医師は「熱傷部位は、ゲンタシン軟膏外用して、なるべくガーゼや絆創膏でおおって下さい」「1日一回お湯で洗浄、消毒はしないで下さい」「なるべく早く外用して欲しい」などとメッセージを送っていた。
代理人は会見で、「当日のLINEのやりとりを考えても、大したやけどでなかった、跡も残らないという看護師の証言は全く信用性がない。看護師は判断する能力がない。やけどの程度は悪質性にも大きく影響する問題なので、重要性について、指摘をしました」と述べた。
「パワハラ認めず憤り」遺族がコメント
会見では、遺族のコメントも読み上げられた。
コメントでは「劇団がパワハラを一向に認めない姿勢に憤りを感じております」「劇団が調査依頼した弁護士による調査報告書の内容は到底納得できません」など、宝塚歌劇団側の対応や認識への不満を露わにした。
その上で、「何日も何時間も感情にまかせて叱責され、『すみませんでした』と言うことしか許されず、泣きながら謝り続けている娘の姿を想像すると、憤まんやるかたない思いです」と怒りの心情も記した。
最後に「自分たちの都合の良いように真実をすり替え、娘の尊厳をこれ以上傷つけるのはやめてください。私たち家族は、劇団と、パワハラを行った上級生が真実を認め、謝罪することを求めます」と、改めて劇団側にパワハラの認定と謝罪を求めた。
15のパワハラ行為
遺族側は女性のSNSでのやりとりも多数公開した.中には、深夜11時51分に「上のひとおるから」「かえれん」というメッセージもあり、過酷な労働環境が分かる。
さらに遺族側は、パワハラ行為の詳細と、調査チームの調査報告書の誤りについて指摘した意見書を12月5日付けで歌劇団側に送付したという。
その意見書には「主要な15のパワハラ行為」が列記されている。
意見書に書かれた「主要な15のパワハラ行為」は以下の通り。
1)上級生Aが被災者が断ったにも関わらず、ヘアアイロンで被災者の髪を巻き、やけどを負わせたこと
2)Aがやけどを負わせたにもかかわらず、真摯な謝罪をしなかったこと
3)Aが髪飾りの作り直し等、深夜に及ぶ労働を課したこと
4)上級生が、新人公演のダメ出しで人格否定のような言葉を浴びせたこと
5)週刊誌報道(※週刊文春によるヘアアイロンに関する報道)後、上級生がやけど事件加害者の責任を問わず、被災者を呼び出し、詰問し、劇団員の前で被災者を孤立化させ、過呼吸の状態に追い込んだこと
6)劇団幹部がやけど事件を「全くの事実無根」と発表したこと
7)劇団幹部が、睡眠時間が一日3時間程度しか取れないような、極めて過酷な長時間労働を課し、過大な要求をしたこと
8)宙組幹部が「振り写し」の復活により、一層過大な要求をしたこと
9)宙組幹部が「お声がけ」の復活により、一層過大な要求をしたこと
10)演出家が怠慢・不備により、到底対応不可能な業務を課したこと
11)宙組幹部が配役表事前開示に関し、9月初め2日連続執拗な叱責を行ったこと
12)宙組幹部が「振り写し」に関し、大声で宙組組員の面前で叱責を行ったこと
13)宙組幹部が「下級生の失敗はすべてあんたのせいや」等執政を繰り返したこと
14)宙組幹部が9月28日、幹部部屋で大声で叫び、威圧的な言動を行ったこと
15)宙組幹部が「お声がけ」に関し、詰問し、叱責し続け、罵倒したこと
また調査チームの報告書では、パワハラに関する劇団員の複数の証言があっても証拠として採用せず、結果としてパワハラと認定しなかったしている。
その上で、「総じて調査報告書は、過剰な『縦の関係』を規律としている劇団内の体質、劇団幹部・上級生による下級生支配の構造を理解せず結論に至っている」と厳しく指摘した。