核爆弾のレプリカや“核のボタン”が付いた模擬制御盤などの展示を見学するプーチン大統領の様子が4日公開された。

真剣な眼差しで説明に聞き入るプーチン大統領だが、このタイミングで映像を公開する意図は何なのか。

ロシア政治に詳しい筑波大学の中村逸郎()名誉教授に、現在のロシア情勢とプーチン大統領の思惑を聞いた。

ウクライナ膠着状態への焦り

ーー核兵器に関する施設を見学した映像を公開した意図は?

最大の意図は、プーチン大統領は来年3月の大統領選挙を前にして、非常に焦ってきています。

なぜかと言いますと、来週半ばに3月の大統領選に関する告示が行われて、その直後の木曜日(14日)にプーチン氏は正式に立候補を表明すると言われています(※プーチン氏は8日に大統領選に出馬する意向を表明している)。

筑波大学・中村逸郎名誉教授
筑波大学・中村逸郎名誉教授
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勝利は間違いないと見られていましたが、ウクライナとの戦いが膠着化する中、国内情勢はプーチン氏にとって安泰の方向に必ずしも流れていないという雰囲気に変わってきています。

そこで、大規模なロシア展示会に行って、核使用の映像を見せつけることによって国内世論の引き締めに走っていると考えられます。

要するに、来週の木曜日(14日)に大統領選挙への正式な立候補を表明すると言われる中、それに向けてのデモンストレーションだったのではないかと思います。

核爆弾のレプリカの説明を受けるプーチン大統領
核爆弾のレプリカの説明を受けるプーチン大統領

ーー他国に対する“力の誇示”の意味合いは?

ウクライナとの戦争だけでなく、中東情勢もかなり緊迫化しています。

そうした中でロシアは核保有国で、強いロシアであるということを誇り、影響力を発揮するためにこのタイミングで映像を流したと言えます。

「核兵器の使用は既定路線」

さまざまな場面で核をちらつかせるプーチン大統領。

中村名誉教授は、単なる脅しではなく“警告”として受け止めるべき段階に来ていると話す。

ーー核施設の見学で推察できることは?

私の知る限りでは、昨年来からプーチン政権の内部では、「核兵器の使用は既定路線」という話がなされているようです。

実際に核を使用するかどうかはわかりませんが、それに向けて1つ1つ段階を踏んできているのではないかと想像します。

“核のボタン”が付いた模擬制御盤
“核のボタン”が付いた模擬制御盤

ーー10月に習近平国家主席と会談した時も将校が核のカバンを持っていたが

プーチン政権は欧米を相手に、すでに核を使わざるを得ない状況に追い込まれてきている様子をさまざまな場面で世界に見せつけてきました。

中国・習近平国家主席との会談で“核のカバン”を持つ将校(北京・10月)
中国・習近平国家主席との会談で“核のカバン”を持つ将校(北京・10月)

これは単なる脅しに留まらず、むしろ警告として受け止めるべき段階に来ているのではないかと思っています。

原発と戦術核の2段構想

ウクライナとの戦いが膠着する中、ロシアによる核を使った攻撃は“2段構え”で想定されているという。

ーーウクライナに対する核使用も示唆している?

現実的に今大きな問題になってきているのは核使用です。

中でもウクライナ国内のザポリージャ原発において、緊迫度合いが非常に高くなってきています。
冷却水のための電源が喪失状態になったという情報があります。

これは核兵器というよりも、原発を使ったウクライナ、さらに欧米への攻撃が差し迫ってきている状況です。

ーー原発を使った攻撃?

昨年3月以降、ロシアはザポリージャ原発を軍事的に制圧しています。

そこに2000人近いロシア兵たちがいるわけですが、この原発にロシアはすでに爆弾を仕掛けたと言われています。
この原発を爆発させることによって核物質によるウクライナ国内、さらには欧米、ヨーロッパへの攻撃を仕掛けようという意図が見えます。

核爆発によってできた“キノコ雲”の映像を見るプーチン大統領
核爆発によってできた“キノコ雲”の映像を見るプーチン大統領

つまり、攻撃は2段構えです。
1つはザポリージャ原発を使ってのウクライナ攻撃で、これはヨーロッパにも大きな被害を及ぼします。

2つ目は、戦術核を使って、規模を限定した形でのウクライナ国内への攻撃です。
具体的には、ベラルーシに配備しているロシアの戦術核をウクライナの都圏・キーウに打ち込むというシナリオです。

この2つが想定されています。