“学生プロレス”を知っているだろうか?関西で45年の歴史を誇る「同志社プロレス同盟(DWA)」という団体がある。しかし、所属するレスラーはたったの一人。一人だけのプロレス団体を、情熱を持って存続させようとする学生レスラーに密着した。
45年の歴史を持つ団体が存続の危機
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
プロレスは基本的に、相手の技は受ける。(技を)受けた上で勝つ。プロレスは意地の張り合いだと思っています。絶対に相手の攻撃を避けないから、だからこそ生まれる、熱い試合がプロレスにはあると思います
同志社大学3年生の石井海翔さん。中学3年生の時に見た、ある動画が石井さんの運命を変えた。
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
身長が203センチ、体重が185キロくらい。この人(海外レスラーのブラウン・ストローマン)が救急車をひっくり返す動画を見てから、うわー、プロレスラー、やべー!と思って見始めたのがきっかけでしたね。大学に行って、もし、自分もプロレスラーになれるなら、4年間だけでも面白いかもしれないなと思ったのが、がんばって勉強しようと思い始めたきっかけです

同志社大学に入学して真っ先に向かったのが、「同志社プロレス同盟(DWA)」。今年で創立45周年を迎える、関西の学生プロレス界では最も歴史のある団体だ。
以前は数多くの学生レスラーが在籍し、学園祭で興行を打つなど、盛んな活動が行われていた。
しかし、先輩たちは卒業し、レスラーは石井さん一人に…。さらに、新型コロナの感染拡大で、リングを使ってプロレスの魅力を伝えることができなかったため、新入部員は誰も入ってこないという状況になった。
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
相当、(リングの)老朽化も進んでいるので、リングの改修もできたらなと思うんですけど、また難しい話なので。人が入らない事には、そのリングを新しくしたところで、試合する相手もいないので、難しいところですね
歴史ある学生プロレス団体が今、存続の危機に瀕している。

「大学でしか経験できない」学生プロレスにかける情熱
石井さんは週に1回、自宅から電車で片道1時間半の大阪市生野区にあるリングで練習している。
石井さん一人だけの同志社大学では練習相手がいないため、立命館大学の学生レスラーと一緒に、ここで汗を流している。リング上で生き生きとした表情を見せる石井さん。“プロレスを愛する仲間がいる”、その大切さをかみしめる。

そんな中、「同志社プロレス同盟」の存続のため、“ある作戦”の実行を決めた。
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
あそこの場所(大学内)にリングを立てるので。大学の方に交渉して、許可が下りて。本当に“同志社大学さん、ありがとう”といったところですね
4年ぶりとなる学内興行を打ち、プロレスの魅力を学生たちに伝えるという作戦だ。
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
知ってもらわないことには、何をしているかも分からないと思うので、とにかく学生の目に触れたい。人が来てくれるかな、みんな見てくれるかな、っていうのが僕は心配ですね。お客さんがいてなんぼのプロレスなので
入学当時から石井さんを知る友人は、石井さんについてこう話した。

石井さんの友人:
(石井さんが)女の子とずっとラインをしていて、“デートに誘えよ”って言ったら、“土曜日はプロレスがあるからデートは行けない”って、(出会いの)チャンスを逃していたんです
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
もちろん、恋愛もしたいですよ。ただ優先順位はプロレスが上なだけであって
プロレスに青春を捧げる石井さんですが、実は高校までは美術部に所属していたという。
身長はおよそ158センチと小柄で、プロレスができる体にするため、大学に入学してからはひたすら食べ続け、10キロ以上も体重を増やした。

そんな日々の中で今切実に求めているのは、一緒にプロレスをする仲間だ。
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
うち(同志社プロレス同盟)に入って一緒にやらないか、と思いますけどね。大人になってからも遊びはできるので、大学でしか学生プロレスって経験できないので。興味本位でもいいので、入って来て欲しいですね
4年ぶりの興行 観客は集まるのか
先輩たちがつないできた45年の伝統を一人で背負い、戦い続ける日々…。4年ぶりの学内興行に、プロレスへの情熱をぶつける。
迎えた興行当日。対戦相手は、いつも練習を共にしている立命館大学の学生レスラーだ。
通りかかる学生たちは物珍しそうにリングを見るものの、なかなか足を止めてくれない。そこで、石井さんはある行動に出た。
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
12時半からプロレスやります!よかったら見に来てください。よろしくお願いします

大きな声で学食にいる学生たちに向けて、呼び込みを行った。その甲斐もあって、100人以上の学生が試合を見に集まった。いよいよ本番だ。
実況:
同志社大学3回生、“フェリス・ジェリコ女学院”!
“フェリス・ジェリコ女学院”とは、石井さんのリングネーム。大勢の観客が見守る中、ついにゴングが鳴った。
試合では、顔面をしたたかに打ち付けられるなどの激しい攻撃を受けながらも、石井さんの必殺技も炸裂。いつしか、“ジェリココール”が湧き起こり、会場が一つになった。

熾烈な攻防を目にした観客の間では、至るところで歓声や拍手が沸き起こった。大いに盛り上がったこの試合は、石井さんの勝利で終わった。
試合を終え、息を切らしながら観客に呼びかける石井さん。
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
今、同志社大学でこんなばかな事をやっている人、俺しかいません。僕はこれをまだまだ続けていきたいと思っています。そのためには、同志社大学の皆さんの力が必要です。学生がいなければ、サークルもクソもないです。だから今日、少しでも楽しかった、面白かった…ちょっとでも覚えてくれたら、僕たちのこと忘れないでください。そして、あわよくば、皆さんうちに入ってください!
興行を成功させた石井さんの元に、一人の男子学生が近づいてきた。

学生:
入りたいです
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
本当ですか!
学生:
最高でした

同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
全然2年からでも遅くないんで。毎週土曜に練習しているので、ぜひ見学でも来てください。待ってます。よろしくお願いします
試合を見た学生からの、入部希望の申し出だった。
同志社大学3年 石井海翔(かいと)さん:
本当よかったです。本当に来てくれると嬉しいですね。あの子(入部希望者)がこれから続けていきたいと思えるように、僕たちもまだまだ先陣切ってがんばろうと思います
この後、さらにもう一人の入部希望者が現れた。

45周年を迎えた「同志社プロレス同盟」。OBたちが費用を出し合い、45周年興行を来年1月に行う予定だ。
石井さんがつないだ、歴史ある学生プロレス。その熱い思いは、きっと次の世代にもつながっていく。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年11月15日放送)