岸田首相の支持率が低迷し、2023年での衆議院の解散は見送られるとの見通しが大方を占めているが、今年6月には一気に解散の機運が高まった時があった。政治決戦に向けて自民党側は、前回と同じ顔触れとの見方が強いが、玉城知事を支える県政与党・オール沖縄側は、沖縄4区について候補者が決め切れていない。沖縄4区で何が起きているのか取材を重ねた。

オール沖縄に焦り…

衆議院の解散の機運が急速に高まった6月、県政与党は政党・会派の代表者で構成する連絡会議を始動させ、各陣営が候補者の擁立に向けた動きを活発化させ一区から三区までは概ね前回と同じような顔ぶれになった。
しかし、その中でいまだ“構図”が固まらないのが沖縄4区だ。

沖縄本島南部、宮古・石垣などが含まれるこの選挙区は、強固な保守地盤だ。
米軍基地を有していないため基地問題が争点となりにくく、前回の総選挙時に、沖縄テレビが実施した世論調査では、有権者が重点を置く政策は経済や沖縄振興、医療・福祉が高い割合を占めた。

オール沖縄の顔ぶれ 1区・赤嶺政賢(共産)、2区・新垣邦雄(社民)、3区・屋良朝博(立憲)と前回同様
オール沖縄の顔ぶれ 1区・赤嶺政賢(共産)、2区・新垣邦雄(社民)、3区・屋良朝博(立憲)と前回同様
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前回(2021年)の総選挙では、閣僚経験もある西銘恒三郎氏が、玉城デニー知事率いるオール沖縄勢力の候補者を下した。
さらに、去年実施された南城市・豊見城市の市長選挙では、いずれも自公勢力が支援する候補者が勝利した。
現在、4区の市には“オール沖縄系”の首長はいない。

勢力を取り戻したいオール沖縄にとって、4区は課題であり、次期総選挙でも“自公対オール沖縄”の構図になると目されていた。
しかし、これまでの構図を塗り替えるかもしれない“異変”が起きている。

4区に出馬表明した2人の“山川”

6月、沖縄県庁の記者クラブで、れいわ新選組の山本太郎代表が記者会見を開いた。
「沖縄第4選挙区から出馬する候補者です」
紹介したのは、前の豊見城(とみぐすく)市長の山川仁(やまかわ ひとし)氏だ。
唐突とも言える発表に、会見に出席した記者たちの間には戸惑いの空気が漂った。
山川は意に介さず、「県民の代弁者となる」と意気込みを語った。

出馬会見を行う山川仁氏と山本太郎代表
出馬会見を行う山川仁氏と山本太郎代表

「4区で一体何が起きている?」
記者たちが戸惑う理由は、もう1人の候補者の存在だ。

兄の山川泰博氏は維新からの出馬を表明
兄の山川泰博氏は維新からの出馬を表明

さかのぼること約1か月前の5月、もう1人の「山川」が同じ4区での立候補を表明していた。

山川泰博(やすひろ)は仁氏の実兄で、日本維新の会・沖縄県総支部に所属する。
前回選挙では沖縄2区で立候補したが、今回は4区へ鞍替えした。
その理由を「当時は弟(仁氏)が豊見城市の現職市長だったため4区から出るのは配慮した。今回は地元から出る」と語った。

維新の候補となった兄・泰博氏と、れいわの公認を得た弟・仁氏。
異色の兄弟対決だ。

弟・仁氏の出馬について兄・泰博氏は「当日にLINEがあった」とするが、「今は何を言っても聞く耳を持たないだろう」と連絡は取っていないという。

仁氏の電撃的な「れいわ」からの出馬で波紋が広がったのは、維新だけではない。
2022年の市長選挙で、仁氏を応援した県政与党勢力、いわゆる“オール沖縄”にもその影響は及んだ。

既定路線か、分裂か

解散説が浮上した当初、オール沖縄側の4区候補者選考は、前回出馬した金城徹氏が既定路線かと思われた。
金城氏は2018年に逝去した翁長雄志前知事の側近で、辺野古新基地建設には反対の立場だが、基本的な政治姿勢として“保守”を自認している。
オール沖縄は金城氏を擁立すること、革新票と自民党に反発する保守層の票を引き寄せたい狙いがある。

前回4区から立民公認として出馬した金城徹氏
前回4区から立民公認として出馬した金城徹氏

しかし今年5月、金城氏が候補者として有力視される報道が出ると、立憲民主党県連は「誤解を広める記事」と抗議文を出した。

どうする立民?

2021年の総選挙以降、4区の候補者擁立の調整役となっているのが立民県連だ。
「金城氏 有力」の記事に県連が抗議文を出した背景には、立民県連内に仁氏を候補者として推す動きがあったからだ。

理由について立民関係者は“保守”である金城氏を推す難しさを吐露した。
「南西諸島の自衛隊強化が争点となり得る。オール沖縄は軍事力強化に反対の立場だが、金城さんは自衛隊容認の立場で、党本部も南西シフトに賛成の立場だ。4区で金城さんを擁立して、有権者の理解が得られるのか」
立民は“保革相乗り”の難しさ、党本部とのスタンスの違いなど、複雑な事情をいくつも抱えている。
しかし、仁氏の擁立は結局頓挫した。
理由について立民関係者は「仁氏の擁立は、前回の市長選の結果などから、賛否両論があった。結局議論が煮え切らず、議論の俎上(そじょう)にのる前にれいわから出た」

剛腕の采配

7月18日の午後5時、那覇市の与儀にある知事公舎に、1台のワンボックスカーが入っていった。
後部座席に座っていたのは、立民の衆議院議員で“剛腕”の異名をとる小沢一郎氏だ。
小沢氏は、玉城知事にとって政治の師と仰ぐ人物で、極秘面談だった。

知事公舎に入る小沢一郎氏
知事公舎に入る小沢一郎氏

関係者によると、小沢氏と玉城知事はこの日、4区の候補者選考について意見を交した。
小沢氏は「4区の候補者は、これまでの“経緯”を踏まえた上で、皆さんで選び選挙を頑張ってくれ」と話し、発言の真意について、立民関係者はこう解説した。
「“経緯”と強調したのは、候補者となる人物の実績、また、支援団体の連合おきなわの後押しを受けることができる人物だということだ」
また小沢氏は、山川仁氏がれいわから出馬表明したことに触れ「オール沖縄から候補者を出すと、れいわと候補者調整となる。候補者調整は党本部マターだ」と、“一本化”をにじませた。
小沢氏は、滞在中に玉城知事のほかに、支援団体の連合おきなわなどとも面談している。

”女性候補の出現” ”金城氏も動く”選考は三つ巴か

金城氏か山川氏か、候補者が決まらない膠着(こうちゃく)した状況が続いた中、10月20日、県庁記者クラブで、市町村の女性議員が会見を開いた。

女性議員たちは会見後、当選5回のベテラン・比嘉京子県議を訪ねて、出馬要請した。

比嘉氏は那覇市を地盤とする政治家だが、生まれは石垣島で、石垣市長を4期務めた故・内原英郎を父に持つ。
前回の総選挙でも候補者として名前が挙がるなど、かねてから待望論があった。出馬を要請した女性議員たちは「いつ選挙になるかわからない状況が続くなか、いまだに候補者が決まっていないことを危惧している。選考の俎上(そじょう)に女性を入れてほしい」と述べた。

比嘉氏は「要請を重く受け止める、候補者の擁立は急務」と述べ、出馬に意欲を示した。
その一方で、「俎上(そじょう)に上げてもらったうえで、しかるべき枠組みで候補者が“一本化“されるなら、その判断を尊重する」と進展を促した。
比嘉氏は10月29日、「一政治家として要請を受け入れる決断をした」「幅広い方々の受け皿になれるよう政党に所属すべきではない」として、所属していた社大党に離党届を出した。
比嘉氏の離党についてオール沖縄関係者は「候補者選考を加速化させたいのではないか」と観測した。

一方、これまで沈黙を貫いてきた金城徹氏も動いた。
10月25日に上京し、立民の大串選対委員長と岡田幹事長と面談した。2日後には党の公認が正式に決まった。
金城氏は沖縄テレビの取材に対して「党の公認が決まったことは素直にうれしい。今後は選考委員会で絞り込まれていく作業になるが、その行方を注視したい」とコメントした。

候補者選考会準備会

候補者の名前は上がるも具体的な進展がない状況に、県政与党の県議のもとには、選考状況の問い合わせが殺到していた。
10月25日、各政党の代表、南部や先島選出の県議、そして、4区の選挙区に含まれる南城市、石垣市、宮古島市の市議が一堂に会した。
政党・会派の連絡会議の座長である照屋大河県議が参集を呼び掛け、候補者選考を加速化させる準備会を開催した。
「4区については沖縄の中にあっても対自民という事については、厳しいという事もあるので、こちらが分かれて選挙する姿は見せたくない」(照屋大河県議)
準備会では、一本化を望む声が多数を占め、今後、候補者選考を加速化させていく事で認識を一致させた。

自民の自信

一方、対抗馬となる自公勢力からは、閣僚経験もある西銘恒三郎氏が出馬する見通しだ。
自民党関係者は、オール沖縄側の動きについて、「選考が主導権争いとなっていて、一本化できるか疑問だ。乱立すれば戦いやすいのは明白」と冷静に見ている。

また、仮に一本化したとしても、前回同様の勝利を見込んでいる。
金城氏については「戦い方は知っている」、比嘉氏については「那覇が地盤のイメージが強く、本島南部で無党派を取り込むのは難しいのでは」また、山川仁氏についても「市長選で自公勢力が勝利した実績がある」としていずれの候補に対しても自信をのぞかせた。

自民党は前回同様の候補者で調整を進めている
自民党は前回同様の候補者で調整を進めている

“米軍基地ではない安保の最前線”

沖縄第4選挙区は宮古島や石垣島、与那国島など、政府が進める自衛隊の機能強化の対象地であり、いわゆる南西シフトが争点の一つとなるホットスポットだ。

2022年、政府は安保3文書を閣議決定によって改定し、岸田首相は「日本の安全保障政策の大転換」と述べた。
また、米中の対立によって台湾有事が声高に叫ばれはじめ、沖縄では先島地域の自衛隊増強、第15旅団の師団への格上げなど、急速な軍備増強が進められている。

その一方で、78年前、地上戦が繰り広げられた沖縄では、現在の状況を「沖縄戦前夜」と表現する者も多く、特に戦争体験者を中心に懸念が高まっている。

離島に配備されたPAC3
離島に配備されたPAC3

こうした県民の思いを結実させるのは、政治の役割だ。
しかし、投票率は低迷。

沖縄の未来を担う選挙だが、候補者選びの場に目を向けると、議論が遅滞し、各政党による主導権争いの様相を呈している。
こうした状況に有権者は閉塞感を感じているのではないだろうか。

しかし、沖縄のかじ取り役は選挙で選出される。
その舵取り役を選ぶのは県民一人ひとりの“投票”によって決まり、私たちの暮らしと政治は切り離すことができないということを忘れてはならない。

(沖縄テレビ)

沖縄テレビ
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