内閣府が発表した2023年7月から9月までの3カ月間のGDP(国内総生産)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前の3カ月と比べて0.5%減り、年率換算では2.1%減少した。
この記事の画像(8枚)マイナス成長となるのは3四半期ぶりで、年率マイナス0.5%前後だった民間予測の中心値を大きく下回った。
物価高で振るわなかった個人消費
前期4~6月は年率換算で4.5%増と、控除項目である輸入が減ったことも寄与し、外需がけん引する高い伸びを見せたが、7~9月は外需がマイナス寄与となり、内需も強くなかった。
振るわなかったのはGDPの半分以上を占める「個人消費」だ。0.04%減と2四半期連続のマイナスとなった。
重荷となっているのは、物価高だ。
外食が増えたものの、値上がりが続く食品などの消費が落ち込んだ。9月の実質賃金はマイナスが18カ月続き、物価上昇に賃金の伸びが追いつかない状態が継続している。2人以上の世帯の実質消費支出は7カ月続けて前年を下回った。
9月の日銀の生活意識についての調査でも、暮らし向きに「ゆとりがなくなってきた」とした回答が57.4%に達している。
「食費高くなった…」広がる節約意識
街で聞いてみると…
IT業界20代:
給料に対して、物価が早く上がってきている感じがする
金融業界40代:
自分のお金が取り崩されているのがわかる
パート勤務50代:
買い物に行くと1万円があっという間になくなる
物価高を感じる費目として「食費」をあげる人が多く、「節約を心がけている」という声が目立った。
賃金が伸びないなかで生活防衛の意識が広がり、消費が下押しされる構図が見て取れる。
内需のもうひとつの柱となる企業の「設備投資」も0.6%のマイナスとなった。半導体市場の調整が長引いた結果、半導体製造装置関連の投資が落ち込んだ。
一方、自動車の出荷は欧米向けを中心に好調だったものの、輸出に含まれる外国人旅行者によるインバウンド消費の広がりが一服するなか、「輸出」の伸びは0.5%にとどまり、輸出から輸入を差し引いた外需もGDPを押し下げる結果となった。
気がかりな海外経済の減速
この先、気がかりなのが海外経済の動向だ。
急激な利上げの影響が強まるユーロ圏では7~9月期のGDPが前期比・年率0.4%減と、3四半期ぶりにマイナス成長に転落したほか、不動産市場の落ち込みが続く中国でも伸びが鈍化している。
アメリカは4.9%増と金融引き締め局面が続くなかでも勢いが持続し、一人勝ちともいえる状態となっている。しかし金利が高止まりするなか、サービス業の景況感に陰りも見え始めていて、今後は減速が見込まれる。
海外経済の悪化は輸出に期待しにくい環境を生み、外需の伸び悩みにつながる。内需でどこまで強い成長軌道が描けるかがが焦点だ。
企業収益UP↑賃金UP↑消費UP↑の好循環は?
岸田政権は物価高を超える持続的な賃上げに向け予算や税制を総動員する構えだ。
決定した経済対策では実質GDPの押し上げ効果を19兆円程度と想定し、デフレからの完全脱却をうたったが、デフレ脱却で重視される4つの指標のうちGDPギャップは再びマイナスになることが予想される。
東証に上場する企業の2023年9月中間決算では円安や訪日客の増加などを追い風に好業績が広がり、過去最高益となるケースも相次いでいる。
内需主導の賃金・投資の歯車がかみ合って企業が稼いだ利益が賃上げに回る環境が整えられ、消費が上向く好循環が実現していくのか。
国内景気は重要な局面を迎えている。
(執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一)