静岡県伊豆の国市で神社の例大祭に合わせて引き回しをしていた山車が横転したことで1人が死亡、18人が重軽傷という事故が起きた。4年ぶりの例大祭がなぜ悲劇の現場となったのか。浮かび上がったのは“経験不足”の4文字だ。

引き回しの山車が横転 1人死亡の悪夢

横転した山車(伊豆の国市)
横転した山車(伊豆の国市)
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「山車が転倒し、人が落ちた」
11月3日午前8時40頃、静岡県伊豆の国市田京にある廣瀬神社の例大祭で引き回しをしていた山車が横転した。
近所の人などによれば山車の上には当時10人以上が乗っていたほか、周りには引手や交通指導員など30人から40人程度いて、横転の弾みで投げ出された人や山車と地面との間で挟まれた人など、6歳から75歳までの19人を病院に搬送。72歳の男性が死亡したほか、18人が重軽傷という惨事となった。

事故の前に視聴者が撮影した山車
事故の前に視聴者が撮影した山車

山車は田京区の町内会が所有しているもので、高さ約3メートル、横幅は約2.5メートル、長さ約4メートル。
実は例大祭は新型コロナウイルスの影響で過去3年中止が続いていて、久々に開催された中での悲劇だった。

下り坂を蛇行した後に横転か

現場となったのは山車が川にかかる橋を渡った後、左折してすぐの地点。緩やかな下り坂となっていて、山車の前で交通整理をしていた男性は「引手が『危ない』と逃げた。逃げているうちに『ガタガタドン』という状況で。振り返ったらもう転がっていた」と証言する。

蛇行するタイヤ痕
蛇行するタイヤ痕

付近には生々しいタイヤ痕が残されていて、事故を目撃した人の話では山車は坂に差し掛かったところで加速し、一度前方に倒れた後、車体の左側を下にして横転したそうだ。

本来、こうした下り坂では山車の前方にいる引手たちが後方へと移動し、スピードが出過ぎないよう進行方向に対して後ろにロープを引っ張りながら進んでいくが、今回はこの作業のそのものをしていない可能性が浮上していて、制御が効かない状態になったとみられている。

山車は坂道で横転
山車は坂道で横転

前出の交通整理をしていた男性は「左にカーブしてから(山車が)右に行っている。右側は崖なので切り返したと思う。多分、切り返した時に山車が“振られ”、バランスが崩れたのではないか。タイヤ痕を見るとそんな感じがする」と話す。

コロナ禍が生んだ悲劇なのか

別の山車での減速操作
別の山車での減速操作

また、山車には簡易的なブレーキが付いているほか、こうした坂道を始め減速させたい時には木製の棒をバンパーに挟んだ上で地面に押し当て、摩擦を利用することでスピードを調整することになっているが、もはや制御を失った山車を前には無力だったようだ。

山車は伊豆中央警察署が押収
山車は伊豆中央警察署が押収

山車は年に2回ほど車輪を中心に点検していたことに加え、例大祭の開催にあたり2週間前には消防による点検も受けたばかりで、車体そのものに何らかの不具合や異常があった可能性は低いとみられることから、警察は山車を任意で押収し、操作や安全管理に問題がなかったのかも含め業務上過失致死傷の疑いも視野に捜査を進めている。

事故を受け、田京区の町内会のある役員は「経験不足感は否めない」と肩を落とした。現に今回の参加者のうち半数ほどは未経験者だったという。
であるならば、事前にもっとできることはなかったのか。死亡した男性(72)の知人は、男性について「心強い存在だった。だからすごく悔しい」と嘆いた。当然のことながら失われた命はもう戻ってこない。コロナ禍で途絶えた技術伝承の代償はあまりにも大きなものとなった。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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