2022年11月から2023年2月にかけて、鹿児島県内では高病原性鳥インフルエンザが猛威を振るった。養鶏場での発生数は過去最多で卵の価格も高騰するなど、養鶏王国・鹿児島は見えないウイルスに揺れた。

あれから間もなく1年、2023年も渡り鳥のシーズンが本格化しつつある中、鹿児島の養鶏農家は鳥インフルエンザのリスクにどう備えているのか取材した。

県内で約137万羽のニワトリが殺処分に

2023年10月17日、出水平野に越冬のためシベリアからやってきた5羽のツルが確認された。

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鹿児島県ツル保護会・堀昌伸事務局長は「季節の風物詩と言われているのでこれからもツルと人との共生を図っていきたい」と話すが、渡り鳥のシーズンは養鶏王国・鹿児島にとって鳥インフルエンザのリスクと向き合う期間でもある。

昨シーズン、鹿児島県内各地の養鶏場で鳥インフルエンザが猛威を振るった。2022年11月、出水市の養鶏場で1例目の感染が確認された後、被害は約1カ月間で北薩と呼ばれる鹿児島県北部の11の養鶏場に拡大。

薩摩半島南部や大隅地方でも感染が確認され、最終的には過去最多の13の養鶏場が被害を受けた。

殺処分されたニワトリの数は、鹿児島県内で飼育される採卵用ニワトリの1割以上にあたる137万羽。卵の値段も上がるなど、生活にも影響が及んだ。

大量殺処分に「言葉にならなかった…」

2023年9月。2022年に被害に遭った阿久根市の養鶏場が鹿児島テレビの取材に応じてくれた。防疫対策のため取材スタッフも入り口で長靴に履き替え、消毒液をかける。

各鶏者の入り口にもゲートがあり、車に消毒液を噴霧。この養鶏場ではこれまでも3時間に1回鶏舎の周りを消毒するなど、県や国の指導以上に防疫対策をしてきたが、2022年12月、飼育していたニワトリに異変が起きた。

吉岡ファームの吉岡剛代表は「鶏舎の周りを噴霧器で消毒していた。『ニワトリの調子がおかしい』と聞いて、すぐに行ってみたら、明らかに通常とは違う状況だった」と当時の様子について語った。

 
 

死んだニワトリからは高病原性の鳥インフルエンザウイルスが確認された。ニワトリ7万羽が殺処分され養鶏場の敷地内に埋められた。

「殺処分をするのは見られなかった。大事に育てているニワトリを処分するのは非常に残念で、言葉にならなかった」と吉岡代表は振り返る。

鳥インフルエンザの猛威は、出水平野のツルにも広がった。死んだり弱ったりして回収された野鳥の数も過去最多の1,500羽に上った。

専門家「今シーズンも感染リスク高い」

ツルへの感染拡大と養鶏場での感染。両者の関連を専門家はどうみているのか。

ウイルス学が専門の鹿児島大学共同獣医学部・小澤真准教授は「ツルで流行したウイルスと養鶏場に入り込んでしまったウイルスは別のものと考えてよい。ツルの大量死と養鶏場は分けて考える必要がある。必ずしも直接影響があったわけではない」と話す。

しかし、養鶏場に感染が拡大したメカニズムはいまだに解明されていないとして、小澤准教授は、今シーズンも鳥インフルの感染リスクは高いとみている。

また、「2023年夏から秋にかけ、ヨーロッパを中心に鳥インフルエンザが流行しているというのは、情報として入ってきているのと、実際に北海道でも1羽、ハシブトガラスから高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されているので、引き続き厳重な警戒が必要だと考えています」と警鐘を鳴らす。

吉岡さんの農場では2023年4月にニワトリの飼育を再開。従来から続けている養鶏場周辺の消毒に加え、鶏舎の外に、自動消毒のスプリンクラーも設置。

2つのポンプで、消毒液を鶏舎周りと吸気口の所に噴霧し、消毒された空気を中に入れるよう工夫した。噴霧回数は2時間に1回、3時間に1回などのように、その時の危険度に応じて設定可能だ。

それでも「今、実施しているこの対策が、本当にこれで守り切れるのか、それはまだ分かりません」という吉岡代表。「これでもか、これでもかというくらいの対策を、これからもしていかなければいけないと考えています」と警戒を緩めることはない。

大規模な感染拡大から間もなく1年。関係者は試行錯誤を重ねながら今シーズンも鳥インフルエンザウイルスと向き合う。

(鹿児島テレビ)

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