災害時、障害者が取り残されないために

西日本豪雨から2年。災害時に障害者にどう配慮するのか、教訓を生かそうと生まれた視覚障害者への対応を取材した。

篠田吉央キャスター:
目が見えていた頃は、この辺りを駆け回って遊んでいたんですか?

天辰江利子さん:
はい。歩きましたね

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篠田吉央キャスター:
当時の真備の様子は、頭の中に残っていますか?

天辰江利子さん:
はい。道も分かりますし、どこの家が誰の家かもわかっています

篠田吉央キャスター:
今ここは空き地になっていますが

天辰江利子さん:
(頭の中の)地図と違いますね。私も最近になって知った。引っ越されたというのは

西日本豪雨 視覚障害を持つ女性の避難所生活は…

岡山・倉敷市真備町川辺。2019年に建て直した自宅に家族と住む天辰江利子さん(46)は、網膜の異常で視野が次第に狭くなる難病「網膜色素変性症」により、5年ほど前に左目を失明した。右目も、ほとんど見えない。

天辰江利子さん:
(西日本豪雨のことは)まだ忘れていません。全然、2年たっても。やっぱり雨が降ると思い出します。近所の人のボートに助けられました。2階に上がっていたんですよ

2018年、岡山県内に甚大な被害をもたらした西日本豪雨。
視覚障害がある天辰さんの自宅も2階まで浸水した。

当時、家族で向かった最寄りの避難所はすでにいっぱいで入れず、何とか別の避難所にたどり着いたが、視覚障害者にとってはさまざまな困難があった。

篠田吉央キャスター:
こちらが避難所になっていた体育館の中です。当時はいかがでした?

天辰江利子さん:
来るのが遅くて、もう真ん中くらいしか空いていなかったんですよ。下にシートを敷いているので、それを踏んではいけない。人がいるのかもわからなくて、トイレとか行きにくかったですね

慣れた自宅なら1人で移動できるが、初めての場所では、自分がどこにいるのか位置関係もわからない。
このため、家族がいない時などは、食事などの受け取りも困ったと振り返る。

天辰江利子さん:
少しでも点字ブロックを置いてくれたら、自分でも行けるような気がして

豪雨被害の教訓から開発 「携帯用点字ブロック」

天辰さんが訴えたのは、表面の突起の形で歩行者を誘導する「点字ブロック」の必要性。
実は、岡山県が発祥で、現在は世界70以上の国と地域に普及しているが、2018年の西日本豪雨で被災した視覚障害者の声などをもとに、新たな点字ブロックが開発された。

岡山市北区の「ワークランド虹」。
天辰さんなど主に県内の視覚障害者が通うこの就労継続支援B型事業所が、2020年から大阪市のメーカーと連携し、製造・販売を行っているのが携帯用の点字ブロック。

篠田吉央キャスター:
この携帯用の点字ブロック。安全に進める方向を示す「線状タイプ」と、停止や注意を促す「点状タイプ」の2種類があります

篠田吉央キャスター:
非常に薄くて、1枚の重さは100グラム余り。このように20枚重ねても軽々と持ち運びができ、手軽に設置できる

裏面は粘着シートになっていて、繰り返し貼ったり、剥がしたりできるのも特長。

天辰さんも実際に使ってみると…

天辰江利子さん:
点字ブロックを設置してもらえるだけで、気持ち的に安心する。(視覚障害者にとって点字ブロックは)道をたどる目のような存在

岡山県視覚障害者協会 竹内昌彦副会長:
今の新型コロナのように、ひっついたらいけない、接触してはいけないなどと言われたら、視覚障害者は本当に困る。一人で動けるのを助けるという点で、携帯用点字ブロックはとても有効だと思っています

「耳が聞こえない人、手足の不自由な人もいる」 配慮の広がりに期待

すでに岡山県内では、美作市が600枚、倉敷市が100枚、総社市が80枚購入していて、倉敷市は、6月に行った避難所の開設訓練に、初めて携帯用点字ブロックを取り入れた。

倉敷市防災推進課 渡邉直樹課長:
視覚障害のある方が避難所に来られた時に困らないように、必要な物品だと思い導入しました。(点字ブロックの)使い方がまだ慣れていないので、もっと職員に対しての指導が必要だと思います

また、2020年3月には、社会奉仕団体から中四国9つの盲学校に80枚ずつが贈られていて、岡山盲学校では、児童・生徒の防災学習に活用することにしている。

岡山盲学校 鷺原浩樹教頭:
ここから出口ですよということで、約30cm手前に(停止を促す点字ブロックを)敷くルールがあります。(線状の)点字ブロックを並べていきます

児童・生徒が避難先に設置された携帯用点字ブロックに対応できるようにするほか、卒業式でも活用し、これまで校長が歩み寄り渡していた卒業証書を、自分で受け取りに行けるようにしたいとも考えている。

岡山盲学校 鷺原浩樹教頭:
自分で歩いていけるのは自信の1つになりますので、将来、手引きなく自分で歩けるというのは、(全盲の児童・生徒の)一番の大きな目標なので

西日本豪雨の教訓などから生まれた携帯用点字ブロック。
被災した天辰さんは、障害者への配慮の広がりに期待を寄せている。

天辰江利子さん:
耳が聞こえない人もいれば、目が見えない人もいれば、足や手が動かない人もいる。いろんな人への配慮があったらいいなと思う。(災害など)大変な時こそ、忘れないでほしいです

西日本豪雨から2年。
その教訓を生かし、障害の種類や程度に関わらず、全ての人に寄り添える環境が整備されることが求められている。

(岡山放送)

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