拉致被害者、横田めぐみさんの弟・拓也さんが6日、福井・小浜市で講演し、家族の日常を奪われた悲しみを語った。小浜市は拉致被害者、地村保志さん、富貴恵さん夫婦が住む場所だ。事件の記憶が風化する中、中学生に家族や周囲の人たちに拉致問題を伝えてほしいと訴えた。

「風呂場で一度だけ、父が息を押し殺し泣いていた」

横田めぐみさんの弟・拓也さんは北朝鮮による拉致被害者5人が帰国した当時の思いを振り返った。

小浜市で講演をした横田めぐみさんの弟、拓也さん
小浜市で講演をした横田めぐみさんの弟、拓也さん
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横田拓也さん:
2002年に5人の拉致被害者が帰国できてよかったという思いがある一方、めぐみがなぜ帰ってこれなかったんだという悔しさで涙がとまらなくて、前を見ることができなくて…。車を側道に止めて泣いていたことを今でも覚えています

話を聞くのは小浜市内の中学3年生250人。拉致問題の風化を防ごうと、小浜市教育委員会が企画した。

横田拓也さん:
苦しい中でも両親は私の前で取り乱すことは決してありませんでした。ただ風呂場で一度だけ、父が私に背を向けて、頭にお湯をかけながら息を押し殺して泣いていたことがあります。どうしてこんなかわいそうな思いを父がしなければいけないのかと思った

真剣な表情で話を聞く中学生たち
真剣な表情で話を聞く中学生たち

1977年(昭和52年)11月、拓也さんの姉・めぐみさんは当時、中学1年生13歳の時に北朝鮮に拉致された。クラブ活動を終え、中学校から帰宅する途中だった。

北朝鮮は、めぐみさんが29歳の時に自殺したと説明しているが、拉致被害者の家族会は信ぴょう性が低いとしてこの説明を否定。帰国を求め続けている。

「これからの世代に正しく伝えていきたい」

家族の当たり前だった日常。拓也さんは拉致によって、その幸せが一瞬にして奪われた悲しみを語った。そして拉致問題を家族や周囲に伝えてほしいと中学生に呼び掛けた。

講演を聞いた中学生は
講演を聞いた中学生は

講演を聞いた中学生は、「拉致がどんなひどいことかということを、あらためて知ることができた」「これからの世代に正しく伝えていくことが大切だと思うので、それをしていきたいと思う」とそれぞれが拓也さんの思いを受け止めた。

北朝鮮による日本人拉致事件をめぐっては、21年前に小浜市の地村さん夫妻ら5人が帰国した。ただそれ以降、めぐみさんを含む拉致被害者は、いまだ母国の地を踏んでいない。

その間にも被害者家族は高齢化している。拓也さんの父、滋さんは2020年、娘との再会を果たすことなく87歳で亡くなった。また母、早紀恵さんは現在87歳。政府に対して「生きている間に結果を出してほしい」と訴えている。

(福井テレビ)

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