山での死亡・遭難事故が相次いでいる。初心者だけではなく経験者も、さらには高い山だけではなく低い山も危険だということだ。40年以上登山活動をしている山岳ガイドの加藤智二さんに聞いた。

危険な目に遭った経験を持つ人は多い

関西テレビ「newsランナー」の視聴者にLINEでアンケートを取ったところ、「登山・トレッキングの経験がある」と答えた方が49%で半数ぐらいの方が経験されているということだ。

この記事の画像(8枚)

さらに「登山で危険な目に遭ったことがありますか?」と聞いたところ…

・足元の岩を踏んだ時にゴロッとぐらつき、滑りそうになったことはある
・雨の後、下山中に落ち葉で滑り手をつき、指を脱臼した経験がある
・道に迷って予定の倍以上かかり下山した

といったエピソードが寄せられた。

山岳ガイド 加藤智二さん:
落ち葉があると、その下がどんな状態かちょっと分かりにくく、落ち葉と落ち葉がスリップするのはよくある話なので、目でよく見ることも大事ですけど、いきなり足を踏み出して全体重をかけないことです。山の中はやっぱり自分の目で見て、足裏感覚を大切にして確認しながら歩きます。よく見ることと、浮き石があるので確認しておく癖をつけた方がいいと思います

専門家があげる3つのポイント

登山で注意するべきポイントとして、加藤さんによると大きく3つあるということだ。

▼ポイント1 心構え
▼ポイント2 低体温症
▼ポイント3 生死を分ける必須アイテム

1つめの「心構え」。体力の過信が命取りになるということだ。

山岳ガイド 加藤智二さん:
自分の登山の体力や歩く力は実感できていないものです。「体力ありますか」「運動してましたか」と聞かれて、全く運動してない人に比べれば運動していましたというのはけっこうですけども、登山では上り・下りがあり、荷物を背負っていますので、使う筋力の消耗の仕方も違います。そして長時間、3時間、4時間、5時間と歩かなきゃいけません。身近な山で自分をテストする気持ちで、体力を把握するために1回登ってみてほしいと思います

体力の目安というものはあるのだろうか?

山岳ガイド 加藤智二さん:
おすすめは標高差です。標高差を見て、約300m を1時間で登れると普通ぐらいだと思います。それが一つの目安で、登るだけじゃなくて周りを見たり、自分の健康管理できるような 少し余裕を持った感覚で登れると、いろんなところに行けるかと思います。

2つめは、「低体温症」の恐ろしさをどう防ぐかだ。

先日、朝日岳で4人の方が亡くなった事故について見ていく。朝日岳は栃木県北部にあり、標高1896メートル、日本百名山にも選ばれている。標高1400メートル付近までロープウェイで上ることができ、初心者にも人気の山だということだ。

10月6日に登山者から通報があり、翌7日に4人の遺体が発見されている。亡くなったのは65~79歳の男女4人で、死因は低体温症ということだ。当時の天候だが、那須ロープウェイ山頂駅で最高気温4度、風速20メートルを超えて、強風のために午後はロープウェイが運休するほどだったということだ。過酷な状況だったということが分かる。

関西でもこのような事故が起こる山は考えられるのだろうか?

山岳ガイド 加藤智二さん:
低体温症はどの山でも、どの季節でも起きる可能性があります。体の内部の深部温度が36~7度だといいんですけど、35度や34度になったらもう低体温症ですので、必ずしも凍りつくような温度じゃなくても、体温が強烈に奪われてしまえば低体温症になるということです。標高がそこまで高くない山でも可能性はあります。 今回の朝日岳のケースでは、標高や風速から単純に言って、体感的には“マイナス16度”になるということなので、本当に凍えるような寒さです。なおかつ低体温症の状態になってしまうと自分で自分の始末をできないので、もうこの4人の方はなすすべもなかったということで、予防が大切です

自分で分かる低体温症のサインというのはあるのだろうか?

山岳ガイド 加藤智二さん:
鳥肌が立ってくる。寒いと震えがくる。震えというのは体が意識せずに筋肉を震わせて体温を生み出そうという生理現象なので、震えが出た時点で何かしらの適切な対処をしないと、大変な事態になります。早めに手当てをしてください

低体温症にならないためにやっておくべきことだ。

・地形や天候を把握。「見晴らしの良い場所は危険」と加藤さんは言う。
・避難場所を把握。

山岳ガイド 加藤智二さん:
見晴らしの良い場所というのは、いわゆる抜けのいい場所ですから、樹木に覆われてないところなので、天候が悪くなるとダイレクトに風を受けてしまう場所です。登山エリアで風光明媚なところは、天気が悪くなった時は危険ですよという意味で指摘させてもらいました。また植生を意識しておくといいです。穏やかであれば木は上に向かって育っていきますけど、風が強ければ横に向いてしまうので、木が横に向くような植生の所は常に強い風が吹いてる場所だというサインです

危険な状況になったときの避難場所を把握しておくことも大事だ。

山岳ガイド 加藤智二さん:
山小屋は都合のいいところにはなかなかないので、休むにしても、服装を整えるにしても風のないところを選びたいので、地形を前もってよく見ておくことです。今回事故があった現場は長い距離吹きさらしがずっと続くことでで有名な場所で、入り込みすぎると戻れないです。山小屋などがない場合に避難するなら、風当たりのない場所、岩のかげとかです。地形をよく読むということなんですけども、やはり経験者が適切な場所で指示をするということも大切なので、全く知識のない方同士で行った場合は非常にリスクが高いです。 天候に関しても、天気予報で『西高東低の冬型の気圧配置』になる時、等圧線が縦じまになるような時は非常に気を付けなければいけないです。今はもう高い山は雪が降る時期です

生死を分ける“必須アイテム”

山岳ガイド 加藤智二さん:
例えば手袋です。手袋は手首まで覆う長さのもので、保温材が入っていて、風を通さない素材のものを使うことです。手首の脈を取るところ、ここは動脈が浅いところを通っていて非常に熱が逃げやすいポジションなので、手袋で保温することです。 ネックウォーマーなどで首も温めた方がいいです。けい動脈は熱が逃げるので、暑い時はあけた方がいいですし、寒い時は覆った方がいいです。寒い時はフードをかぶる方法もあります。“首”とつく部位は特に大事です

山岳ガイド 加藤智二さん:
あとエマージェンシーシート。非常にコンパクトにパッケージになっていて、荷物にならないので、持っていると非常時に役に立ちます。自分の赤外線を外に放射させないためのアイテムで、ただ非常に薄いもので無風の状態だとかぶっていられますが、山岳の強風地帯でかぶるのは困難だと思います。強風でない場所まで移動して、助けを待つ間、命をつなぐためにかぶるイメージで持っていた方がいいかもしれないです。1000~数千円で、違いはありますけど、リュックに入りやすい、持ちやすいものです

持参しておくといい食材は?

ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者からの質問。

Q.高齢者でも登山はできますか? 注意することはどんな事ですか?

山岳ガイド 加藤智二さん:
高齢者の方は、自分が想像しているよりバランス感覚が悪くなっていたり、筋力が落ちているので、自分が思ってる以上に足が上がっていないことがあって、つまずきに注意してほしいです。あと自分の目で見たものが理解するまで時間がかかるので、「見てください。注意してください」というざっくりした言い方じゃなくて、「この木をちゃんと見てね」「この岩をちゃんと見てね」と具体的に意識させないとちゃんと見ないです。急がず、丁寧に歩くことです。「丁寧に歩きましょう」と言ってあげると伝わりやすいのでいいと思います

Q.日帰り登山で持参しておくといい食材は?携帯でき、カロリーが取れ、保存が効くものは?

山岳ガイド 加藤智二さん:
自分が大好きなものを持っていくのがいいかもしれません。疲れた時に、「これを食べたら私は元気になる」というものを一つ入れたらいいと思います。アメでもいいですが、アメだけですますのではなくて、カロリーも必要ですし、塩分も必要ですし、バランスよくしてください。ゼリーなどもいいかもしれません。ポケットに入れてすぐ食べやすくしておくのがいいです

低い山でも十分に注意していただき、登山をする際の参考にしていただけたらと思う。

(関西テレビ「newsランナー」 2023年10月10日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。