免許がなくてもOK!ハンドルを握るのは、なんと子どもたち。
広島で開発された“小さなボート”が注目されている。水上散歩から災害支援まで、活用の幅が広がる未来型ボートの可能性を取材した。
子どもが操縦⁉︎ ミニボートの試乗会
広島市中心部を流れる川に、赤と青のかわいらしいボートが現れたのは6月29日のこと。“タグボート”に似たフォルムと、まるで絵本から飛び出したようなデザインに、道ゆく人々も思わず足を止める。

「バイバーイ!」
手を振りながらハンドルを握っているのは、なんと小学生。隣で付き添う大人が、ほほ笑ましそうに見守っている。小型ながらもボートにはエンジンが搭載され、舵を切った方向にスイスイと進んでいく。

この日、行われた試乗会には、子どもから大人まで多くの人が参加し、夏の水上散歩を楽しんだ。
参加した小学生は「楽しかった。景色がきれいだった」、中学生は「最初は難しかったけど、最後は上手にできました。もう一回乗りたい!」と話していた。
開発したのは広島の自動車販売業者
このボートが特別なのは、船舶免許がいらないこと。船体の長さが3メートル未満、エンジン出力は2馬力未満のため、誰でも操縦可能な「免許不要艇」に分類される。川でも海でも走行できるというから驚きだ。

2015年の法改正で、こうした小型ボートは免許も船舶検査も不要に。カヤックや、ボードに立って漕ぐ「SUP」と同じカテゴリーに属し、ゴーカート感覚のハンドル操作で子どもでも操船できる。
開発したのは、広島市佐伯区で自動車販売会社「ティーズカンパニー」を営む塚本雅彦さん。
「かわいいデザインで、乗ること自体が楽しい。もっと海に興味を持ってもらいたい」
江田島市出身の塚本さんは、海や川に囲まれた広島だからこそ、自然に親しむ機会を増やしたいと考えたという。

試作品は2023年に完成。これまでは関東の工場で製造してきたが、塚本さんはある決断をした。
「遠くよりも地元で作りたいという気持ちが強くなった」
2025年春からは、廿日市市と東広島市の工場で量産を開始し、“メードイン広島”として全国出荷を目指す。価格はエンジン別で税込188万円。コンパクトな船体は大人4人が乗っても安定し、小型トレーラーに乗せて駐車場で保管できる点も魅力だ。
カワイイだけじゃない“実用性”とは
試乗会では、原爆ドーム周辺を歩く外国人観光客がボートに手を振っていた。

偶然、試乗に参加したカナダの観光客からも「このボート、好き!とっても楽しいよ!」と好評だ。
実は、このボートには災害時の支援ツールとしての可能性も秘められている。
EV技術の開発などを行う東京の企業「EVジェネシス」の木村裕一CEOは、こう語る。
「小型のタグボートというのは世界的にも珍しい。災害時に被災地へ物資や電力を届ける手段として活用できる可能性がある」
子どもから観光客、そして災害支援まで。かわいらしい見た目の奥には、広島発の未来が詰まっている。

開発した塚本さんは「大きなフェリーもいいですが、小さなボートで魚釣りや海水浴、クルージングなど、広島ならではの体験をしてもらいたい」と話す。
操縦してみたい――そんなワクワク感を呼び起こし、実用性も期待されるミニボート。水上レジャーをもっと身近にするため、広島から全国へ羽ばたこうとしている。
(テレビ新広島)