現在22歳のGAKU。
重度の知的障害と多動症を持つ自閉症で、アーティストでもある。
そんな彼は16歳のとき突如、絵を描き始め、今や世界のブランドからコラボの声を掛けられるようになった。
#1ではなぜブランドから声がかかるのか、そしてコラボレーションする狙いについて触れている。
GAKUの絵には「彼の価値観や生き様が反映されている」と父親であり株式会社アイムの代表・佐藤典雅さんは言う。
そんな佐藤さんは、GAKUの絵の活動を通じて、自閉症をより多くの人に知ってもらうことも目指している。
GAKUが有名になることで目指すこと
現在のGAKUのアート活動は、常に彼が「ハッピーであること」を追求した結果だったと佐藤さんは振り返る。
それでも「将来、GAKUが絵の活動で楽しくないと思うことがあれば、続けなくてもいい」と言い切れるほど、GAKUが常に笑顔でハッピーな状態でいられることを一番に考えている。
この記事の画像(7枚)そんな佐藤さんは、自閉症の子どもを持つ家族として、GAKUの絵から「自閉症に対する世の中の認識を変えていく」といった目的も持っている。
GAKUが生まれた当時、佐藤さんは「少し変わっている子」という認識で子育てをしていた。
その後「自閉症」とわかってからはさまざまなことを調べ、アメリカ・ロサンゼルスで療育を受けたり、息子にとってベストな環境を整えるために自らが福祉業界に参入した。
自閉症は見た目にもわかりにくく、説明しにくい障害であり、時には「奇妙さ」が際立ってしまうため、まだまだ認知や人々の理解が必要だという。
「自閉症はその障害に対して、とても説明しにくい。行動パターンも変わっていて、道の真ん中で飛び跳ねていたりすることもあるので、周りから見ると奇妙です。GAKUの絵を通じて、『この子、自閉症なんだ』『自閉症ってこんな行動をするんだ』と知ってもらって、周りに自閉症の人が現れたときに、“奇妙”、“怖い”と思わずに接してもらえることを目指したい」
自閉症であるGAKUが有名になることで自閉症への理解が進み、多くの自閉症の人が住みやすく生きやすい世の中になる。そうした世の中は、障害を持たない人にとっても生きやすくなると佐藤さんは考えている。
では、GAKUにどんな「環境」をつくってきたのか。
GAKUがラッキーなのは人に恵まれた
佐藤さんが、GAKUが生きやすく、ハッピーな状態でいるために、重視してきたのが2つ。
「空間」と「人」だ。中でも「人」は特に重要だという。
「『かっこいいオフィスで働きたい!』など、自分のいる空間が楽しいかどうかは、自分にとって居心地の良い環境を作る上で大切な基準のひとつです。そして、その空間に関係する『人』はさらに重要です」
そのため、佐藤さんは自身やGAKUと関わる人は「ポジティブで明るい人かどうか」ということも大切にしていると話す。
「実際に居心地の良い空間が整っていなくても、一緒にいる人が楽しければ、悪い環境でも満足しますよね。GAKUに関して、ハッピーでラッキーだったのは人に恵まれたことなのです」
GAKU自身、知的障害であるために人に忖度をすることはなく、あるがままに自己表現をしている。「そんなGAKUを気にいってくれる人を受け入れている」と佐藤さんは語る。
その一人が、GAKUの才能を見抜き、アート活動を寄り添い、見守るアートディレクターの古田ココさんの存在だ。
GAKUが高校生のときに出会ったココさんは、パリコレでも活躍していたファッションデザイナーだった。しかし、発達障害を抱える親族がいること、「人生の最期は発達障害に関わる仕事がしたい」とのことで、アイムにやってきた。
GAKUが絵を描き始めた発端の、岡本太郎美術館へGAKUを連れて行ったのもココさんなのだ。
「知的障害は普通にみれば可哀想なのかもしれません。しかし、僕から見ると、世の中のいろいろな悩みから解放されていて、受験や社会の矛盾なども考えなくていい。アート活動というGAKUの自己表現に振り切ることができるので、みんな『“がっちゃん”の人生がうらやましい!』と言いますね」
「ちょっと変わった人」を受け入れる大切さ
もちろんGAKU自身も障害者であることのハンディや内面に葛藤を抱えてきたこともあるといい、常にハッピーであったかというと、そうではなかった。
それでもGAKUが抱えるさまざまなハンディも「ひっくり返せば強みになります。僕は本当のポジティブ思考はネガティブなことも受け止めて、ポジティブにどう変換するか、だと考えています。
自閉症もネガティブだと思われますが、常識を気にしないマイウェイの道を突き進むことができて、そういう環境を整えてきた」と佐藤さんは語る。
また、自閉症が暮らしやすい環境づくりで私たちができることは、「周りにいる、変わっている人も受け入れること」だという。
「自閉症には強いこだわり、落ち着きのなさや変わっている行動などありますが、障害あるなしに関係なく、周囲にちょっと変わっているな、と思う人はいるはずです。でも、“普通ってなに?”とも思うのです。自分も周囲からみれば変わっているかもしれないし、すべての人に何かしらのこだわりはある。
GAKUのこだわりは、大好きな『柿の種』の食べ方です。あられとピーナッツを分けて、結局あられだけを食べるのですが、でもピーナッツがないとダメなのです。そうしたことに理解があれば、周囲のちょっと変わった人も受けいれられる」
もちろん、自閉症の子を持つ親としてハッピーなことばかりではなく、「大変じゃなかったことはない」と振り返る。
それでも「そんなに変わった生活を送っているわけでもなく、特別不幸であるわけでもない。あるのは少し他の人と変わった日常で、でも違和感を持ったこともない。
逆に僕はGAKUを見ていて希望しか感じません。彼を見ていてワクワクしたりするのは、回り回って彼のいる環境や彼自身がポジティブだから」であり、それが佐藤さんの原動力でもあると語った。
#3では、言葉数が少ないGAKUがなぜ人を動かす力があるのかについて触れていく。
佐藤楽音(さとう・がくと)
自閉症アーティスト。3歳のときに自閉症と診断され、4歳で当時最新の療育を提供していたといわれるアメリカ・ロサンゼルスへ家族で渡る。以後、9年間ロスで療育を受けながら過ごす。14歳のとき、日本に帰国。中学卒業以降は、父親が彼のために設立した福祉施設「アイム」が運営するフリースクール「ノーベル高等学院」へ入学。そこでCocoと出会い、絵を描くことに目覚める。現在は、生活介護「ピカソ」に在籍し、日々精力的にアート活動を続けている。
佐藤典雅
株式会社アイム代表。自閉症である息子のために福祉事業に参入し、川崎市で発達障害の児童たちの生涯のインフラ構築をテーマに活動。神奈川ふくしサービス大賞を4年連続で受賞。著書に『療育なんかいらない!』(小学館)がある。