対立する米露双方と微妙な距離感を保ち、巧みな外交を展開しているとの見方もある中国だが、経済の低迷をはじめ国内に多くの問題を抱えてもいる。BSフジLIVE「プライムニュース」では専門家を迎え、習近平政権について徹底検証した。

「競争と協力」アメリカの一貫した外交姿勢、困る中国

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新美有加キャスター:
対立が続いてきた米中関係だが、現在は積極的に対話が行われている。9月16〜17日に王毅外相とサリバン大統領補佐官が約12時間の会談。18日にはニューヨークで韓正国家副主席とブリンケン国務長官が会談。アメリカは11月にサンフランシスコで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に合わせ米中首脳会談を実現したいと言われる。中国も首脳会談を見据えているか。

宮本雄二 元駐中国大使:
間違いなく大きな外交目標。だが、米バイデン政権の「競争と協力」は一貫しており、競争分野で手を緩めるつもりはない。経済や安全保障、サプライチェーンのリスクを最小限にして関係を続ける一方、軍事関係では大混乱を避けるため競争を安定化させたい。アメリカの新しい外交に、中国は非常に困っている。G20の欠席は、結果が出ないのにバイデン大統領に会わなければならないことを避けるためでは。

興梠一郎 神田外語大学教授:
欠席について、中国の報道はアメリカが問題だという内容ばかり。話し合う姿勢でなく「嫌なところには行かない」となるとまずい。

反町理キャスター:
中国の国家安全省がSNSに「米中首脳会談を実現するには、アメリカ側が十分な誠意を見せる必要がある」と書いた。誠意とは。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
中国の高官たちが制裁されており、ファーウェイなどハイテク企業への制裁も続いている。その解除を求めるという条件を突きつけている。

習政権にとって岸田政権は「付き合いにくいが無視できない」

新美有加キャスター:
日中関係の懸案事項は、福島第一原発の処理水放出への中国側の批判と日本の水産物の輸入禁止。また3月に反スパイ法違反の疑いで国家安全当局に拘束されたアステラス製薬の男性社員は、9月刑事拘留された。さらに尖閣諸島周辺での中国の活動も。また親中派とされる林外相が上川外相に交代し、話し合い自体がなかなかできない。

宮本雄二 元駐中国大使:
対米関係よりは優先度が低いが、中国も日本を放っておいていいとは思っておらず、少しでも関係改善したい。日本人は中国に対して色々感じると思うが、外交なのでどんな状況でも双方で知恵を出していかなければ。

反町理キャスター:
韓国の韓悳洙(ハン・ドクス)首相が中国で習主席と会談し、習主席が日中韓首脳会談の開催に賛成だと言ったと。日本に対しては冷淡な態度だが。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
習政権にとって岸田政権は少し付き合いにくい。岸田総理は対米関係重視、G7・NATOを軸にという姿勢がはっきりしている。また中国が話せるキーパーソンが岸田政権にいない。ただ中国にとっては中国に進出している日本企業が重要。また日中韓の関係では、韓国の尹大統領の日本との距離が近く、中国は孤立を避けたい。

興梠一郎 神田外語大学教授:
他の国との写真と比較すると、習主席が韓首相と握手していない。日韓にすり寄っていると見えてしまうから、中国外交部は習主席の発言を発表していないが、韓国がばらしてしまった。また、ロシアのプーチン大統領の10月訪中も中国側は発表せず。北朝鮮含めた3カ国が近いとあまり見られたくない。

新美有加キャスター:
プーチン大統領と王毅外務大臣が会談し、プーチン大統領が10月に北京で開かれる「一帯一路」の国際会議に合わせて訪中すると述べたとロシア側が発表したが、中国側からは発表なし。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
理由として、一帯一路フォーラムに反ロシアの国が多いことがある。北京は「プーチンが来るなら参加しない」を防ぎたい。

習主席が自ら任命した幹部を次々に更迭する理由とは

新美有加キャスター:
習近平政権幹部の失脚・解任が多く伝えられる。秦剛前外相が解任され、また李尚福国防相、人民解放軍・ロケット軍の李玉超司令官と徐忠波政治委員も解任されたと言われる。

興梠一郎 神田外語大学教授:
秦剛氏はアメリカで愛人に子供を産ませたという話。李尚福氏は装備発展部の部長時代にあった入札の不正の話。ロケット軍もその絡みでの装備関係。習近平氏の軍をコントロールしたい気持ちが強まっている。今は景気悪化で不満も見え、外交や軍など自分の身の危険に直接影響することは全て自分の子飼いにしないと怖いのでは。一言で言うと異常。

宮本雄二 元駐中国大使:
全て習近平が任命した人物で、更迭は衝撃的な出来事。習近平政権のガバナンスの強さは、2022年の党大会で全てを完全に押さえた時と違うのかもしれない、と思わせる出来事。

反町理キャスター:
政権は弱まっているのか。むしろ引き締めて次のステップに向かっていくか。

宮本雄二 元駐中国大使:
2022年に本当に強まっていたなら今回弱まったのだが、実は強まっていなかったのなら、元々こうだったということ。しかし習近平改革、つまり全部ルールに従って法治を強調し、ガバナンスがそれに従う姿勢の結果でもある。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
習政権を過小評価してはいけない。今回のことで基盤が揺らいだとは思わない。信頼、信用、権威は、少しはディスカウントされただろうが。

中国の深刻な経済低迷、マンション過剰供給は社会不安に繋がる

新美有加キャスター:
中国経済の問題。GDPのうち13%と工業に次いで大きな割合を占める建設・不動産部門の不況が深刻化しており、9月に発表された新築住宅価格指数は前月比で、主要70都市中52都市で下落している。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
マンションの過剰供給によるデベロッパーへのダメージは銀行に飛び火する。土地の使用権を払い下げていた地方政府が財源を得られなくなる。地方政府が管理する社会保障ファンドに金がなくなると年金が払えなくなる可能性が出て、家計に影響する。日本の預金保険機構にあたるものがなく救済できない。社会不安に繋がる可能性が高い。

反町理キャスター:
中国政府は2020年8月に不動産開発会社の負債増加に歯止めをかける財務指針を示した。2021年1月には銀行の不動産関連の貸し出しに上限を設定。効果はなかったのか。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
元々の構造がおかしく、デベロッパー、銀行、地方政府に対するガバナンスは利いていなかった。

興梠一郎 神田外語大学教授:
中国のお金持ちも外国の投資家も中国に投資するリスクが大きいと感じており、その最大の問題が習近平主席。権力が集中するほど政策がぶれ、恣意的になる。中国で変化したのはインフラでも人口でもなく、センチメント(市場心理)。「投資するとなんか危ない」と。

宮本雄二 元駐中国大使:
胡錦濤時代までは、政治が経済に口出ししないように我慢していた。習主席は我慢しない。政治が関与して市場原理に棹を差せばパフォーマンスは下がる。習主席はそこに気づいていないと思う。

我が身の安全が最優先の習主席…中国経済は崩壊まで突き進むか

新美有加キャスター:
最近の台湾をめぐる中国の動き。9月12日に中国は福建省を台湾と融合発展させる計画の詳細を発表。平和統一への具体策を示す一方で、台湾国防部の発表では9月13日には台湾の東側の海上で中国軍の空母「山東」や戦闘機が共同訓練を行うなど、軍事的な圧力を強めている。

宮本雄二 元駐中国大使:
基本的には、中国は平和統一の方に重点を置いていると思う。ただ、人民解放軍は台湾軍がアメリカの助けを借りて、中国の攻撃を阻止できるシナリオを持つことに対して大変な恐怖心を持っている。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
これから始まる台湾の総統選(2024年1月)がポイント。中国はできれば国民党に勝ってほしい。前回は直前まで蔡英文総統の支持率が低かったが、北京が恫喝したことで彼女の支持率を上げてしまった。今回は前回に比べ介入が弱い感じはする。

興梠一郎 神田外語大学教授:
中国がいつ何をするかわからないから準備を、というのがアメリカや台湾の姿勢。ウクライナ侵攻を起こしたロシアと同様の政治体質だから、似たことをするのではと。特にああいう体制の国は、経済が悪化すると冒険主義になり外に出てくる可能性がある、危ないと言われている。今回の融合路線と軍事演習について台湾の反応を見ると、怒っている。結局また民進党が有利になる。

反町理キャスター:
中国のやることが裏目に出ている話ばかりだと感じる。

柯隆 東京財団政策研究所 主席研究員:
もともとが改革開放の成長路線だったが、途中からあらゆる統制を始めた。市場経済は弱まる。この路線でとことん行けば崩壊する。習主席は国家と市場の役割をあまり区別できていない。全て国家政府の役割でやるのは間違いだが、とことんまで行く可能性が排除できない。歴史を見ても方向転換するのは大惨事の後。毛沢東のときも数千万人が餓死して転換した。

興梠一郎 神田外語大学教授:
仮説だが、習近平は権力を固めるプロセスで敵を全部潰した。その江沢民派や胡錦濤派がまだ生きて牢屋に入っている。高齢で後継者も決めていない習近平は怖い。彼の最大の命題は経済でも外交でもなく身を守ること。毛沢東同様、政策がそこから出発するから「安全」を言う。反スパイ法、国家安全維持法などを作る。だが誰の安全なのか。外交ではどんどん孤立し、中国は安全ではなくなっている。

(BSフジLIVE「プライムニュース」9月25日放送)