いまや「総理にしたい政治家」NO.1の自民党小泉進次郎筆頭副幹事長。
連載第3弾は、小泉氏のこれまでの「進化」の過程を振り返り、その資質を問うていく。
 

大逆風下での初選挙

2009年8月 衆議院選挙投開票日
2009年8月 衆議院選挙投開票日
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自民党に政権交代を望む逆風が吹き荒れるなか、小泉氏は初めての選挙に臨んだ。
選挙区は、小泉氏が生まれ育ち、父・純一郎氏から譲り受けた神奈川11区(横須賀市・三浦市)。当時は自民党的なあらゆるものが、政界の悪しき慣行として批判や嫌悪の対象となった。そのひとつが「世襲」であり、世襲批判は小泉氏にも集中した。
一方、選挙区で対立した候補者は当時飛ぶ鳥落とす勢いの民主党に所属し、テレビのバラエティ番組で人気だった若き弁護士だった。
メディアは2人を「世襲」vs「改革者」の構図でこぞって取り上げ、神奈川11区は全国の注目選挙区となった。さらに選挙期間中、対立候補が小泉氏に握手を求めて無視されたと伝わると、進次郎はさらなるバッシングを浴びることになった。

8月12日、横須賀で行われた集会に、フジテレビのカメラが入った。
当時小泉陣営が集会を公開するのは異例で、取材クルーは「陣営の焦りではないか」と考えた。
小泉氏は支持者に向かって「今回の戦いはテレビや新聞で報じられている以上の厳しい逆風だと思っています。あるお祭りでは、『小泉なんて横須賀から追い出してやる』と言ってくる方もいました」と述べた。

集会後のインタビューで、小泉氏は「これはペース配分の無いマラソンです。最初から42.195キロをスパートしっぱなし、ゴールは人生初の万歳です」と語った。
しかし逆風は、その時の小泉氏の想像を、はるかに超えたものだった。
 

足を踏まれペットボトルを投げつけられても

小泉氏は投票日前日夜に行った街頭演説で、これまでの選挙戦をこう振り返った。
今では信じられないことだが、この選挙戦の中で小泉氏は、有権者から「うるさい」と罵倒され、足を踏まれ、ペットボトルを投げつけられたこともあったという。
「最後の日を迎えるまで、決していいことだけではありませんでした。最初の方、私が街頭演説を始めても、こんなに多くの方が足を止めてくださらなかった。そして『うるさい』と叫ばれ、足を踏まれ、中にはペットボトルを投げつけられるようなこともありました」

結果、この選挙で小泉氏は6割近い得票率で当選したが、民主党の対立候補に比例復活を許した。神奈川11区は、1996年の小選挙区導入以来、父・純一郎氏が4回にわたって圧勝し、対立候補に比例復活を許してこなかった。
しかし、この選挙で初当選した自民党の新人候補は全国でたった4人。自民党候補者にとって、いかに苦しい戦いだったかがわかるだろう。
 

退路を断ち、崖っぷちに追い込む

 
 

当選の知らせを聞いた小泉氏は、早速各テレビ局の出演に「引っ張りだこ」となった。
小泉氏は真っ黒に日焼けしていたが、頬はこけ、選挙戦がいかに厳しかったか伺わせた。
小泉氏は、当時国民的人気があった父・純一郎氏、俳優として活躍していた兄・孝太郎氏の応援を断っていた。
フジテレビの中継でこのことを聞かれると小泉氏は、「兄と父を応援に呼ばないのは、迷いも葛藤もありませんでした。応援弁士は無くても地元の皆さんがいましたから」と答えた。

また、小泉氏はこの選挙で重複立候補を辞退し、公明党からの選挙協力も断った。退路を断ち、自らを崖っぷちに追い込んだのである。自民党への逆風が吹き荒れるなか、こんなことのできる新人候補者はまずいない。
これについて小泉氏はこう答えている。
「もし小選挙区で落選した場合、(比例復活で)私を支えてくれる皆さんに堂々と当選しましたと言えるのか、私はそれを自分に問いました。(重複立候補では)立てないと思いました。小選挙区で勝つことが私の目標です」
 

何よりも選挙が強い進次郎氏

 
 

小泉氏はこれ以降の選挙では、およそ8割の得票率で圧勝を続けている。一部の自民党候補者のように、公明党の顔色をうかがう必要はない。
石破茂元自民党幹事長は、「日本を背負って立つ」ための条件として、「何よりも選挙が強い」ことを挙げ、小泉氏にはこれが備わっていると述べている。小泉氏の選挙区は今「鉄板」だ。
父・純一郎氏から譲り受け、地元の支持基盤をさらに強固なものにしたのは、ほかならぬ小泉氏だ。
政治家となった小泉氏は、やがて東日本大震災に遭遇し、自ら「ライフワーク」と呼ぶ復興支援活動に取り組むことになる。(連載-4-へ続く)



関連記事:【小泉進次郎の覚悟「私は真正面から鉄砲を撃っている」連載-1- 】   
     【小泉進次郎の覚悟「国会では友人はできない」連載-2- 】


筆者:フジテレビ 解説委員 鈴木款
早稲田大学卒。農林中央金庫で外為ディーラーなどを経て、フジテレビに入社。営業局、「報道2001」ディレクター、NY支局長、経済部長を経て現職。著書「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」(扶桑社新書)
 

小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉 (扶桑社新書)
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。