この夏、愛媛県西予市野村町で、まちの伝統産業「養蚕」を体験してもらう初めての試みが行われた。養蚕農家は、最盛期で県内に5万軒以上あったが、現在は8軒にまで減少。体験を通して参加者が感じた養蚕の魅力とは何なのだろうか。
野村町の伝統産業「養蚕」に挑戦する2人の若者
8月、西予市野村町にある養蚕の作業場には、普段はいない2人の若い女性の姿があった。大阪の大学院生・大原理彩子さん(23)と、フランス出身のセリーヌさん(26)だ。
この記事の画像(20枚)この夏、2人はカイコを育てて生糸を作る野村町の伝統産業「養蚕」に挑戦した。
滑らかで優しい光沢を放つ生糸。西予市では明治時代初期から養蚕が盛んで、作られる生糸は品質の良い「伊予生糸」として国の内外から高い評価を受けている。
しかし、蚕糸業は農家の高齢化とともに衰退が進み、最盛期には県内に5万6,805軒あった農家は、現在では8軒にまで減少。
そのうち4軒がある「シルクの町」西予市野村町では、幅広い年代に養蚕を知ってもらいたいと、2023年初めて「養蚕インターンシップ」が企画された。
シルク博物館・清家卓さん:
蚕糸業全般を含めた中で発信をしていって、多くの方にまずは知ってもらう。そして来てもらう、体験してもらうというところをどんどんやっていきたいと思っています
なぜ養蚕インターンシップに?
朝8時、早くも作業を開始する参加者2人の姿があった。今から桑畑に行って桑を取りに行くという。
8月14日から、約3週間にわたって行われた養蚕インターンシップ。地域おこし協力隊の石川耀介さんが2人を指導する。
まずはカイコのエサとなる桑の葉の収穫からスタートだ。
参加者2人にインターンシップ参加の動機を聞いてみると。
大阪の大学院生・大原理彩子さん:
せっかくだったら調べ事するとか本を読むだけではなくて、育てちゃえみたいな。飛び込もうと思って来ました
養蚕をテーマに研究し、全国を飛び回っているという大学院生の大原理彩子さん。
一方で、はるばるフランスからやってきたセリーヌさんは、日本の文化に興味津々。
フランス出身・セリーヌさん:
フランスで手織りの経験があって、勉強をしていた時に日本が手織りの大きな文化を持っていることを知った。そこで日本の絣とか染め、織を勉強して、その文化を日本で自分で見てみたいと思って来ました
育てているとわかるカイコの魅力
この日、収穫した桑の葉は軽トラック2台分。
これだけの量を朝・昼・晩の3回に分けてカイコに食べさせるということで、毎日のエサやりもかなりの重労働だ。
大阪の大学院生・大原理彩子さん:
昨日の夜9時くらいに一面桑で覆ってあげたんですよ。食べつくしました
お腹をすかせたカイコたちに「飯だぞ~。朝飯だ」とコミュニケーションをとりながら餌をやる。「彼らは日に日に大きくなっています」と成長を感じているようだ。
カイコは卵から孵って約4週間で、なんと1万倍にも大きくなるという。実は虫が苦手だった大原理彩子さんだが、今では「かわいいです。触りたくなる」と話す。
大阪の大学院生・大原理彩子さん:
小指の爪くらいの大きさしかなかったのが、今こんなにむちむちになって。それがうれしくてよく育ったね~みたいな。子どもみたい
セリーヌさんも「好きです。スーパーかわいい」と頬をゆるめた。
どんどん成長していく姿を我が子のように見守る2人。
愛情を込めて大きく育てられたカイコを、手のひらに乗せてもらった曽我部愛麗アナウンサーも「わ~かわいい。本当につるつるですね」とカイコの魅力を知ってしまったようだ。
養蚕の伝統と技術を未来へ
みなさんに今後の展望を聞いてみた。
シルク博物館・清家卓さん:
とても熱心な2人が参加していただききましたので、ぜひまた来年も継続できるように検討していきたいと考えています
大阪の大学院生・大原理彩子さん:
ただ作業をするだけではなくて、ここにある文化や歴史とかも学べました。理想としては、日本のあらゆるところで、これから蚕糸業がどうなっていくのかを見ていきたいと思っています
フランス出身・セリーヌさん:
日本の工芸品は美しい。フランスに帰ってもこの養蚕業を自分自身で1年に3~4回くらいと、回数を重ねながら、経験と知識を得て進めていきたいと思っています
次の世代へと伝えられた養蚕の今と、その技術。2人が愛媛で得た今回の経験は、日本の伝統をつなぐ大きな力になりそうだ。
(テレビ愛媛)