9月16日、ワールドカップバレー2023が開幕。
“火の鳥NIPPON”の女子代表と、“龍神NIPPON”男子代表のパリ五輪への切符を懸けた、熱き戦いが続いている。
日本開催の「POOL B」で、それぞれ8カ国中上位2位以内に入れば、五輪の出場権が得られる。
戦いのキープレーヤーは誰なのか。また、連戦続く大会の舞台裏で、選手たちはどんな生活をしているのか。
バレーボール元日本代表選手の狩野舞子さんと福澤達哉さんが、「ワールドカップバレーの舞台裏」について語った。
W杯バレー、主な出場国と組み分け
――W杯バレー、「POOL A」~「POOL C」まで分かれています。各POOLに8カ国が参加。この8カ国の中で、上位2カ国が次のパリ五輪出場の切符を得ることができる。日本は今回「POOL B」。レギュレーションが変わったというところが、大きな違いですよね。
この記事の画像(12枚)狩野舞子さん:
今までだと全チームが一緒の会場で、総当たりで戦っていた。
今回は3会場に分かれていて、各組上位2チームが出場権を獲得できる。
福澤達哉さん:
これまで以上に、オリンピックに行くまでの重要な大会という位置づけになっているので、やっぱりそれだけ日本もそうですけど、どの国も目の色を変えてやってくるんですよね。
だから今回、我々も経験したことのない大会なので、どうなるのか期待したいです。
――日本の世界ランキング、女子が8位、男子は5位。
このW杯でオリンピック出場を決められるか?
狩野さん:
同じ「POOL B」にトルコ(世界ランク1位)とブラジル(世界ランク5位)、日本より上のランクが2チームいるんですね。
どちらかには勝たないといけない。もちろんその他のチームにも勝ち進んでいくのが前提ですが、この強豪、特にトルコが今、本当に乗りに乗っているので、勝っておきたい。
福澤さん:
つい最近ヨーロッパ選手権があって、そこでも(トルコは)勝っている。
狩野さん:
一敗でもしてしまうと苦しい展開になってしまう。5連勝してトルコ、ブラジルを迎えるという展開にしたい。
福澤さん:
男子も最後の3戦のセルビア(世界ランク9位)、スロベニア(世界ランク8位)、アメリカ(世界ランク2位)、このあたりが間違いなくオリンピックを決める重要な戦いになってくると思います。
短期決戦で一番何が大事かというと、“波をつかむかどうか”。本当に1戦目から結果によっても日本の盛り上がり方も全然変わりますから。
元日本代表が注目する選手は?
――2人が注目する選手は?
狩野さん:
私はセッターの関菜々巳選手。
バレーボールでセッターは一番“鍵になる選手”。
プレッシャーをかけているわけではないのですが、本当に大きな舞台で伸び伸びとプレーをしてもらえれば、必ず勝ちに繋がると思う。
スパイカーが全員こっち(セッターの方)を向いている、本当にそういう一人が前にいるというポジションなので、セッターの顔とか動き次第でみんなが変わってくる。そういう鏡みたいなところもあるので。
――関選手は普段、どういう方なんですか。
狩野さん:
話していても、すごくクレバーで、本当にみんなのことを見過ぎて気をつかってしまい過ぎる選手でもある。そこをちゃんと自分の持っている部分は押し通す部分もあっていいと思うし、強気で選手と渡り合えたら、すごくいい雰囲気になっていくのかなと思っています。
福澤さん:
本当に魅力ある選手ばかりですが、やはり石川祐希選手。
彼なしには今の日本の躍進というのは語れないと思うので、彼を中心に日本のレベルがグッと上がってきたと言っても、過言ではないぐらい。
彼の貢献度というのは非常に高いなと感じています。
これまで日本人が世界に勝とうと思った時に、私がやっていた時もそうでしたが、フィジカルの差や体格の差であったり、どこか壁を感じていた部分があるんですね。
石川選手がいることによって、彼は世界で結果を残しているので、そこのリアリティーを周りの選手が感じられるだけで、「俺も行けるかもしれない」というところから、若い選手がどんどん石川選手を追いかけるように、力がついてきている。
パイオニア的存在の選手が出てくることで、こんなにチームが変わるのかというぐらい、石川選手の現在の活躍と、キャプテンとしてのキャプテンシーが非常に頼もしいなと思いながら見ています。
「イタズラ好き」「自分のメソッド」両監督の特徴
――チームを率いる監督、女子が眞鍋政義監督。
ロンドン五輪で銅メダルを獲得した時の監督でもあります。狩野さんは一緒にロンドン五輪で闘っていますよね。
狩野さん:
(眞鍋監督は)とにかくイタズラ好きです(笑)。気が付くとイタズラしています。
でも、コミュニケーション能力は高くて、一人一人それぞれの性格を見抜くのも早いし、どう指導していくとこの子は伸びるというのを見抜くのがすごく早い。
その中で私はずっと怒られていた選手だったんですけど(笑)。
――男子は、外国人監督、フランス人のフィリップ・ブラン監督。
福澤さん:
私がよく外国人監督の特徴として感じるのは、“まず自分のメソッド”なんです。
日本人はまずコミュニケーション。チームを見てから、そこにどう上乗せしていくかなんですが、フィリップ監督は「1年で切られるかもしれない、2年で切られるかもしれない」という短期間の中で目に見える結果を出さないといけない。
「オレはこういうバレーボールをするからお前たち理解してやってくれよ」という指示スタンスなんですね。
それが私は今の日本にすごくマッチしたなと思っていて、若手がどんどん出てきたタイミングでもありましたし、経験がないと途中で迷っちゃうんです。
そういう時にチームコンセプトとして監督から「これをやらないと勝てないんだ」という強い意志があると、それにすがれるので。そういうところのリーダーシップと引っ張り上げる力みたいなのはすごく感じました。
選手たちの試合以外の過ごし方
――選手たちは、試合以外の時間をどう過ごしているんですか。
福澤さん:
朝、体を動かしに行って、昼の時間は空きます。
この昼の過ごし方は(選手によって)結構わかれます。散歩したりとか、コーヒー飲みに行ったり。
狩野さん:
私は昼寝をするタイプでした。でも、ホテルの部屋は2人だったりします。
なのでその選手との相性じゃないですけど、リズムの違いというのも全然違うんです。
常に誰かと一緒なので、1人になりたい時間がどうしても出てくるんです。
そこで何をするかというと、長風呂が始まるんです。バスルームで1人でのんびりする、リラックスする時間はすごく大事で、選手はみんな10分でも20分でも、ゆったりお湯に浸かる時間をすごく大事にしていました。
福澤さん:
それでも部屋の相性、大事じゃない?
狩野さん:
大事ですよ!
福澤さん:
私、清水邦広選手と同部屋が多かったんですが、あいつめちゃめちゃ風呂が長いんですよ。
YouTube見ながら1時間とかずっと。大会期間中も汗かいてやるんですけど、ホテルはユニットバスじゃないですか。トイレ行きたくても行けないし!みたいな(笑)。
――食事は自分のタイミングで取りに行くんですか。
狩野さん:
宿舎に着いてからもう各自です。日本用の(食事の)部屋が一応あるので。
福澤さん:
(食事は)ほぼ作業ですよね。
食事を楽しむというよりかは、試合が終わって「疲れた…よしメシ食うぞ」じゃなくて、「よし明日の準備!」みたいな。
狩野さん:
いかに“回復させるか”なので。何をどれだけ食べるとかも考えている選手もいます。
元日本代表選手が語る「W杯」の思い出
――出場したW杯の思い出をそれぞれ教えていただきたいです。
狩野さん:
(2011年のW杯のとき)連戦途中で、ぎっくり腰になってしまったんですよ。その印象しかなくて。
ちょうど半ばぐらいでぎっくり腰になってしまって…本当に苦しい思い出しかないです。
――何のタイミングでぎっくり腰に?
狩野さん:
食事中に前の食器を取ろうとした時に、ギクってなるという…。
あんまりみんなにも言いにくいタイミングだったので。
――練習中とかではないだけに?
狩野さん:
そうですね。次の日突然、「あれ?(狩野選手)いないぞ」みたいになって。
福澤さん:
同じ2011年のW杯、女子は4位で、男子は10位でした。
なかなか世界の壁が高くて…勝てない、勝ち星が取れないという中で、それを何とか変えないといけない、奮い立たせないといけないと思い、音楽を聴いていました。
ホテルから会場行く時に毎回音楽を聴くんですけど、苦しい期間中にサンボマスターの『できっこないを やらなくちゃ』という曲に「あきらめないで、どんな時も~」という歌詞があるのですが、それをひたすらループで聴いていました。
私のすぐ目の前に、その当時リベロの永野健選手がいたんですけど、永野選手も(音楽を聴いていいて)イヤホンから漏れてくる音を聞いていたら、KANの『愛は勝つ』。「信じることさ~」という歌詞で、どっちもメッセージ性が強いなと(笑)。
それぐらい精神が追い込まれていて、何とか気持ち上げようみたいな、そういう思い出があります。
選手の“キャッチフレーズ”、実はテレビで初めて知ることも
――選手たちはこういう報道をどれぐらい見ているのかな?というのは、放送する身としては気になります。
狩野さん:
タイミングが合うと、その日行われた試合を見ることがあって。自分のインタビューを見たりして、「もうちょっとうまく言えたな」と反省もしたり。
福澤さん:
テレビを見て応援してくれていた友達から「今日は良かったね」と直接LINEで入ったりもします。そこで自分の“キャチフレーズ”を知ることも。
狩野さん:
そうですね!最初から知っているわけではないかもしれないです。
――福澤さんのキャッチフレーズは?
福澤さん:
あの時は「空中の支配者」(笑)。
いろいろあるので、どれがどれかちょっと覚えていませんが、そういうのを後になって知りました。
――キャッチフレーズは気に入って自分の中で覚えているものなのか、ちょっと恥ずかしいなって気持ちになるのか。
福澤さん:
付けられた名前によると思います。
清水選手は「世界を砕く“怪物ゴリ”」とかでしたから。もう人じゃないやんって。
狩野さん:
私は「世界に舞う!シンデレラMAIKO」。
中身は全然そんなことなくて、残念だったかもしれないですけど…。
――今年はどんなニックネーム、キャッチフレーズが付くのかも注目ですが、改めてこのW杯を楽しむために、注目するところはありますか。
狩野さん:
試合の中でも選手のバックボーンや、いろいろな紹介VTRもあると思うんです。
そういうのを見てもらって、選手のことを知っていただけると、もっとバレーボール、ワールドカップを楽しんでいただける。そういうところも見逃さずに見てほしいなと思います。
福澤さん:
男子の場合は平均身長が世界のトップと比べると、本当に10センチぐらい差があります。
身長が高い相手に勝つためには、全員がどれだけカバーをして最後の1点を取りにいくか。「粘って、粘って、粘って、勝ち切る!」という、この部分にぜひ見ている方も気持ちを乗せて、一緒になって戦ってほしいなと思います。
(週刊フジテレビ批評」9月16日放送より/聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)