9月9日からインドでG20(主要20カ国・地域)サミットが行われた。首脳宣言の採択はウクライナをめぐる対立で難航が予想されたが、開幕日に全会一致で採択。一方、中国の習近平国家主席は欠席した。

BSフジLIVE「プライムニュース」では佐藤正久元外務副大臣と専門家を迎え、中国の外交戦略とその背景について議論した。

G20欠席の習近平主席 アメリカでのAPECには出席するか

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新美有加キャスター:
G20サミットの開幕初日に採択された首脳宣言のポイント。ウクライナ侵攻に関しては「領土獲得を目的とした武力行為は控えなければならない」「核兵器の使用や威嚇は許されない」など、ロシアに配慮し名指しの非難を避けた。

佐藤正久 元外務副大臣:
インド・モディ首相が宣言を出すことに相当こだわり、G7側もサポートした結果。ロシアと中国はプーチン大統領と習近平主席が来ず迫力不足。特にグローバルサウスに寄り添う部分で、G7広島サミットでの成果を相当程度流し込むことができた印象。グローバルサウスのトップになりたいインドにとっては、今回G7とタッグを組む形で非常に良いG20になったと思う。

インド モディ首相
インド モディ首相

反町理キャスター:
習近平主席はなぜ今回のG20サミットを欠席した?

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
そこはわからない。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
やはりアメリカと会いたくなかったのだと思う。同じ会議に出席しているのに会わないという選択肢は厳しいので、行かない方がまだいいという判断では。

反町理キャスター:
習主席は、11月にアメリカで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)には出席するか。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
現状ではまだ、可能性はあるが必ず行くとは言えない。米中関係は実務的に淡々と積み上げていく感じに見える。結局、ある程度お互いに何か成果が発表できる前提があって会うことになるのでは。

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
行く可能性が高いと思う。中国は基本的に、アメリカとのこれ以上の関係悪化は望まない。来年の大統領選挙キャンペーンの前に関係をある程度軌道に乗せたい。

佐藤正久 元外務副大臣:
習近平としては、国際会議の場でG7など皆から批判される状況は避けたい。議長国のアメリカがどういう雰囲気を作るか。習近平が来れば勝ち。そのために今、閣僚が往来している。

「地図による現状変更」 各国の反発も含め中国にとっては“当たり前”

新美有加キャスター:
中国が2023年版の「標準地図」を発表。インドの係争地域に加え、中国が南シナ海周辺の領有権主張に用いる独自の境界線「九段線」を拡大した「十段線」が記されている。これに近隣のフィリピン・マレーシア・ベトナム、そして台湾も反発。台湾の東側では、日中中間線を越えて一部が与那国島までかかっており、尖閣諸島の島々も中国側の呼び方で表記。

佐藤正久 元外務副大臣:
本当に厚かましい。この「地図による現状変更」は今回が初めてではなく、以前から自分に都合がいいように書いている。ただ、今の習近平体制の弱点は横の連携を取れていないこと。この地図は毎年8月下旬に中国の自然資源部という役所が出しているが、今回もASEAN首脳会議やG20があることに関係なく自動的に出した。当然、各国が反発する。外交部とのすり合わせがあれば、たぶん2週間遅らせていた。

反町理キャスター:
G20のタイミングでこの地図を出せば、それは各国から文句が出る。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
中国としてはたぶん、当たり前のことをやったと思っている。マレーシアなどからの文句も、いつものことだと。

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
毎年8月に出しており、配慮して後に出せば逆に小細工だと言われる。中国としては、いつものように出している。しかも内容も過去から変わっていない。

処理水問題を政治的に使う非科学的な中国 解決への道筋は

新美有加キャスター:
東京電力福島第一原発のALPS処理水の海洋放出に、中国が激しく反発。駐日中国大使館のホームページに掲載された意見に対し、日本側は経済産業省と外務省のホームページで回答。「トリチウム以外の他の核種」について「処理水内の核種は29種類、選定方法はIAEAの包括報告書で評価されている」。「ALPS処理水に含まれる60種類以上の放射性核種の処理技術」に対し「60種類以上という科学的根拠がない、多くの核種は検出されないほど濃度が低い」。「環境や人体に被害をもたらす可能性」に対しては「海洋拡散や核種の生物濃縮や長期蓄積を考慮した国際的な基準およびガイドラインに沿ったもの」と説明。

佐藤正久 元外務副大臣:
日本側の反論はIAEAとタッグを組んで行っており、IAEA以外のアメリカ、フランス、韓国などの専門家も入った見解。揺るがない。だが中国の場合、科学ではなく政治的外交カードとして捉えており、かみ合うわけがない。中国は、科学的にほとんど根拠のないことを言うのが当たり前。政治的な部分を含め知恵を出さなければ、中国が振り上げた拳は簡単には下りないと思う。

反町理キャスター:
こちらも譲歩が必要?

佐藤正久 元外務副大臣:
違う。こちらも拳を上げればいい。日韓の問題でも、その状態からお互いに下ろしていった。

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
理不尽ないちゃもんをつけているのではない。普通の冷却水と違って、溶けた炉心からもう出てきたものへの不安感を全世界持つのは当たり前。韓国では、議会で多数を占めている野党の党首がハンガーストライキを10日間もやった。周辺諸国の声を含め世界の声に誠実に対応していないと感じる。中国は対話を拒否しているわけではない。

佐藤正久 元外務副大臣:
(朱氏の話は)全然科学的ではない。実際に中国の原発からも処理水が出ており、放射性物質も入っている。今回、中国に近いラオスですら日本の放出を理解すると言った。カンボジアも、危険ではないから日本からの水産物を止めないと首相自らが言った。インドネシアも理解をすると。科学的に説明したら、ほとんどの国が科学的根拠に基づき理解している。

新美有加キャスター:
9月7日の中国・人民網の報道では、「福島原発汚染水の海洋放出に関する国際監視メカニズムへの参加を中国が拒否しているというのは虚偽の情報」「日本側がIAEA事務局に依頼し、日本側が採取した核汚染水サンプルの分析と実験室での比較を行ったが、中国側は招待されなかった」。一方、当番組の取材に対し資源エネルギー庁は「中国に対し、外交ルートを通じて複数回に渡り専門家などの視察を打診済み」「これまでに複数の国や地域からの視察の受け入れを公表」。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
日本側は自信がある。ならば、中国を含めた第三者が独自にサンプル調査をして結果を公表できるメカニズムを作ればいい。中国への水産物輸出を復活させたいならそれが必要。だが、「中国は国際的に孤立してますよ、勝手に言っててください」でよいならそれで終わりの話。そうではなく日本側がWTOに提訴するなら、それはそれでいい。

新美有加キャスター:
8月31日、中国は日本を原産地とする全ての水産物輸入を停止するとWTOに通報。対して日本が9月4日、これは受け入れられず即時撤廃を求めるとWTOに書面で提出。提訴するという話も出ている。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
中国はレアアースの問題で敗訴したとき、WTOの決定に従っている。WTOで話すのはアリ。

佐藤正久 元外務副大臣:
日本が1年経ってもWTOに提訴しないのはあり得ない。ルールに基づいてやればいい。提訴は2段階あり、まず協議要請を求めて、解決できないときに小委員会の設置を求める。今はまだ協議もしていない。少なくとも協議要請ぐらいは出し外交ルートで対話を加速すれば、ある程度解決に向かうこともできる。 

日中関係改善の鍵は、米中関係の改善にあり

新美有加キャスター:
ASEAN首脳会談での岸田総理との立ち話の中で、中国の李強首相が「歴史を鏡に未来に向けて両国関係の改善と発展を推進するように希望する」と言及。

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
15分間の立ち話、短い時間ではない。希望を込めて言えば、少し前進があったかなと。

反町理キャスター:
日本側の発表では、処理水の問題について科学的な根拠に基づいた対応を求め、強い申し入れをしたとなっているが。この「歴史を鏡に未来に向けて」とは? 

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
全般的に、日中関係の安定を大事にしている。処理水の問題を言ってこなかったことは重要なメッセージと思う。日中共同声明にもある言葉だが、その当時に立ち返ろうとの意味も。

佐藤正久 元外務副大臣:
中国は実際、この前に処理水のことを言っていたのだが、この立ち話を岸田総理がASEAN+日中韓の会議の前に取りに行ったのがよかった。これがその後の会議の流れを決め、処理水のことで日本が名指しされることがなかった。

反町理キャスター:
李強首相と話していく先に、日中首脳会談はあるか。

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
前進の一環になると思う。中国はやはりアメリカ・西側との関係を重視しており、APECまでにいろいろ努力して、次に日中首脳会談に繋げていくことは十分できると思う。

反町理キャスター:
すると、米中関係が進まない限り日中関係は進まないか。

佐藤正久 元外務副大臣:
基本的には、米中関係の延長線上で日中関係を見るのは普通。一方で中国は、分野によっては少しでも日本を離反させたい。ただ日本には日本の利益がある。うまく取るものは取り、守るべきはしっかり守る。

(BSフジLIVE「プライムニュース」9月11日放送)