東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出開始から2週間余り。中国政府が水産物の輸入禁止など反発を強める中、訪日を敬遠する観光客も出始め、少しずつ影響が広がっている。
富山県内の観光関連の事業者からも、問題の長期化を懸念する声が聞かれた。

処理水への批判続ける中国

8月24日に開始された、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出。政府や東京電力がこれまでに行った周辺海域でのモニタリング調査では、放射性物質であるトリチウムの濃度が、いずれも基準値を下回っていることが確認され、科学的に安全であることが示されている。

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一方、中国政府は、処理水を「核汚染水」と呼び海洋放出を批判していて、依然、日本産の水産物の輸入停止措置を継続している。

こうした中国との対立は、県内の経済にも影響を及ぼしている。

富山空港と中国の上海を結ぶ国際定期便は8月8日に運航が再開されたが、富山市の旅行会社「ニュージャパントラベル」によると、富山を訪れるツアー参加者の1割にキャンセルが出ている状況だという。

中国人が口にする“水産物への不安”

9月9日の便で富山空港を訪れた人たちに話を聞いた。

中国人観光客:
処理水の放出は国内でも物議がある。反発する人も多い。少しドキドキして日本に来た。「こんなときに日本に行くのか?やめておけ」と止める友人もいたさ

中国人観光客:
日本に愛情を持っていて、日本人はすごく友好的だと思う。ただ正直に言って、水産品については食べる勇気が必要だと思う

中国人観光客:
専門家ではないから分からないが、報道では処理水は体に有害だと聞いている。以前は日本の水産品を食べていたが、しばらくは食べないかな

中国人観光客:
これは政治の問題。普通の人はあまり考えていない。でも1週間、日本料理の店に行くなら、以前は海鮮をよく食べたが今はあまり食べない

中国人観光客:
処理水は人間に良いものではない。日本政府はもっと慎重にみんなの意見を聞いた上で処理した方がいいのではないか

中国人観光客からは、処理水放出に対し不安の声が多く聞かれた。

「信頼取り戻すには時間がかかる」

観光への消費行動にも変化が出始めていて、県内最大の温泉街「宇奈月温泉」にも、この影響は少なからず広がっている。

旅館「ホテル黒部」では、2023年5月の新型コロナウイルスの5類移行後、宿泊する人に占める海外旅行客の割合は約1割となっているが、処理水の海洋放出後、中国本土に住む人の利用はたった2人にとどまっていた。

ホテル黒部・中島ルミ子女将:
上海便でツアーで来る方々が富山をくまなく観光するイメージで、私たちも期待はしていたが、(処理水の)問題があってからはツアーの話も聞かないので、影響もあるのではないかなと思っている

実際、取材に訪れたこの日も、中国本土の人の利用はなかった。
一方で、ほかのアジア諸国からの利用にはほとんど影響は見られないという。

香港からの観光客:
私たちは心配しない。日本政府を信用している

香港からの観光客:
詳細なデータを公表しているし隠していない。だから心配はしていない。だから日本に来た

この旅館では、コロナ禍前の秋の行楽シーズンには、中国本土の利用者が海外旅行者の1割から2割を占めていただけに、問題の長期化を危惧している。

ホテル黒部・中島ルミ子女将:
日本のイメージダウンにつながっているところがある。とてもおいしい食材がこれから増えてくるし、いろんな観光地がにぎわってくるいい時期なので、気にせず本当は思いっきりここで楽しんで、いい思い出を作っていただけたらと願っているが、一度ついてしまった嫌なイメージは、なかなか信頼を取り戻すまでに時間がかかると思う。早め早めでいろんな対策をしていただいて、きちんとした対応を国としてもしていただけたら

処理水の問題を巡って、岸田首相は先日、ジャカルタとインドで開催された国際会議に出席し、その成果について「理解がいっそう広まったものと感じている」と語っている。

一日も早く事態が収束することが望まれる。

(富山テレビ)

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